用例。 「下向いちゃうし」
このような「し」は、名詞につける「とか」と似ている。
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口語表現で、文末につける「し」というのが流行っている。
用例。 「軽だと信号待ちで並ばれた時なんか恥ずかしい。下向いちゃうし」
( → 出典。「軽」は「軽自動車」のこと。 )
これはかなり新しい表現だ。どこが新しいのか? そう考えたところ、次の点だとわかった。
「並列表現における後半部が省略されている」
標準用法においては、接続助詞の「し」は、主に次の二通り。
(1) 「ので」などを意味する接続関係。
(2)・ センテンスを並置する並列関係。
このうち、(1) の方は、昔からある。
用例 「行けばわかるし」
用例 「どうせそんなことだと思ったし」
一方、(2) の方は、最近の口語表現で用いられるようだ。ただ、並置されるものが何か、明示的ではない。そこがちょっと目新しいようだ。
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このような新しい「し」の表現法は、助詞の「とか」の新しい表現法に似ている。
用例 「何が好き?」「カレーとか好きですね」
この例では、「とか」というのは、もともとは並置するための表現だ。「Aとか、Bとか」という形で。
ところが、新しい表現では、並置されるべきもの(B以降)が明示されていない。そのことで、表現を曖昧化している。(単に「A」と語らず、「AとかBとかCとか」を含意することで、「A」を曖昧化する。)
これが「とか」の新しい表現だ。そして、「し」の新しい表現もまた、同様であろう。並置するべきものを明示しないことで、表現を曖昧化しているのだ。
つまり、新しい口語表現としての「し」は、次のことを意味する。
「並置するべきものを明示しないことで、表現を曖昧化する」
これが新しい形の「し」の表現だ。それは「とか」の新しい表現と共通する用法である。
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なお、下記サイトに次の例がある。
用例 「もうゲームを止めなさい」「もう止めてるし」
用例 「宿題やりなさいよ」「嫌だし」
( → 出典ページ の 132番 )
これらの例では、終助詞のようにも扱われている。終助詞の「よ」に近い。ただし、「よ」だと言い方がきつくなるので、「し」にすることで、ぼかしている。
そのニュアンスは、「そこで言い切らず、まだ先に話が続く感じを残す」(終助詞でなく接続助詞の感じをもたらす)ことで、「そこではっきりと言い切る」という効果を弱めているわけだ。
上の例では、「もう止めてるよ」「嫌だよ」と言い切ると、反論としては語感がきつくなるので、そのきつさを和らげるために、断定の度合いを減らしているわけだ。
そして、そのことは、「とか」と同様である。(この場合は、名詞について言い切るのを弱めている。「リンゴとか好きだし」というのは、「リンゴ」とはっきり言い切るのを弱めている。)
ともあれ、このような曖昧化(ぼかすこと)の効果がある。
[ 付記 ]
私なりに感想を言えば、「優柔不断な言い方」と評価できる。
しかしまあ、それは昔から日本人の特徴だったかもしれない。私みたいに何事もはっきりと言い切る人は、日本人にはそう多くないしね。 (^^);
( ※ 私の場合には、「し」のかわりに「しね」で終わらせることが、たまにある。くだけた表現で。ま、「し」で終わることは、ほとんどないし。)
【 参考サイト 】
→ 「し」の用例解説
→ 丸谷才一氏の「し」