◆ トリオモデル:  nando ブログ

2008年10月18日

◆ トリオモデル

 古典派の需給曲線のモデルでは、均衡は説明できるが、不均衡を説明できない。そこで、不均衡を説明するためのモデルが、トリオモデルだ。これは「流動性の罠」を一般化したモデルである。

 ──

 古典派のモデルは、「需要曲線と供給曲線が交差する点で均衡する」というモデルだ。
 これによると、均衡は説明できるが、不均衡が説明できない。
 そこで、不均衡を説明するためのモデルとして、トリオモデルがある。以下で説明しよう。

 (1) 古典派のモデル

 古典派のモデルは、「需要曲線と供給曲線が交差する点で均衡する」というモデルだ。  型の図で示せる。縦軸が価格で、横軸が数量。

  ・ 供給曲線 …… 価格が上昇すると、数量が増える。
  ・ 需要曲線 …… 価格が上昇すると、数量が減る。


 この両者は、一点で交差する。そこが「均衡点」だ。それ以外の点にあれば、自然に均衡点に近づくようになり、最終的には均衡点で安定する。(そこはまた、最適の点でもある。)
 こうして、「放置すればひとりでに均衡点(最適の点)に達する」ということが示される。

 (2) 不均衡の発生

 しかしながら現実には、不均衡が発生する。次のように。(いずれも需要不足の形)
  • 価格を最大限に下げても(利益ゼロにしても)、それでも需要は不足したままである。(不況)
  • 融資の金利をゼロにしても、金融市場で需給が均衡しない。需要不足(供給過剰)となる。(流動性の罠)
 このような形で、不均衡が発生する。しかし、(1) によれば、不均衡は発生しないはずだ。
 つまり、現実は、(1) のモデルでは説明できない。

 (3) トリオモデル

 そこで、現実に起こる「不均衡」を説明するモデルが必要となる。それが「トリオモデル」だ。(これはクルーグマンの「流動性の罠」のモデルを拡張したものである。)
 トリオモデルは、次の図で示せる。(左側と右側とで分けて考える。)

トリオモデル


 トリオモデルでは、需要曲線と供給曲線のほかに、第3のものがある。それは「下限直線」と呼ばれる水平線だ。(図を参照)

 この図の右半分は、「均衡」のモデルである。そこでは、交点は、下限直線のにある。
 この図の左半分は、「不均衡」のモデルである。そこでは、交点は、下限直線のにある。

 「均衡」の場合には、下限直線は何も影響しない。普通の需給曲線の場合と同様である。(この場合、トリオモデルは、普通の需給曲線と一致する。)
 「不均衡」の場合には、下限直線は重大な影響を及ぼす。均衡点をめざして価格を下げようとしても、下限直線があるせいで、価格が下限直線の価格までしか下がらない。すると、次のようになる。

  ・ 需要は、需要曲線と下限直線の交点でストップする。
  ・ 供給は、供給曲線と下限直線の交点でストップする。


 前者の数量と、後者の数量は、一致しない。その数量差が「需給ギャップ」となる。
 こうして、不均衡が発生すること(需給ギャップが発生すること)が説明された。その理由は、「下限直線」によって、価格の低下が阻止されることである。

 (4) 下限直線の意味

 下限直線とは、何か? 次のようなものだ。
 「価格がそれ以上に低下することを阻止するもの」
 具体的には、次のような例がある。
  • 金融市場で …… 金利ゼロ (ゼロ金利以下には下がらない。)
  • 労働市場で …… 最低賃金 (最低賃金以下には下がらない。)
  • 商品市場で …… 製造原価 (製造原価以下には下がらない。)
 いずれにしても、「価格がそれ以上に低下することを阻止する」という効果をもつ。そのことで、不均衡(需要不足)を発生させる。
 ここでは、実際に起こる現象はそれぞれ別のことであるが、その原理はいずれも同じなのである。
  • 流動性の罠 ………… 金融市場における「不均衡」
  • 労働者の失業 ……… 労働市場における「不均衡」
  • デフレ(不況)  ……… 商品市場における「不均衡」
 これらの現象は、見かけは異なるが、本質的にはいずれも同じ原理を持つ。そのことを、トリオモデルは説明してくれる。
 そしてまた、古典派の主張(放置すれば自然に均衡するという主張)が、どうして間違っているかも、トリオモデルは説明してくれる。



 [ 付記 ]
 均衡と不均衡の違いは、どうして起こるか? それは、需要曲線が左シフトするからだ。
 図を見ればわかるだろうが、右側の図で、(右下がりの)需要曲線が左シフトすると、交点はどんどん下がっていく。ある程度以上、需要曲線が左シフトすると、交点は下限直線を割り込む。……これが「需要の低下による、不均衡の発生」である。

 [ 参考 ]
 さらに詳しい説明は、下記。
  → 「泉の波立ち」の 「トリオモデル」 ( 2002-7-27 )
  → 経済学講義 「トリオモデル」

 [ 余談 ]
 余談だが、「均衡を実現するには、下限直線を下げればいい」という結論は、理屈の上では成立する。
 しかし、それは意味がない。なぜか? 経済にとって大切なのは、均衡ではないからだ。人間の生命や人生の方が重要だ。
 たとえば、失業が発生したときに、「均衡を実現するために、余剰人員を皆殺しにせよ」または「均衡を実現するために、最低賃金をゼロにせよ(奴隷にしてしまえ)」という発想が成立する。なるほど、そうすれば、均衡は実現するかもしれない。しかし、そんなことをしても、正解にはならない。
 このモデルで言えば、大切なのは、均衡を強引に実現することではなくて、均衡が自然に実現されるようにすることだ。それはつまり、需要曲線を右シフトする、ということだ。

 モデルを知ることは大事だが、モデルが現実を操作するようであってはならない。それでは本末転倒だ。シッポが犬を振るようなものだ。
 どんな学問であれ、モデルよりも現実が大切だ。そこを勘違いすると、学者馬鹿になってしまう。古典派経済学者には、そういう人々がとても多い。
 
 《 オマケ 》

 不均衡のときに、均衡を実現するには? それは、「需要曲線を右シフトする」ことで達成される。
 では、「需要曲線を右シフトする」には、どうすればいいか? ── 実は、それを考察するのが、マクロ経済学である。この話題は、マクロ経済学の話題となる。
 正解は、「総需要を増やすこと」であるが、そのための方法が問題となる。その方法は、次のページで簡単に示してある。
  → 「需要統御理論」簡単解説


posted by 管理人 at 19:44 | Comment(1) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
 新たに掲載しました。
 実際の掲載日は 2009-07-28 です。
 順序の都合により、前項「バーナンキの背理法」の後に置きました。
Posted by 管理人 at 2009年07月28日 19:47
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