◆ 派遣社員と市場原理:  nando ブログ

2008年07月06日

◆ 派遣社員と市場原理

 派遣社員がひどい境遇にあるという。ピンハネ率は 4〜6割。
 では、いったい誰のせいか? その真犯人は意外なところにいる。

 ──

 派遣社員境遇はひどい、という特集記事があった。
 ピンハネ率は 4〜6割。1日 10時間労働で日給 6500円という例も。いきなり退職届を書かされたり、契約以外の勤務形態をさせられたり。昼勤のはずが夜勤になって、生理が止まった女性もいる。引っ越し業界では、殴る蹴るの扱いを受けることもある。どうも正社員も酷使されていて、うっぷんがたまっているという。
(朝日・朝刊・特集面 2008-06-20 )

 特に、日雇いだと、ひどい扱いらしい。「いつでもクビにできる」というわけで、人間扱いされないようだ。「使い捨て労働力」として、ロボット並みの扱い。「壊れたら捨てればいいさ」という感覚のようだ。

 ──

 奴隷以下ですね。ひどいものだ。では、いったい誰のせいか? 責任を考えると、容疑者は、次の通り。
  ・ 派遣会社
  ・ 派遣先の会社
  ・ 政府

 しかし、このいずれも、真犯人とは言いがたい。理由は次の通り。

  ・ 派遣会社

  …… 単にピンハネしているだけ。儲けているだけ。これは、ずるいとは言えるが、違法ではない。単に「状況に乗じて、非倫理的なことをしている」だけだ。比喩的に言えば、「合法的な猫ババ」である。ずるいことはずるいが、「悪」ではない。

  ・ 派遣先の会社

  …… これも同様だ。安価な労働力があるから、それを利用するだけだ。いやなら来なければいいのに、「ひどい境遇でも雇ってくれ」という労働者がいるから、雇っているだけだ。比喩的に言えば、「泥棒をしてくれと頼まれたから泥棒をする」というようなものだ。やっていることはよいことではないが、本質的な犯人ではない。

  ・ 政府

  …… 政府は、このような状況を作り出しているという意味では、犯人である。労働者が厭々ながらも、悪しき状況に進まざるを得ないように、政府が状況を作り出しているからだ。
 しかし、である。政府は、犯人の一部かもしれないが、主犯ではない。なぜなら、政府にこの行動を指示しているのは、別の誰かだからだ。では、それは誰か? 
 それは、経済学者である。特に、古典派経済学者だ。代表はフリードマン。そして、その影響は、経済学界のほぼすべてに渡る。日本銀行や財務省はほぼ彼らに牛耳られている。大学の経済学部も大半がそうだ。そして、彼らの主張は、こうである。

 「『市場原理』で経済はよくなる。優勝劣敗で、優者が増えて、劣者が減る。結果的に状況は改善する」
 「労働市場でも同様だ。失業を改善するには、労働価格(賃金)を低下させればいい。賃金が低ければ低いほど、失業は改善する。そして、どんなに少なくても、賃金があれば、失業よりはマシである。その分、状況は改善していることになる。賃下げこそ、不況脱出の方法だ」


 これは、「価格調整による需給均衡」という発想だ。その根源は、「市場原理」にある。こうして、市場原理主義の主張がのさばるようになる。

 ──

 では、その結果は? 次のことだ。
 「失業するよりはマシだ、ということで、賃金がどんどん低下する。労働条件(勤務時間や待遇)もどんどん悪化する。」
 「それでも、失業よりはマシだ、ということで、我慢しなくてはならない。人々は、時給 100円しかもらえないとしても、『賃金ゼロよりマシだよ。飢え死にしないで済むだろ』と言われて、感謝しなくてはならない」

 そして、これがすなわち、ワーキングプアという問題だ。最低賃金以下の苛酷な労働環境。それでいて、「おまえたちはそれに感謝しろ。働かせてやっているんだ。ありがたく思え」と言われる。

 こういうことは、政府の政策が失敗したから、こうなったのではない。もともとこうなることをめざしてきたのだ。あえてそうなろうという方針を取ったから、いつまでたっても、ずっとそういう状況が続いている。
 現状は蟻地獄のようなものだ。だが、その理由は、蟻地獄そのものにあるのではない。自分自身にある。「そこから脱しよう」という政策を取れば、そこから脱することができる。しかし、「そこに入ろう」という政策を取れば、そこに入ることになる。……あえてそういうことをなそうとしている意思が、根源なのだ。
 そして、そういう意思を取らせているのは、経済学者なのである。

 ──

 ここまで来れば、問題の本質はわかる。
 現実の悪しき状況をもたらしているのは、派遣会社や勤務先会社ではない。政府である。ただし、政府は、悪しきことをなそうとして悪しきことをしているのではない。良いことをなそうとして悪しきことをしている。そこには「錯覚」がある。そして、その錯覚をもたらしているのは、経済学者(古典派経済学者)である。
 彼らは誤った学説を唱える。「市場原理で状況は改善する」と。そして、その結果は、どうなるか?
 「優勝劣敗」ということは、企業においてなら成立する。「優秀な企業は成長し、劣悪な企業は退場する」というふうに。
 しかし、「優勝劣敗」ということを、人間において成立させると、どうなるか? 「優秀な社員は高給を取り、劣悪な社員は低賃金になる」というふうになるか? いや、違う。まさしく、優勝劣敗が起こる。「優秀な社員は高給を取り、劣悪な社員は退場する」というふうになる。
 ここで、「退場」とは、「人間としておしまいだ」ということだ。「死ね」というのに等しい。そして、それは、不思議ではない。「企業が退場する」とは「企業が倒産する」ということだ。「人間が退場する」とは「人間が死ぬ」ということだ。具体的には、「餓死」などである。そして、「餓死」に比べれば、どんなにひどくても、ワーキングプアの方がマシだ。だから、「ワーキングプアは、現状をありがたく思って、感謝しろ」というふうになる。
 このことは論理的にまったく間違っていない。間違っているのは論理ではない。根源だ。つまり、「市場原理」だ。これを(企業でなくて)人間に当てはめれば、当然ながら「劣った人間は死ね」というふうになる。
( ※ これは不思議ではない。進化論者でも、自然淘汰を盲目的に信じている人々は、こういう発想をする。「劣った人間は死ね。そうすれば人類は進化する」というふうに。)

 「市場原理」は、絶対的な原理ではない。それはある限られた状況で、ある限られた範囲で、成立するだけだ。すなわち、次のように。
  ・ 好況のとき
  ・ 企業について

 一方、現状では、次のようになる。
  ・ 不況のとき
  ・ 労働者について

 つまり、適用範囲が、まったく間違っている。なのに、そのことに気づかないまま、無理やり市場原理を当てはめようとする。その結果が、ワーキングプアだ。

 ──

 こうしてわかっただろう。現状は、政策に失敗したのではない。あえてそうなるように、政府が行動しているのだ。そして、その理由は、経済学者がそうするようにと推進しているからだ。
 「市場原理で状況の改善」
 「失業を改善するために、労働者の賃金を下げよ」
 というふうに。
 物事の根源は、誤った経済学(古典派経済学)にある。そのことに気がつかないという点では、政府も国民も同罪である。

 だから、国民は、政府を詰るだけでは済まない。「何とかしてくれ」と神頼みのようなことをしても仕方ない。むしろ、「こうするべし」と政府に指示するべきだ。「誤った方法(市場原理主義)でなく、正しい方法を取れ」と政府に指示するべきだ。……そして、そうしない限り、国民がいくら不幸になっても、国民もまた同罪なのである。そもそも、政府というものは、国民自身が選んだものであるからだ。

 ──

 ここまで来れば、物事の本質もわかる。
 悪いことをしているのは、政府だ。政府にそれをやらせているのは、それをやれと教えている経済学者だ。そのせいで、国民は、ひどい目に遭う。
 しかし、である。国民もまた、同罪なのである。なぜなら、国民は、その状況を正そうとしないからだ。つまり、国民は、自分で自分の首をくくっているのである。……こうしてわかるだろう。「真犯人は国民自身だ」と。

 そして、そこから脱出する道は、ただ一つ。国民が真実を知ることだ。次のように。
 「古典派経済学(市場原理主義)は、間違いである。そんなことをすれば、状況は改善するどころか、悪化する。地獄に嵌まり、そこから抜け出せなくなる」
 「正解は、マクロ経済学である。国民や企業の一人一人が努力することではなくて、政府が単に『総需要の拡大』という方法を取ることだけだ。簡単に言えば、大規模減税をすることだけだ。」


 ──

 政府は今、「財政再建のために増税」という方針を取ろうとしている。これは、地獄から脱するどころか、ますます地獄を深く進もうという策だ。(総需要をさらに縮小しようとする。)
 そして、そのことに気づかない国民こそ、問題の根源にある。

( ※ ただし、その真実を教えないマスコミにも、責任の大半はある。……といっても、国民は、今はインターネットで、正解を知ることができる立場にある。)



 [ 付記1 ]
 悪しき現実の原因は、経済学者にある。いわゆる古典派経済学者は、みなそうだ。
 特にひどい例を示す。ネットでも有名な「池田信夫」の言説だ。
 日雇い派遣を禁止したら、日雇い労働はどうするのか。……建設業や荷役作業など、単純労働の多い産業は大打撃を受け、失業者があふれるだろう。
 直接雇用を増やすために必要なのは、正社員の雇用コストを非正規社員の2倍にしている社会保険などの義務を廃止し、解雇要件を法的に明確化して司法による事実上の解雇禁止をなくし、正社員と非正規社員の差別を撤廃して労働需要を増やすことだ。

( → 該当ブログ
 これは形式的には正しい。「正社員の雇用条件を派遣社員のように自由に流動化すれば、派遣社員が減って、直接雇用の正社員が増える」ということは、まさしく成立する。
 では、そのことで、状況は改善するか? いや、改善しない。ここでもたらされる結果は、
 「派遣社員が正社員になって、恵まれた状況になる」

 ということではなくて、
 「正社員もまた現在の派遣社員のように、ひどい状況になる」

 ということだ。
 つまり、悪のまじった状況が善なる状況に統一されるのではなく、善のまじった状況が悪しき状況に統一される。これでは、本末転倒だろう。
 そして、論者は、そのことがわかっていない。単に「雇用を流動化すれば状況が改善する」と思い込んでいる。古典派経済学者の陥りやすい罠。

 正しい認識を示そう。
 現状では、マクロ的に経済全体が縮小している。こういう状況では、経済規模に比べて、労働人口が過剰である。100の生産量しかないのに、労働人口は 120の生産をできるだけの労働人口がいて、労働力が過剰だ。こういう状況では、いくら賃金を下げても、労働力は過剰なままである。また、賃金を下げれば下げるほど、マクロ的に経済規模は縮小するから、賃下げをすればするほど、労働人口はかえって余剰になる。(経済規模が 90に縮小するのに、労働人口は 120の分がある。)
 ここでは、企業は、徹底的に賃金を下げようとする。とすれば、正社員の賃金もまた、いくらでも下げられるのだ。少しぐらい解雇したって、かわりの人員は中途採用で安く雇用できるからだ。
 とはいえ、そうしたくても、そうできない。なぜなら、労働法によって、正社員を理由なく勝手に解雇することは禁じられているからだ。それゆえ、正社員の待遇は守られている。つまり、「経済の自由さを制限することで、経済がさらに縮小することを、阻止する」ということが可能になっている。
 ここでは、経済の自由を阻害することが、状況の悪化を食い止める防波堤となっているのだ。そして、そのことは、「市場原理」を信奉する古典派経済学からは理解できず、「所得と総生産のスパイラル」を分析するマクロ経済学によってのみ理解される。
 池田信夫のような古典派バリバリの思想は、日本経済を奈落の底に突き落とそうとするものである。
 たとえて言おう。崖から落ちそうになって、柵に守られた人がいる。彼は安堵する。「ああ、柵のおかげで、命が助かった」と。しかし、そこに古典派経済学者が出現して、「制限をなくして自由にすることで状況は最適化されます」と主張して、柵を取り外した。そのせいで、柵に守られなくなった人は、崖から落ちて、自由落下していった。それはたしかに制約をなくした自由落下だったが、そのせいで、彼の生命は失われてしまった。すると古典派経済学者は満足した。「彼は死という状況で安定した。これで状況は均衡した。均衡こそ目的なのだから、これは最適状況だ」と。
 要するに、古典派経済学者というのは、日本経済全体を破壊して地獄にしようとしているのである。「自由」という名の神を一方的に信奉することで、それによるすべてを是認する。結果として、一人一人が死んでしまおうが、ちっとも気にしない。
 これはつまり、テロリストの発想だ。「神を信じて、各人の命を犠牲にして、それで満足する」という。
 今の日本は、テロリストに牛耳られている。それでだけではない。テロリスト(古典派経済学者)の言葉を、たいていの人々が信じている。……その意味で、日本を破壊してるのは、テロリストだけでなく、テロリストを信奉する日本人全体でもあるのだ。


 [ 付記2 ]
 このような悪化を阻止する方法の一つとして、「労働組合」といものがある。通常、労働組合が正常に機能していれば、企業側の横暴は許されない。
 しかしながら、現状では、労働組合というものは非常に弱体化している。ネット時代には人と人との結びつきが弱体化しているから、仲間内での共同行動を取りにくいのだ。(知らない者同士での共同行動ならば取りやすいが。)
 特に、派遣社員は、労働組合というものを結成しにくい。「短期労働者」ないし「非常勤労働者」ならば、組合を結成して、法的に守られることもできる。だが、派遣社員は、派遣会社に対しては労働組合を結成できるが、勤務先に対しては労働組合を結成できない( or しにくい)。……そして、これこそが、企業が派遣社員を好む理由でもある。どんなに虐待しても、労働者は何一つ文句を言う資格がないからだ。組合によって守られないから。
 しかも、どこかの古典派経済学者は、労働者が労働組合を結成することを、「経済の自由を阻害することだから好ましくないことだ。そんなことをすれば雇用先が減って、かえって失業が増える」と思ったりする。……このようにして、企業が労働者を酷使する環境が整う。
 日本中で、名ばかり管理職による過労死が続出したり、鬱病による自殺者が莫大に出たり、労働者は地獄の状況にある。そして、そういう状況をあえてめざそうとしているのが、古典派経済学者なのだ。

 古典派経済学者のおかしいところは、ちょっと歴史を振り返れば、すぐにわかるはずだ。
 日本はこれまでずっと、古典派経済学者の方針に沿って、経済政策を続けてきた。
 「構造改革、規制緩和、経済の自由化、労働の自由化」
 「金融の自由化、証券の自由化」
 「貨幣量の拡大、低金利政策」
 こういうことをずっとやってきた。しかし、その結果として、この 17年間、状況は悪化するばかりだった。それが現実だったのだ。何をやっても、すべては無効または逆効果だったのだ。あらゆる古典派の政策はそうだった。
 一方、ただ一つやらなかった政策がある。それは「マクロ経済政策」だ。つまり「大幅減税」だ。むしろ、それとは逆のことをやって来た。「増税」という形で。……そして、なぜそれをやらなかったかと言えば、古典派経済学者が「減税なんかやっても無駄だ」と反対し、「むしろ増税による財政健全化こそ大切だ」と主張してきたからだ。
 要するに、古典派経済学者は、病人に対して、薬を飲むことを拒否させ、かわりに毒物ばかりを与えてきたのだ。そして、そのことに気づかないで、相も変わらず、毒物を薬だと信じて呑み続けている愚かな病人が、国民なのである。

 ──

 [ 注釈 ]

 池田信夫の名を上げたが、特に彼を批判したいわけではない。彼はたまたまネットでは有名だから、ここで取り上げただけだ。特に彼だけを非難するには当たらない。彼の主張は、彼だけの主張ではなく、古典派経済学者に共通する主張だからだ。
 どちらかと言えば、非難されるべきは、政府関係の古典派経済学者だろう。とはいえ彼らは、雄弁ではなく無口だから、批判のしがいがない。  (^^);




 【 関連項目 】

 本項では、あらましだけを述べた。より細かい事情(市場原理との関係)は、本ブログの他の項目を参照。
   → 本ブログの「経済」カテゴリ
   → 経済学講義 (学問的に体系的に記す)
posted by 管理人 at 14:59 | Comment(2) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
派遣労働者の待遇悪化のことで感じたことですが、介護保険制度等の改正で、介護ビジネスの環境が厳しくなった背景には、低賃金の派遣労働者が不可欠の大手製造業の根回しもあるのではと思いました。介護ビジネスが成功して、魅力的な職場ができてしまうと、低賃金の派遣に人が来なくなり困ってしまうので、介護の方も低賃金にして労働力が定着しないように手をまわした、なんてことはないでしょうか。
Posted by 一読者 at 2008年07月07日 10:06
今の不況は、デフレ=供給超過ですからね。
ものが買われなくなってどんどん価格が下がってるという状況。

つまり、人々がものを買わなくなったことがデフレの原因。

よって、対処としては人々がものを買うように仕向ければよい。

そのためには、国民が財布の紐を開くような施策が必要である。

今の国民は、感覚が非常に贅沢となっているため
新製品・高品質といった程度では見向きもしない。
何らかのおトク感を出さないと、お金を出さなくなってしまいました。

現在、好調な売上を出している企業は例外なく
「クーポン」「ポイント還元」というものを用意しています。

しかし、これはあくまで企業毎の個別努力の結果に過ぎません。

国としても、大規模な「クーポン」「ポイント還元」制度を実施すべきですね。

以前やっていた「エコポイント」なんかもよかったですが
あれは贅沢品が対象でした。

ゆえに、商品に限らず課税される「消費税」を「マイナス5%」にしてみることで
国民の中の「おトク感」を増し、財布の紐を開かす。

これで、税率は下がっても税収は上がるという現象が間違いなくおきます。

たとえば、上記のようなドラスティックな対策こそ、今の政府には必要なんです。

古典派とか、マルクス派とか、マクロ派とか
そういう理論中心主義に閉じた思考は現実を見えなくさせます。

経済は生き物ですから、局面によって哲学は変わります。
よって、あらゆる学派の考え方を深く理解しておく必要があると同時に
新たな現実に対して、第三第四のアプローチを検討する発想力も必要となります。

もう21世紀なんですから、20世紀の理論から進化した新しい経済学が必要だと思います。
Posted by そうそう at 2010年11月22日 15:54
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