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( ※ 本項は、実際の掲載日は 2008-10-09 です。)
今回の金融危機に、人々は「突発的に発生した」と思って、大あわてしているようだ。しかしこれは、「いつか必ず訪れる」と前もって予告されていたのだ。
私の見解を中心に、新しい順に並べてみよう。
( ※ 日付部分はリンクになっています。リンク先はページの途中なので、正しく表示されるまでにちょっと時間がかかります。)
(1) 2007年10月18日
これは、1年前の記述だが、今回の現象の核心を明確に指摘している。サブプライムローンとマネタリズムの関係を指摘して、背景や根源も指摘している。(ふたたび読み返すに足る。)
この記述で足りないのは、破綻の規模である。このときはまだ、野村HDの損失(米国での事業撤退)があっただけだ。1500億円の損失。……今にして思えば、この決断は賢明だったことになる。グズグズしていたら、損失規模はとてもそのくらいでは済まなかったことだろう。早めに撤退したことで、損失規模を減らすことができた。
とはいえ、このころ、多くの人々はノホホンとしていたのである。
(2) 2005年8月02日c
この記述は、3年前の夏だが、このとき、読売新聞が住宅バブルに警鐘を鳴らしている。(その新聞記事の紹介。)
(3) 2005年7月12日
この記述も、3年前の夏だが、このころやはり、いくつかのマスコミが住宅バブルに警鐘を鳴らしている。
私は、これを紹介しているが、ついでに、はっきりと「将来の破裂」を予告している。
引用しよう。
米国の住宅バブルは、いつか はじける。それは当然だ。……住宅バブルでは、富はまったく増えない。要するに、米国の土地は少しも広くならない。ま、利便性だけなら年に3%ぐらいの向上はあるだろう。しかし、年に数十%も上昇する住宅バブルほど、土地の価値が上昇したわけではない。なのに、住宅バブルは、そのくらいたくさんふくらんでいる。当然、いつか、バブルは はじける。この文章は、上の (1) の箇所でも引用した文章だ。
ともあれ、米国の住宅バブルがはじけることは、3年前の夏の時点ではっきりと指摘されていた。(私も指摘したし、新聞記事でも指摘されていた。)
このころ、米国では「不動産価格の上昇で景気がいい」と浮かれていたが、それがバブルにすぎないことと、バブルがいつか破裂することは、はっきりと予告されていたのだ。
( ※ マスコミ記事では、破裂の危険性について警鐘が鳴らされていただけだ。だが、私の記述では、バブルの破裂が明白に予告されていた。)
(4) 2003年2月12日
先の (2)(3)の予告よりも前に、別の予告はなかったか? あった。
そもそも、(2)(3) の予告がなされたのは、前に日本のバブルがあったからだ。そして、日本について、「バブルの意味」を、私は5年前に解説していた。それがこの項目だ。
ここには「資産インフレとは何か?」というシリーズが記述されている。これを読めば、次のことがわかる。
・ 資産インフレは、過剰なマネーによって発生する。
・ 資産インフレは、富の拡大を現実にもたらさない。
・ 資産インフレは、富の拡大があると錯覚させる。
ここでは、「富の拡大は、現実にはないのだが、あると錯覚される」ということが起こる。そして、それが、バブルという現象の本質だ。
マネーが過剰にあふれると、資産インフレが起こる。それを見て人々は、「金持ちになった」と錯覚する。そのとき、一部の人は、「それは錯覚だ」と警鐘を鳴らすのだが、世間の大部分はその警鐘を聞かない。「いや、本当に景気がいいのさ」と浮かれている。(たとえば、「日本経済は日本式経営で強いのだ」とか、「米国経済は冷戦後に超大国の位置を占めたから強いのだ」とか。)
そして、その後、資産インフレが収束する。そのときなってようやく、人々は錯覚から醒める。資産インフレの真実に気づく。「実際には富は増えていなかったのに、富が増えていたと錯覚していたのだ」と気づく。このとき、資産インフレは「バブル」という名で呼ばれる。(あれは泡のようなものだった、と気づくので。)
ただし、それがバブルだったとようやく気づくのは、愚かな大多数の人々である。ごく少数の人々は、資産インフレが発生した時点で、すでにそれがバブルであると見抜いていて、警鐘を鳴らす。とはいえ、その警鐘は、「トンデモ」扱いされるので、世間では「これはバブルだ」とは見なされない。
資産インフレが「バブル」と呼ばれるようになるのは、愚かな人々がようやく真実に気づいたときになってからである。
[ 注記 ]
バブルや資産インフレについて、より詳しい話は、本文中における各リンク先を読めばわかる。
特に (4) の「資産インフレ」の説明は、読みごたえがある。(数項目のシリーズ)
【 補説 】 歴史上のバブル
米国の金融危機は、「住宅バブルの破裂」という形で理解される。つまり、「バブルの破裂」というのが原理である。
もちろん、このような「バブルの破裂」は、今回に限ったことではなく、歴史上に何度もあった。
(1) 日本のバブル
日本にも、バブルがあった。そこでは、人々の心理状態によって、現実の経済状況が大きく変動した。「土地神話」「株神話」という妄想(という心理)があり、その妄想がふくらむとともに実態経済が大きくふくらんだ。その後、妄想が破裂したときに実態経済もまた破裂した。これが日本における「バブルの破裂」だ。
(2) 昔のバブル
歴史上のバブルには、もっと古い例がある。
・ チューリップバブル
・ 南海バブル
がそうだ。これらもまた、同じように、妄想とともにふくらみ、妄想の破裂とともに破裂した。その原理は、いずれも同じである。
ただし、妄想の種類だけが違う。次のように。
・ チューリップバブル …… チューリップ神話
・ 南海バブル …… 南海会社神話
・ 日本のバブル …… 不動産神話と株神話
・ サブプライムローンバブル …… 金融工学神話
このように、妄想の種類は異なる。ただし、バブルの原理は、いずれも同じである。
そのことに留意することが必要だ。さもないと、今後もまた、妄想の種類を変えて、次々と新たなバブルが発生するだろう。バブルというものは、「人類の愚かさ」というのとほとんど等価だ。そして、そうとすれば、「人類の愚かさ」がなくならない以上、バブルの膨張と破裂はこのあと何度も発生するのだろう。
( ※ 「人類の愚かさ」とは何か? 人間というのはどうしてかくも愚かなのか? ……その根源を示そう。「人類の愚かさ」とは、「人類の欲深さ」とほぼ同義なのである。人は、欲深いから、「金儲けをしたい」と思い込む。だが、「働いて金を稼ごう」とは思わず、「何もしないで資金の運用だけで金儲けをしよう」と思う。こういう欲深さと愚かさは、ほぼ一体化している。……こうして、欲深さから、愚かさが必然的に発生するのだ。そして、それへの対策は、ただ一つ。「賢明になること」だけでなく、「欲深くなくなること」である。前者は容易だが、後者は困難だ。かくて、人々は、「バブルだから危険だ」という賢明な声を聞いても、あえてそれに耳をふさぐ。そういうわけで、バブルは何度も発生するのだ。)
[ 余談 ]
余談として、ちょっとした話題を述べておこう。
朝日のコラムに、次の文があった。(朝日新聞 2008-10-05 朝刊・1面・コラム。船橋洋一)
「これは明らかに、何かの終わりと一つの時代の終わりを告げている」
では、何が終わったのか?
終わったものは、(ひとつの)バブルまたはバブル時代である。つまり、マネーをいじくって、「こいつは景気がいい」と浮かれていた時代が、終わったのだ。
では、何もかもが終わったのか? いや、そうではない。浮かれ騒ぎという現象自体は終わったが、浮かれ騒ぎをするという体質そのものは何も変わっていないのだ。
火事が終わったというよりは、家が燃え尽きて、火の消えただけだ。火種は消えてない。だから、やがていつか経済状況が改善(新たな家が建てば)すれば、ふたたび同じ失敗(バブル)が生じるだろう。……ちょうど、日本のバブル騒ぎのあとで、米国のバブルが起こったように、いつかまた、バブルは膨張して、バブルが破裂だろう。その繰り返し。
人類はいつもどんちゃん騒ぎをやらかすものだ。「うる星やつら」のエンディングが毎度毎度、どんちゃん騒ぎで終わったように。
【 注記 】
このあとにあった「金融工学」という補説は、前項に移転しました。(独立項目にしました。)
私だけの問題かなあ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Extraordinary_Popular_Delusions_and_the_Madness_of_Crowds
申し訳ありません。修正しました。現時点ではリンク切れは直っています。
「狂気とバブル なぜ人は集団になると愚行に走るのか」
という本ですね。ご連絡ありがとうございました。