◆ 不況の原理(デフレの原理):  nando ブログ

2010年02月02日

◆ 不況の原理(デフレの原理)

 不況(デフレ)は、なぜ起こるのか? その基礎原理をマクロ経済学で説明する。

 ──

 不況(デフレ)は、なぜ起こるのか? これは問題だ。
 池田信夫は、「この問題をマクロ経済学は説明できない」と述べた。(どのページだったかは失念したが。)
 その見解は、正しいとも正しくないとも言える。
  ・ 通常のマクロ経済学では、それを説明できない。
  ・ ケインズの理論を少し修正すると、それを説明できる。

 池田信夫は前者の点を主張したのだろうが、むしろ後者の点を見る方がいい。
 そこで、いかに説明できるかを、簡単に示す。

 ──

 不況(デフレ・景気後退)がいかにして起こるかは、次の原理で説明される。
 「消費性向の低下による、デフレスパイラル」

 ここで、「デフレスパイラル」とは、「負の乗数効果」のことである。最初に消費が縮小すると、その後、生産が縮小し、さらに所得が縮小する。そのことでふたたび消費が縮小する。以下、繰り返す。

  消費縮小 → 生産縮小 → 所得縮小 → 消費縮小 → ……


 こういう無限循環だ。このことは、次の図で示される。(ケインズの 45度線モデルと同じだが、消費性向を 0.8 と 0.7 の二通りにして示している。その点だけが修正されている。)

image43.gif


 図の説明をしよう。
 点Bは、通常時の均衡点。
 点Aは、不況時の均衡点。(縮小均衡の点。)
 それぞれの均衡点は異なる。景気が悪化すると、均衡点Bから均衡点Aに移っていく。と同時に、生産量(横軸Yで表される)も変化する。
 この変化の過程は、青線で示される。これは階段状の過程だ。この過程がデフレスパイラルだ。この過程は、無限循環であるが、最終的には、点Aに収束する。

 ──

 結局、デフレスパイラルをもたらすものは、消費性向の低下である。(図で言えば、斜線の傾きが 0.8 から 0.7 に低下すること。)
 そして、このような「消費性向の低下」をもたらすものは、人間の心理である。たとえば「先行き不景気になりそうだ」と人々がいっせいに思うと、国全体の消費意欲が減退する(=消費性向が低下する)。これはケインズの「美人投票」と同じ原理だ。

 ──

 まとめ。

 不況(デフレ)の原理は、「消費性向の低下」と「デフレスパイラル」である。「消費性向の低下」は、心理的な理由によるが、「デフレスパイラル」は、マクロ経済学的な原理による。(負の乗数効果)
 デフレスパイラルの過程では、「消費の縮小がさらに消費の縮小をもたらす」とか、「生産の縮小がさらに生産の縮小をもたらす」とかいうことが起こる。つまり、ここでは、因果関係によって経済が縮小するのではなく、循環過程によって経済が縮小する。
 そして、この循環関係が起こるのは、消費と所得と生産とが(トライアングル状に)循環しているからだ。これがつまりは、デフレスパイラルである。

 ──

 不況(デフレ)がなぜ起こるかは、以上のように説明される。より詳しくは、次のページで。
  → 2002年8月17日

 統一的な説明を知りたければ、下記の電子著作(PDF)で。
  → 経済学講義
   ※ 後半の「修正ケインズモデルの基礎」という章で説明される。
 


 【 関連項目 】
 以上の原理を知ると、「不況時にはどうすればいいか?」もわかる。

 基本は、「縮小均衡から拡大均衡へ」というふうに、均衡点を移すことだ。
  → 生産量の調整

 そのためには、経済学的な方法をあれこれと使う。
  → 景気回復の方法は? (総需要の拡大)

 消費性向を上げるには、金を与えればいい。ただしその金は、天から降ってくるわけではない。金は単に物価上昇をもたらすだけだ。
  → 定額減税の意味

 ただし物価上昇は、消費性向の向上をもたらす。これが生産量を拡大させる。
  → 「需要統御理論」 簡単解説

 以上の発想は、マクロ的な発想であり、ミクロ的な発想とは異なる。
  → ミクロとマクロ(経済学)



 【 参考 】

 不況の原因がわかった。ここから、(不況期には)「何をなすべきか」もわかるだろう。それは「総需要の拡大」だ。これのみが不況を解決する原理だ。
 一方、次のような策は、駄目だ。
  ・ 個別政策の寄せ集め
  ・ 市場原理


 (1) 個別政策の寄せ集め

 「IT産業を伸ばす」「介護産業を伸ばす」「土木産業を伸ばす」というような個別政策の寄せ集めは、駄目だ。国全体の経済活動が縮小しているときに、一部だけで補おうとしても、補いきれない。比喩で言うと、40人いる学級の39人が食べる量を5%減らしているときに、残りの一人が食べる量を 50%増やしても、解決しない。( 39×5 > 1×50 )
 国全体の生産量が縮小しているときには、国全体の生産量を拡大するしかない。一部だけが頑張っても駄目なのだ。

 (2) 市場原理

 市場原理に任せれば、需給の均衡点にたどり着く。不況の場合、均衡点は、「縮小均衡」の点(A)である。そこで需給は均衡する。しかし、商品の需給は均衡しても、労働の需給は均衡しない。商品の需給が均衡する生産量と、労働の需給が均衡する生産量とは、一致しない。(これはケインズが指摘したことだ。)
 市場原理は、商品の需給を均衡させるが、労働の需給を均衡させない。「労働も労働市場で市場原理に任せれば需給が均衡する」と池田信夫は主張するが、正しくない。なぜなら、縮小均衡のときには、労働の需給を均衡させるには、労働者が給料をもらうどころが、金を払う必要があるからだ。労働者は、自ら金を払うことで、商品を生産して、商品の赤字を負担する。これによって、赤字の穴埋めをするので、労働することができる。……とはいえこれは、奴隷以下だ。
 池田信夫が主張しているのは、「労働者を奴隷にすれば労働市場の需給が均衡する」ということだ。これでは「経済は人間のために」という基本原則を逸脱して、「経済学説のために人間を奴隷化する」という本末転倒となる。悪魔的。
 物事の本質を理解しないと、経済学的に正しくあろうとして、かえって真実の枠組みを逸脱してしまう。悪魔の論理。
 比喩的に言えば、「手術は成功しました、患者は死にました」。
 
 
posted by 管理人 at 23:35 | Comment(5) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
日本人の、一生懸命働いて、稼いだお金をせっせと貯金する。
日本人の、一生懸命働いて、どんどん輸出してせっせと外貨を貯め込む。
この日本人の悲しい性こそが、戦後の目覚しい高度成長をもたらした一方で、この失われた20年間を招いた元凶ではないでしょうか。

使い切れないほどお金を貯め込んで、自分たちが使ったほうがよほど幸せになれるのに、代わりにそのお金を政府に使ってもらわないと成り立たない経済。
海外からもう買ってくるものがなくなるほどの外貨を貯め込んで、最後は紙くずになるかもしれないドルで抱え込む。

これらはすべて、日本人の度を越えた勤勉と、将来のために過剰なまでのたくわえを持たないと安心できない、日本人のDNAに刻み込まれた本能によるものではないでしょうか。

いくら日本は資源がなく、輸出立国でしか生きる道のない国と言ったって、貿易収支は±0が丁度良いはず。お金だって将来不安がなければためておく必要など何もないものです。このことに日本人が気付かなければ、不幸の連鎖から逃れることはできないような気がします。

以上が、南堂様に経済の本質を教えていただいたつもりになっている、一読者のたどり着いたひとつの結論ですが、いかがなものでしょうか。
Posted by Murata at 2010年02月13日 09:08
 経済が悪化する原因は、消費性向が低下することです。
 しかし、いったん経済が縮小したら、貧しさはそのまま継続します。お金を貯めているのではなくて、生産量が少ないがゆえに所得そのものが少なくなっています。
 今の日本は、お金を貯めるどころか、借金のかたまりです。その借金で、ハコモノを作っているというより、福祉や教育をまかなっています。サラ金人生と同じ。お金を貯めているのではなく、お金を借りているのです。借金づくし。

 金を貯めるか借りるかという発想を捨てて、生産活動そのものを増やすことを狙わなくてはいけません。働いて稼ぐ量を増やすことが必要です。その逆が失業で、遊びながら無収入。

 以上が本サイトの主張の核心。


Posted by 管理人 at 2010年02月13日 10:42
私の言いたかったことは、現在の不況をどうしたら脱却できるかではなく(この点については南堂様が既に何度も書かれていますので)、過去20年近くにわたって日本を不況に陥らせてきたものが、一体何であったのかと言う点にあったのですが。

働けども働けども、円高になるだけで全く報われることがなかった人々が、私の身の回りにはたくさんいます。ひたすら競争力を追求し、安い賃金で働かせ、円高になればさらに競争力を上げなければと。むろん個別企業に取っては、正にやるべきことをやっているにすぎませんが。

そもそも、輸出をして外貨を稼ぐのは、そのお金で海外から買ってきたいものがあればこそなのでは。どんどん円高になるほど海外へ輸出するために働くぐらいならば、直接国内の人々のために働くことが重要なのではないでしょうか。

一生懸命円安誘導して、輸出産業ばかりを振興してきた結果が、今の有様なのでは無いでしょうか。

バランスの取れた経済成長こそが、永続的な成長をもたらすのであり、アンバランスを助長するような政策ばかりが取られてきたのではないか、そんな気がしてしょうがないです。
Posted by Murata at 2010年02月13日 18:09
> 過去20年近くにわたって日本を不況に陥らせてきたものが、一体何であったのかと言う点にあったのですが。

 これについては本文中に記述してあるとおり。均衡点Aにいるからです。本サイト内では「縮小均衡」「マクロ的な均衡点」という言葉で説明されています。検索してみてください。
 現状(A)が均衡点なのだから、何もしなければそのまま状態が安定しています。放置すれば最善の点になるのではなく、放置すれば均衡点から移動できないのです。

> アンバランスを助長するような政策ばかりが取られてきた

 何かを助長してきたわけではなく、何もしないで自由放任・無為無策できたから、均衡点から移動できないわけです。
 現状は、あちこちで歪みがあるという点では直感的にアンバランスですが、マクロ経済的には需給が均衡している(縮小均衡である)安定点です。つまり、これより良くもならないし、これより悪くもならない。比喩的に言えば、寝たきりのまま小康状態になっている病人です。何もしなければ現状のまま安定します。別に何かをしたから病気が続いているのではなく、何もしないから(治療をしないから)病気が続くわけです。
 このような原理を理解するべきだ、というのが本項の趣旨。
 「原因があるから悪いのではなく、循環過程で悪い状態が持続していると理解するべし」
 という趣旨。原因を求める発想そのものがピンボケ。

> バランスの取れた経済成長

 これも不正確な表現。現状は安定しているので、現状を脱して成長するためには、現状を破壊するためのアンバランスな(インフレ的な)政策を取る必要がある。マクロ的にアンバランスな政策を取ることで、直感的にはバランスの取れた感じのする経済成長がなし遂げられる。
 このようなマクロ経済的な知識を得ることが必要です。

Posted by 管理人 at 2010年02月13日 19:16
お門違いのところに、お門違いのコメントをしてしまい失礼しました。
Posted by Murata at 2010年02月13日 21:05
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