◆ ドーマーの定理の否定:  nando ブログ

2010年06月23日

◆ ドーマーの定理の否定

 ドーマーの定理は、中短期的には成立しない。名目成長率や国債金利が変動すると、累積債務の巨大さのせいで、破綻する。ただし、破綻するのは、累積債務が巨大になったときではなく、そのしばらくあとだ。
 
 ──

 ドーマーの定理では、「 名目成長率 > 国債金利 」と書くときに、名目成長率や国債金利の値は、固定値となっている。つまり、長期的に一定の値を取ると仮定されている。そこが問題だ。
 現実には、名目成長率や国債金利の値は、変動する。そして、その変動に応じて、財政破綻が起こったり起こらなかったりする。これに対しては、ドーマーの定理は無力である。

 数式で示そう。(このサイトから。)

 ある一年間の名目 GDP を Y 、税収を T 、歳出を G 、累積債務を D 、名目金利を i 、名目成長率を g とする。累積債務の1年間の増分 ΔD は、次のように書かれる。
 
   ΔD = ( G − T )+ i D

 ここで、名目成長率 g や、名目金利 i が固定されているならば、
   g > i
 が、破綻しないための条件となる。それがドーマーの定理だ。

 しかし現実には、g や i は変動する。すると、どうなるか?
 g や i が小さい場合には(つまり不況のときには)、たいした問題は起こらない。
 しかるに、g や i が大きい場合には(つまりインフレのときには)、D の大きさが影響する。たとえば、GDP が 500兆円なのに、D が1000兆円もあれば、g と i がともに 5%だとしても、利払いの方が大きくふくらんでしまう。

 このようなことは、g や i が固定されている限りは、起こらない。(それがドーマーの定理だ。)
 しかし、景気変動にともなって、g や i が変動すると、g や i が急に大きくなったとき(インフレになったとき)、D の額に応じて、財政は破綻しやすくなる。

 つまり、次のように言える。
 「『 GDP の2倍か3倍ぐらいの借金があっても、財政破綻は怖くはない』という説があるが、それは誤りだ。なるほど、不況のときには、財政破綻は起こりにくい。しかし、不況を脱して、インフレになったとき、巨額の借金があれば、財政破綻は起こりやすい」


 もう少しわかりやすく言うと、次のように言える。
 「借金がどんどん蓄積するのは、不況期だ。だが、不況期には、財政は破綻しにくい。そのせいで、『借金が積み重なっても大丈夫だよ』と思いがちだ。しかし、財政が破綻するのは、不況時ではなくて、不況を脱したあとである。不況のときに財政が破綻しないからといって、まだまだ大丈夫だということにはならない」


 比喩的に言うと、次のように言える。
 「病気のときには、親切なサラ金が金を貸してくれるので、借金がどんどん積み重なっても、さらに借金を増やせる。そのせいで、『借金が積み重なっても大丈夫だよ』と思いがちだ。しかし、借金取りが来るのは、病気のときではなくて、病気が治ったあとである。病気のときに財政が返済を迫られないからといって、まだまだ大丈夫だということにはならない。病気が治ったあとで、『体で払え』『命で払え』と言われる。」

 ──

 結局、こうだ。
 理論上では、 g や i が変動しないならば、「長期的に」という前提で、ドーマーの定理は成立する。
 しかし現実には、g や i が変動するので、中短期的には、ドーマーの定理は成立しない。かわりに何が成立するかというと、累積債務の効果だ。累積債務が巨大になると、あっさり破綻する。ただし、破綻が起こるのは、累積債務が巨大になった時点(不況の時点)ではなくて、金利が上がった時点(インフレの時点)である。

 累積債務というのは、時限爆弾のようなものだ。すぐには爆発しないからといって、平気で安心していると、時間がたったときに、爆発する。爆発を避けるには、爆発の臨界量に達しないように、累積債務を抑えておく必要がある。
 まだまだ大丈夫だと思って、部屋に時限爆弾を千個も入れておけば、あとで気がついて、あわてて時限爆弾を外に出そうとしても、半分ぐらい外に出しているうちに、爆発する。
 


 【 補説 】
 ドーマーの定理の意味を説明しておく。
 ドーマーの定理の数式そのものは、別サイトで示されているとおりだ。その数式には、何に問題もない。問題は、その数式の意味だ。

 数式の意味は、次のように解釈されることがある。
 「ドーマー条件( g > i )が満たされれば、累積債務( D )の大小にかかわらず、破綻しない」

 この解釈は、妥当ではない。特に、次の解釈は明白な間違いである。
 「ドーマー条件( g > i )が満たされれば、累積債務( D )が急に増えても、破綻しない」

 正しいのは、次の解釈だ。
 「ドーマー条件( g > i )が満たされれば、累積債務( D )の大小にかかわらず、最初に破綻しなければ、それ以後も破綻しない」
 ここでは、「最初に破綻しなければ」という条件が加わっている。これが大事だ。
 逆に、あるとき急に、累積債務( D )が拡大したとしたら、その時点で破綻する可能性は十分にある。ゆえに、「ドーマー条件さえ満たしていれば、累積債務が巨額化しても、大丈夫」なんてことはない。
 ただし、 g も i も固定されていれば、破綻しない状態は持続可能である。

 とはいえ、本質的には、以上のような細かい議論はすべて無効である。なぜか? そもそもの前提である「 g も i も固定されていれば」という条件が、もともと成立しないからだ。(だからすべては砂上の楼閣となる。)

 一般に、不況期には、g も i も非常に低い。特に、i はゼロ近辺となる。そのせいで、利払い費用はごくわずかだ。だから、累積債務( D )が巨額であっても、利払いが可能であり、破綻を免れる。
 しかしながら、不況期を脱すれば、g も i もかなり高くなる。特に、i はゼロ近辺ではない値となるので、累積債務( D )が影響する。累積債務( D )が巨額であれば、利払いが不可能となる。(特に、国債の借り換えが不可能となる。)
 というわけで、現実には、「 g も i も固定されていれば」という条件が成立しないので、ドーマーの定理は(間違いではなくとも)砂上の楼閣となる。これが本項の話題だ。

 以上では、何が間違いであり、何が勘違いであり、何が正しいかを、いろいろなポイントから説明した。

 教訓ふうに言えば、こうなる。
 「数式ばかりを見て、数式の意味を理解しないと、数式を得ても、誤解することになる。数式に囚われると、真実を得ても、そこから虚偽を引き出す」
 ドーマーの定理は、その計算式は完璧に正しいが、その計算式の意味を、ほとんどの経済学者が誤解している。

 
posted by 管理人 at 21:48 | Comment(0) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
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