◆ 減税の意味:  nando ブログ

2009年01月12日

◆ 減税の意味

 減税( or 定額給付金)の意味を解説する。世間の人々はその意味を勘違いしているからだ。

 ──

 減税とは何か?
 麻生首相は「定額給付金」という名目で呼んで、「政府が国民に給付してやる金だ」という意図をあらわにした。そのせいで、国民は反発しているようだ。そこで私は「その金は、政府が給付する金ではなく、もともと国民の金だ」と述べたことがある。……ただし、これは、金の意図のことであって、効果のことではない。
 では、具体的な経済効果では、減税はいったい何を意味するのか?

 ──

 減税ないし定額給付金をもらえると聞いたとき、たいていの人は、次のように思う。
 「金は天から降ってくる」
 こういうふうに見なした上で、
 「その金は国民が散財するべきだ」
 「いや、土建業が散財するべきだ」
 「いや、環境技術や福祉方面に散財するべきだ」
 というふうに主張する。それらに共通する発想は、こうだ。
 「富を得たい。その富は、どこかから与えられる」
 それは、換言すれば、
 「金は天から降ってくる」
 ということだ。
 しかし、「金は天から降ってくる」ということなど、ありえない。つまり、
 「無から有が生まれることはない」
 このことを理解するべきだ。たいていの人は、ここを勘違いしている。「経済政策は無から有を生み出すのだ」と勘違いしている。とんでもない勘違いだ。

 ──

 もう少しまともな人は、次のように考える。
 「その金は、借金でまかなうのだから、その金は将来世代から借りているのだ」
 なるほど、これだと、一応は理屈が通っている。つまり、こうだ。
 「金は、未来から借りて未来に返済するのだ」
 これならば、「金は天から降ってくる」という発想を取らずに済む。また、「未来との貸し借り」ならば、金については帳簿上の貸し借りができるから、不可能ではないと思える。

 しかし、これもまた、勘違いなのだ。なぜか? 未来との間で、金の貸し借りはできても、物の貸し借りはできないからだ。タイムマシンがないので。
 現時点においてならば、金の貸し借りもできるし、物の貸し借りもできる。しかし、未来との間では、金の貸し借りはできても、物の貸し借りはできない。なぜなら、現在の生産量は、ほぼ一定だからだ。
 たとえば、未来の生産量を借りて、現在の生産量を2倍にする、ということはできない。逆立ちしてもできない。現在の生産量は、現在の人々が自分で生産した分しか、ありえないのだ。

 ──

 以上のことから、論理的に、次のことが分かる。
 「減税をすると、その分で、名目所得は増えるが、富の量は増えない」
 これはつまり、手にする物は変わらないまま、名目所得だけが増えるということだ。それはつまり、
 「名目所得が増えた分、物価上昇が起こる
 ということだ。

 具体的に言おう。
 政府が減税をして、国民所得を1割増やしたとする。そのとき、国民の生産活動が変わらなければ、単にその分、物価上昇が起こるだけだ。
 一人一人で言えば、所得が1割ぐらい増えて大喜びするが、物価もまた1割上昇するから、現実に得られるものは変わらないわけだ。

 これは不思議でも何でもない。「好況期」つまり「生産活動がすでに上限に達しているとき」には、こういうことが起こる。実際、昔の高度成長期には、そうだった。政府はどんどん減税をしたが、その分、物価上昇が起こった。生産活動はもともと上限に達していたから、特に生産量が増えるということもなかった。減税はすべて「物価上昇」に費やされたのだ。

 不況期にも、基本的には、同じである。政府が2兆円くれたとする。その2兆円は、天から降ってくるのではなく、未来から降ってくるのでもない。基本的には、その金は、「物価上昇」になるだけだ。
 だから、逆に言えば、政府がくれる2兆円は、「物価上昇を補填する分」にすぎない。国民は、「2兆円をもらって嬉しいな」と思っているが、実は、その後、2兆円分の物価上昇が起こる。結局、2兆円をもらっても、損も得もしていないのだ。(タンク法の発想。)

 ──

 減税で金をもらっても、物価上昇が起こるから、国民は損も得もしない。これが基本原理だ。
 では、減税のかわりに、政府が支出したらどうなるか? 政府が、公共事業や、環境事業や、福祉事業などに金を使えば、どうなるか?
 「どうせ天から降ってきた金だから、政府がどう使おうと政府の勝手だ」
 と人々は思っているようだ。しかし、違う。その金は、国民が「物価上昇」という形で支払う金だ。政府が、公共事業や、環境事業や、福祉事業などに金を使えば、その分、国民は、金を奪われる。国民は、「名目所得は同じだから、損しない」と思っているが、実は、物価上昇の分、損をするのだ。
  ・ 国民が2兆円分、物価上昇で所得を減らす。
  ・ 政府が2兆円分、政府支出に使う。

 その結果は? 政府支出に該当する産業は伸びるが、他の産業は減る、ということだ。
 たとえば、公共事業ならば建設業。福祉事業ならば福祉産業。これらの産業が伸びる。そして、その分、既存の産業は減る。なぜなら、これらの産業では、国民の支出が減るからだ。政府の支出は増えても、国民の支出は減る。(物価上昇の分。)したがって、福祉産業は成長しても、自動車産業や電器産業などはかえって衰退してしまう。
( ※ 「経済波及効果」の分は別勘定。今はとりあえずそのことは考えないでおく。)


 ──

 減税には、このように「物価上昇」の効果がある。そのことを、誰もが忘れている。人々は、「2兆円もらえると、2兆円富が増える」と思っている。つまり、「金は天から降ってくる」と思っている。
 それは誤りだ。「金は天から降ってくる」ということはない。本当は「金は物価上昇をもたらすだけ」なのだ。なのに、「2兆円の富を得た」と思って店に行くと、プライスタグがその分上昇していることに気づくはずだ。
 たとえば、お米の生産量が一定であるときに、人々が1割増の金をもってお米を買いに行けば、買えるお米の量が1割増えるのではなく、お米の価格が1割アップするだけだ。
 それと同様のことが、あらゆる商品について当てはまる。金の増加は、富の増加を意味せず、価格の上昇を意味するだけだ。……これが現実だ。なのに、たいていの人々はそのことに気づいていない。
 人々は「減税」の意味を、根本的に勘違いしているのだ。「金は天から降ってくる」と。(現実には、物価上昇で損をする分を、あらかじめ補填してもらっているだけなのだが。)

( ※ 猿は、「朝三暮四」より、「朝四暮三」の方が得だと思う。人間は、「夕べに減税、翌朝に物価上昇」だと、富が増えたと錯覚する。金で買えるものは同じなのだが、金が増えたので富が増えたと思い込む。……猿と人間は、どちらが利口か?)




 そこで、いよいよ、「減税」の本当の意味を教えよう。それは、こうだ。
 「減税は、富の増加を意味せず、単に物価上昇を意味するだけだ」
 「ただし、不況期に限っては、物価上昇が生産量の増加をもたらす。なぜかというと、遊休していた労働者や設備が稼働するからだ。つまり、生産活動をするからだ。……こうして、生産量の増加が、所得の増加をもたらす


 要するに、富の増加をもたらすのは、金ではなくて、労働による「生産活動」なのだ。
 富の増加とは、生産物の増加だ。そして、生産物の増加はまさしく、生産活動によってもたらされるのであって、金によってもたらされるのではない。
 金とは、ただの紙幣であって、タヌキのくれる木の葉のようなものだ。それ自体には何の価値もない。真に価値があるのは、金によって買える生産物の方だ。
 ただし、そのとき、金と物との交換レート(物価)が変わっていては、何にもならない。つまり、物価上昇が起こっては、何にもならない。そして、物価上昇を起こさないためには、生産量がまさしく増える必要がある。
 すべての根源は、金ではなくて、生産活動なのである。


 ──

 そこで、残る問題は、こうだ。
 「生産活動を増やすにはどうすればいいか?」
 「生産量を増やすにはどうすればいいか?」

 この二つの問題は同じことだ。では、そのために、どうすればいいか? その方法は?── 実は、それを考えるのが、「マクロ経済学」だ。「マクロ経済学」とは、GDPの変動を考える学問だからだ。
 これについては、次項で。
( ※ 本項では、とりあえず、基本原理を説明した。方法論は、次項回し。)
 
 ただし、あらかじめ予告しておけば、次のようになる。
 「減税は、需要の増加を通じて、生産量の拡大をもたらす」

 減税は、それ自体では富をもたらさないが、労働時間の増加をもたらすので、「労働による富の増加」をもたらす。これが減税の本質的な意味だ。



 [ 付記1 ]
 「減税をしても、貯蓄に回るだけだ」
 という説がある。( → 
 しかし、これはエコノミストの勝手なヤマカンにすぎない。何ら根拠のないヤマカンだ。
 現実を知るは、統計を見るといい。国民の貯蓄額は
    平成 16年度 1169万円
    平成 19年度 1143万円
 というふうに、漸減している。貯蓄額は、増えるどころか、減っているのだ!
 では、正しくは? こうだ。
 例の「減税をしても、貯蓄に回るだけだ」というのは、短期的には正しい。人々はその金を、すぐには使わないで、銀行に貯め込む。ただし、それは数カ月間だけのことだ。1年後には、金を引き出して、使っている。2万円をもらってから、最初は使わないが、1年後には2万1千円を引き出している。もともと貧乏で、貯蓄を取り崩しているからだ。
 ところがエコノミストは、この現実を無視する。そして、こう言う。
 「最初の3カ月だけを見れば、もらった2万円のほとんどを貯蓄していたでしょ? だから、やっぱり、減税は貯蓄に回っているんですよ」
 と。これが「減税は貯蓄に回る」ということの意味だ。エセ論理。屁理屈。
 (……こういうペテンをしたあとで、「だからその金は私がもらいます」と建設業者が言う。)

 [ 付記2 ]
 減税として、所得税減税と定額減税との違いは、本項では特に話題としていない。違いはあるにはあるが、それは別のところで。(「泉の波立ち」ですでに論じてある。たいした話題ではないので、いちいち読まなくても良い。)
 
 そのうち、次項あたりで述べるかもしれない。

  
posted by 管理人 at 19:03 | Comment(6) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
民のかまど、3年間
仁徳天皇が減税したら景気がよくなった話です
鼓腹撃壌。頭の悪い人にはわからない
現在にも通じる真理です。

4世帯に1世帯は貯蓄がない
3人に1人は非正規雇用
国税庁調べで893万人の公務員ほか多すぎ




Posted by けろよん at 2009年01月12日 23:41
急激な景気後退で、在庫が積み上がっているような場合は、定額給付金は在庫解消の役に立つのでは?
Posted by のび at 2009年01月13日 12:26
>>急激な景気後退で、在庫が積み上がっているような場合は、定額給付金は在庫解消の役に立つのでは?

だからこそ欧米諸国では定額給付をしてるのでは?まだ景気後退期で日本みたいにどっぷりデフレの底ではないから。
Posted by royaltouch at 2009年01月13日 15:58
 方法論は、次項で説明します。
 公開予定日は、一日おいて、14日。
Posted by 管理人 at 2009年01月13日 18:30
次の報道記事がある。
http://www.cnn.co.jp/business/CNN200901110005.html
500億ドル札を発行、「超ハイパー」インフレのジンバブエ

つまり、「金は天から降ってくるのさ」と信じて、「お札をすればいいのさ」と思っていると、あとでとんでもないインフレが襲ってくる。

ケインズであれ、クルーグマンであれ、はたまた、マネタリスト(リフレ主義者)であれ、このことに気づいていない。「デフレ期にはお札をすればいい」とだけ信じて、「インフレが来たらどうなるか」を考えていない。

 「大切なのは、金ではなくて、生産活動なのだ」ということを理解しないと、とんでもないことになる。
Posted by 管理人 at 2009年01月14日 20:24
定額給付金は、富の再分配ではなかろうか。
物価上昇、インフレは、富の質(物の価値)が変わるということではなかったのか?

消費税こそが、5%物価を上げて巻き上げようという魂胆ではなかったのか??
Posted by kajika at 2009年04月17日 20:41
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