・ 不動産バブル
・ 金融工学
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米国は金融危機なぜ起こったか?
これについては、読売新聞(朝刊・2面 2008-09-17 )に適切な解説記事があった。本項はそれを踏まえている。
まず、現象としては、金融危機がある。銀行のリーマンが破綻したり、保険会社 AIG が破綻しかけて公的資金を注入されたりした。では、なぜか? それぞれの個別会社が不良系をしたからか? 違う。多くの会社がそろって経営悪化した。では、なぜ? 理由は、サブプライムローン危機だ。これの相場が暴落したせいで、その債権を持っている会社は大幅な評価損をこうむった。
ではなぜ、サブプライムローン危機が起こったか? それは、簡単だ。かつての日本と同じで、「バブル」である。価値のないもの(不動産)を、価値があるかのごとく見せかけて、高値で取引をした。価格がどんどん上がっているうちは、資産を転がしながら大幅な利益が得たが、やがて価格が上がらなくなると、バブルがはじけた。……この点は、日本の「土地バブル」「株バブル」とまったく同様である。
要するに、今回の危機は、「バブルの破裂」という言葉で要約できる。
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ではなぜ、米国では「バブルの破裂」が起こったか? 日本でもすでにバブルが起こっていたのに、なぜ米国は同じ轍を踏んだのか?
実は、米国では、日本とは少々異なった事情があった。それは「金融工学」(デリバティブなど)が介在したことだ。
日本の場合は、単に大量の資金が金融市場に投入されただけだった。これから生じたバブルは、きわめて単純な「資産インフレ」である。(よくある「商品インフレ」とは異なる。)
米国の場合は、大量の資金がありすぎたというよりは、「金融工学」というものが使われた。これは、「だます」ためのテクニックである。そのせいで、価値のないものを価値があるかのように見せかけた。
日本の場合は、人々がそろって、「永遠の地価上昇」「永遠の株価上昇」という幻想を見た。誰かがだまそうとしたというよりは、一億総白痴ふうに勝手に幻想を見ていた。ここには特に詐欺師はいない。(証券会社は詐欺師ふうにうまい言葉を語ったが、これは毎度のことだから、いちいち騒ぐほどのことはない。)
米国の場合は、経済学者(の一部)が「金融工学」というものを使って、積極的にだました。「金融工学を使えば、富を生み出せる」というふうに、人々をだました。その文句を最も上手に語った経済学者は、ノーベル賞財団をもだまして、ノーベル賞を受賞してしまった! かくて、ノーベル賞を受賞した詐欺師の言葉にコロリとだまされて、人々は金融工学を使いながら、「どんどん利益が出るぞ」と思い込んだ。……こうして、サブプライムローンによる資産インフレが発生した。
しかしながら、「金融工学」というものは、富を生み出さないのだ。それはしょせんは、リスク管理にすぎない。リスクを減らすように見えるが、それは損を減らすことを意味しない。単に危険を分散させるだけだ。そして、その本質は、「ゼロサム」である。いくらリスクを減らそうと、投資家個人の損の可能性が減るだけであって、市場全体の損の総額が減るわけではない。もちろん、利益の総額が増えるわけでもない。
つまり、お金というものは、お金だけをいくらいじっても、富は増えないのである。硬貨を紙幣に換えようが、お札を株に換えようが、株を社債に換えようが、社債を小口の土地証券に換えようが(≒ サブプライムローンにしようが)、そのようなことをいくらやっても、富の総額は増えはしない。富の形態が変わるだけだ。にもかかわらず、「富の総額が増える」と見せかけることがある。それがつまりは、「金融工学」だ。
金融工学の本質は、だますことである。うまく数字を使って、人々を数字で幻惑して、ありもしない富をあると見せかけることだ。「数字を操作するだけで富を生み出せますよ」と信じさせることだ。
サブプライムローンでは、この原理をうまく使った。次のように。
「低所得者に金を貸すとき、融資の金利は、最初は低金利で、後に高金利にする」
このことで、低所得者はこぞって融資を受けて、不動産を買った。人々が不動産を買ったから、不動産価格が上昇し、人々は得をしていると信じ込んだ。(まさしく不動産バブル。)……しかしながら、数年後、融資の金利が高金利になった。とたんに、人々は高金利を払えなくなり、返済が滞り、そろって「不良債権」と化してしまった。日本では大会社が不良債権になったが、米国では多数の低所得者が不良債権となった。こうして、融資を受けた人々が不良債権となって破綻し、不動産価格も暴落した。(まさしく不動産バブルの破裂。)
なお、ここでは、金融工学が使われた。次のように。
「一人の低所得者に融資するのは危険だが、多数の低所得者に融資すれば危険ではない」
つまり「リスクの分散」である。こういうことは、個々の場合には適用されるが、全員がそろって悪化するという場合には適用されない。そして、そういう悪夢のようなことが、まさしく実現してしまった。……それが今回のサブプライムローン危機だ。
そして、そこから派生する形で、銀行や保険会社の金融危機が起こった。これらの会社は、サブプライムローンの債権をたくさん持っていたが、それらの債権が暴落して、多額の損失をこうむったからだ。
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これが、今回の金融危機の本質だ。
[ 付記1 ]
これは、あらかじめ予想されていたことである。読売の記事では、「前もって誰も予想できなかった」などと述べているが、とんでもない。クルーグマンが、「米国の不動産バブル」という話題を何度か取り上げたことがある。
また、私だって、前から予想して警鐘を鳴らしていた。具体的には、次のページを見てほしい。本項に似た内容のことがすでに記してある。
→ 泉の波立ち 2007年10月18日
[ 付記2 ]
読売新聞の記事(朝刊・2面 2008-09-17 )は、次の通り。
金融「錬金術」の虚構 編集委員 安倍順一以上では、全文を引用した。これは、形式的には著作権法違反に該当するが、次の理由で許容されると考える。
米大手証券リーマン・ブラザースの経営破綻は、昨年夏まで米景気を先導し、世界的にもて囃された金融工学が見せかけの「錬金術」にすぎなかったことを浮き彫りにした。
考えてみれば、サブプライムローン(米例所得者向け住宅融資)問題とは、おかしな話だった。
もとをたどれば、単なる住宅ローンである。それもプライム(優良顧客向け)でなくサブプライム、つまり信用度の低いローンだ。普通なら、融資担当者は借り手の収入や返済能力を十分吟味しないと、貸さないだろう。
ところが、金融と情報技術(IT)を組み合わせた金融工学を駆使して、サブプライムローンの返済を受ける権利(債権)を切り分けたり、他の債権などと組み合わせたりする証券化が行われたことで、「リスクが分散された」とされ、投資家がこぞって買うデリバティブ(金融派生商品)に生まれ変わった。
その通りだったら、まさにに錬金術である。
しかし、もともとは住宅ローンだから、不動産価格の下落で担保価値が下がったり、景気の悪化で借り手の収入が減って返済できなくなったりすれば、途端に不良債権化する。世界中の投資家が手を出していたため、影響は世界に広がり、より多くの商品を抱えていた米大手証券会社を次々直撃した。
問題は、この錬金術の虚構を誰もあらかじめ見抜けなかったことだ。
背景には最先端の金融工学が生み出すデリバティブには、極めて複雑な数学的・統計的手法が使われているため、金融プロであってもなかなか本質を理解できないことがある。
格付け会社は商品を評価する術が無く、甘い格付けに走った。米財務省や米連邦準備制度理事会(FRB)が対応に動き出したのは、金融システム不安が噴出した昨年夏以降だ。
問題が表面化するちと、分からない分、投資家は疑心暗鬼を強めサブプライムローンの含まれていない証券化商品も売られるなど、負のスパイラルが加速され危機拡大を招いている。
1998年にはデリバティブの基礎理論を作り、ノーベル経済学賞を受賞したばかりの学者2人が参画した米大手ヘッジファンドがロシア経済危機のあおりで破綻した。
金融工学は必ず儲かる錬金術ではない。それをきちんと評価し、暴走を監視する仕組みを整えることが求められている。再び同じような過ちを繰り返すわけにはいかない。
・ 話の内容は、私がずっと前から書いたこととダブっている。
(どちらかと言えば、私の方に先着権がある。)
・ 「問題は、この錬金術の虚構を誰もあらかじめ見抜けなかったことだ。」
というふうに、嘘を書いている。
後者の点は、冗談じゃないですよね。私だって前から指摘したことだ。この記事を書いた人が無知で知らなかっただけだ。
あらかじめ指摘されていたことに耳を傾けないで浮かれている。「米国の好景気のおかげで日本にも好影響」と喜んでいる。しかるに、いったんバブルが破裂すると、「誰も警鐘を鳴らさなかった」と言い張って、おのれの能天気さを棚に上げる。
日本のバブル破裂に続いて、二度目ですね。過ちて改めず、これを過ちと言う。というより、馬鹿は死ぬまで直らない。
[ 付記3 ]
「これは、あらかじめ予想されていたことである」
と上で述べたが、このことを明らかにするために、あとで別項を記述した。
次の箇所を参照。
→ (10月04日)「予告された米国金融危機」
[ 付記4 ]
私としては、この件に関して、前にいろいろと言及したことがある。
「サブプライムローン」および「デリバティブ」という検索語で、「泉の波立ち」を検索した結果を、一覧の形で次項で示そう。
→ サブプライムローンとデリバティブの過去記事 (次項)
わかりやすくてありがたい。
(1)
[ロイター] 米連邦準備理事会(FRB)は9日、2008年の純利益が推計で388億ドルと発表した。前年の387億ドルとほぼ変わらずだった。うち、349億ドルが財務省に納付された。
http://jp.reuters.com/article/domesticFunds/idJPnJT831320020090109
(2)
大統領に、議長・副議長・理事の任命権がある
── Wikipedia 「連邦準備制度」