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菅直人が左派の民主主義路線だということで、右翼系の人からは評判が悪い。そこで対比的に、小沢待望論が出たりする。なるほど、政策を見ると、この二人はまさしく正反対だ。
・ 菅直人 …… 大きな政府 / 票よりも理想 (増税も)
・ 小沢一郎 …… 小さな政府 / 票が最大優先 (バラマキ買収)
これほど正反対なのも珍しいぐらいだ。
しかし、この両者の違いは、政策面ではない。
実は、小沢は、政策レベルでは、何かを語ることは少ない。彼は常に「選挙で勝つ」ことだけを考えている。そのために政策は奉仕しているだけだ。(バラマキ買収路線もそう。)
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私の考えでは、小沢の本質は、「権力を取ること」である。それだけだ。
そして、権力を取るためには、民主主義によって多数を握ろうとするのではなくて、金と権謀術策で人々を縛り付けようとする。
かつて、小沢が幹事長を辞職するまで、民主党内には、「小沢に文句を言える人は党内に一人もいない」と言われた。小沢はそれほどにも独裁的な専制体制を構築した。このようなことは、民主主義の世界では、普通はありえない。民主主義と独裁体制は、水と油だ。
では、小沢はどうやって、そのような独裁専制体制を構築したか? それを明かそう。次の過程だ。
- 岩手県内で、自分の権力基盤を高めていく。
- 岩手県内で、公共事業の斡旋をして、多額の裏金を取る。(検察審査会で話題に。)
- この金を使って、民主党内で小沢派を構築する。(議員の買収や選挙支援)
- 幹事長の職を得る。(民主党の金庫番となる。)
- 民主党の金庫の金を、私物化して、権力基盤のために使う。(味方には多額、反対派には少額)
- こうして、「小沢に反対すると、民主党内の金を得られなくなる」という形にする。
- 誰もが小沢に反対できなくなる。(反対すれば党からの配分金を失う。)
- 小沢の独裁専制体制の確立。
こうして、鳩山政権下では、鳩山という党代表よりも、小沢の方が権力が大きくなった。党内の誰もが、小沢を批判できない。批判すれば、金を失う。下手をすれば、党の公認を取り消されてしまうかもしれない。生殺与奪の権を握られているのだ。
小沢が検索審議会で問題となったとき、小沢を批判したのは、前原だけだった。前原だけは、小沢の制裁を受けても、独自に当選できる基盤があるからだ。(党公認を得られなくても当選できる。)それに次ぐのは、菅直人ぐらいか。この二人を除けば、小沢に反対できる人はいない。……それが、幹事長だった当時の小沢の状況だった。
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小沢を擁護する人は、彼の「強さ」や「右翼性」(保守性)を歓迎しているようだ。しかし、それは小沢の本質ではない。政治的意見なら、似たような主張をする人は、たくさんいる。小沢にとって政策などは、ほとんど意味がない。彼にとって大切なのは、権力を握ることだけだ。そのためには、自らに政策方針に反しても、「子供手当」や「高速道路無料化」という大衆迎合的なバラマキ政策を推進する。(小さな政府とは正反対なのに、票のためとなれば、なりふり構わないわけだ。)
秋に小沢が党首となる可能性は、なきにしもあらず。その場合、民主党は、独裁体制が構築される。下手をすると、(今度は首相になるので)検察に対して指揮権を発揮したりして、まともな民主体制をぶっ壊すかもしれない。
さらには、ひょっとして、戒厳令を制定して、自衛隊による国家制圧をなして、反対意見を一切弾圧するかもしれない。そのくらいのことはしかねない。
( ※ たとえば、国民の間に「反小沢」のデモがひろがったりしたら、それを弾圧するために、軍を出す可能性はある。天安門事件の再現だ。小沢ならば、そのくらいのことはやりかねない。)
はっきり言っておく。小沢の本質は、権力を握ることだ。そして、権力を握るのは、自分でなくてはならない。反対者は、可能な限り、弾圧して排除する。(軍事力を使うのは最後の最後だが、少なくとも金銭力を握っている限りは、徹底的にその金銭力を使う。私物化する。)
小沢を歓迎するかどうかということは、政策の問題ではない。政治に民主主義を認めるか否かの問題だ。
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ただし、国民は、不安定な時期には、強い政治家を望む。かつてのドイツがそうだった。ヒトラーは、最初は、「強い政治家」として、圧倒的な国民的人気を博した。広場を埋める何万人もの民衆たちが、いっせいにヒトラー万歳を叫んだ。
小沢もそうなる可能性がある。増税に反対して、素晴らしい喝采を浴びて、国民から圧倒的な人気を博して、強大な権力を握るかもしれない。そして、そのあとで、日本がどう進むことになるかは、昔のドイツの歴史を見ればわかる。
小沢一郎は、ヒトラーの再来とも言える。ただし、ヒトラーよりは、ずっと小物だ。
もし彼が、一回り大きな能力をもっていたら、日本は「世界に冠たる日本」という方針で繁栄する方向をめざすだろう。「小さな政府」という方針で、政府を小さくし、軍備を大きくするだろう。( [ 付記 ] 参照)
そして、軍事費を多大に支出することで、軍事インフレをもたらし、日本を一挙にデフレから脱出させるだろう。人々は「デフレ脱出を果たした小沢一郎」に大喝采するだろう。……そして、その数年後に、日本の完全な破滅がやってくる。
( ※ ただし、小沢一郎に、ヒトラー並みの才能があれば、の話だが。)
[ 付記 ]
「小さな政府」は「大きな軍事」とセットである。このことは、下記項目の [ 余談1 ] で述べた。
→ http://nando.seesaa.net/article/155278896.html
軍備の拡張による軍事インフレは、デフレ対策としては奏功する。この件は、下記項目の 【 補説 】 で述べた。
→ http://nando.seesaa.net/article/154758088.html
[ 余談 ] (読まなくてもよい。)
以上の話を読んで、「大げさだ、誇大だ、針小棒大だ」と思う人もいるだろう。ま、その通りです。私としては、小沢みたいな人は、大嫌いだ。というか、私と小沢は、人間として正反対である。
小沢というのは、「権力を握って、世の中を支配したい」という人間であり、それを実行している唯一無二の人間だ。このような人物は、歴代の総理大臣にはほとんどいなかったと思う。田中角栄は、金銭の面では似ているが、別に他人を弾圧したりはしなかった。「おれの言うことを聞く奴には、おれの金を与える」というふうにはしたが、「おれの言うことを聞かない奴には、党の金を上げないぞ」というふうにはしなかった。小沢に似ているのは、現代では、プーチンだろうか。他にはなかなか見当たらない。
一方、私というのは、権力や常識に逆らうのをポリシーとしている。というか、常識に反することだけを書く、というポリシー。天の邪鬼とも言える。別に、他人の言うことに、何でも反対するわけじゃないが、他人が間違っていると思ったら、声を上げて異を立てる。
仮に、私が民主党内にいたら、小沢批判の急先鋒になっていただろうし、小沢からは目の敵になるだろう。そう言えば、そういうことをした人が、一人いたな。その議員は、小沢から徹底的に干されたようだ。もう一人、生方幸夫副幹事長は、小沢批判をしたあと、解任されてしまった。(のちに世間の批判を受けた民主党が改めて復職。)
とにかく、党内の誰かを批判したら、副幹事長職を解任されるなんて、小沢以外にはありえない。これほどの独裁体制を構築するんだから、私が毛嫌いするのは当然だ。。
とはいえ、世の中には、小沢みたいな人に すり寄る人々も、たくさんいる。だからこそ小沢派は党内で最大派閥だし、民衆からも多くの支持を得る。その点は、ヒトラーと同様だ。だいたい、「反共」を大々的に唱えれば、たいていの馬鹿は「すばらしい」と誉めてくれる。
[ 付記1 ]
小沢の方法は、ある種の教訓にはなる。
あなたが非常に頭が切れるのであれば、あなたは自分の実力だけで生きていける。たとえば、菅直人みたいに頭が切れれば、政界でリーダーとなり、党首となり、ついには総理大臣になれる。(ただし、政界随一の貧乏だろうが。 (^^); )
あなたが頭は凡庸なのに、それでも偉くなりたいのであれば、小沢の方法を真似ればいい。
・ 汚い金をもらう。
・ それを隠す。
・ 発覚した場合のスケープゴートを用意しておく。(秘書)
・ 発覚したら、すべてをスケープゴートになすりつける。
・ こうして、秘書を通じて、汚い金をどんどんもらう。(違法だが。)
・ その金で、地元に権力基盤を整える。
・ 地元で権力を張り、必ず賄賂をもらうシステムを整備する。
・ こうして巻き上げた金で、中央に権力をひろげる。仲間を集める。
・ 反対者がいたら、徹底的に叩きのめす。(見せしめ扱い。)
・ 握った権力のもとで、さらに金を私物化する。
・ 誰も反対できないような恐怖独裁体制を構築する。
このようにすれば、無能であっても、権力を握り、一番偉くなれる。
たとえば、「社長島耕作」みたいな漫画の状況であれば、「島耕作を失脚させる」というシナリオを作り、デタラメな根拠で、島耕作を失脚させる。そのあと、仲間の力で、自分が社長になる。仲間たちの弱みは、私立探偵事務所を使って、しっかり握っておく。誰も反対できないような独裁基盤を用意しておく。
そして、そのためには、前もって会社の金をくすねたりして、会社の金を私物化する。私物化した金で、調査したりして、ライバルの弱みを握っておく。また、味方は、買収する。金で買収できなければ、権力で買収する。そのために、なるべく、人事権などを握っておく。こうして自分の派閥を強大に構築しておく。
こういう話を聞くと、漫画チックに聞こえるかもしれないが、実例はある。それは、F通の新社長だ。あれは、上に述べたような形で、汚い方法で前社長を失脚させて、腹黒い人々が権力を握った。(暴力団との関係が発覚したから自発的に辞任しなさい、と嘘をついて辞任させた。)
小沢の真似をすれば、F通の社長にもなれる。これこそ、無能な人間が偉くなるための、唯一の方法だ。
あなたが無能なのに偉くなりたければ、小沢の真似をするといい。というか、それしか方法はない。無能な人間としては。
[ 付記2 ]
小沢のことを「無能」と表現したが、まったく無能なわけではない。ただの無能であったなら、これほどの影響力を発揮することはできまい。
実は、彼には傑出した能力がある。それは、「根回し」だ。つまり、(自分以外の)人と人との関係をとりもつ。自分以外の他人AとBの間で、仲を取り持つ。(自分のために他人の心を操作しようとすると、へりくだる形になるが、彼はそういうことはしない。かわりに、金の力で威圧する。この点では、下手だ。)
例としては、細川内閣のとき、さまざまな小政党を糾合して、連立政権をうまく機能させたのは、彼の根回しの力による。(ただし、勝手にやりすぎると、「壊し屋」になる。)
現在でも、民主党政権と他の政党(公明党など)とを、うまく連合させるとしたら、小沢に頼るしかあるまい。(他の人は根回しが下手だし、パイプがない。昔と違って、今の政治家には、根回しを上手にできる人がいない。)
このように、彼には「根回し」という点で傑出した能力がある。しかしそれは、リーダーとして必要な能力ではない。リーダーになるための能力にはなるが、リーダーとして政策を打ち出すための能力ではない。こういうリーダーとしての能力なら、舛添の方がはるかに上回っている。しかし、舛添には、リーダーになる能力がない。仲間を作る能力がない。それどころか、まわりの人々からは毛嫌いされている。この点では、小沢とは正反対だ。
菅直人や、舛添や、小泉は、リーダーとして理念を掲げる能力をもつ。一方、小沢は、そういう能力はないが、根回しによって、派閥を作り、党内で傑出した権力基盤を形成する能力をもつ。
とはいえ、こういう能力(根回し能力)は、民主主義には反する。民主主義とは、ある理念に対して賛否を投票し、そのあと多数決で決着する制度だ。
小沢のように「理念に構わず、根回しによる人間関係で決着する」というのをめざすのは、民主主義ではなくて、前近代的な村社会の仕方だ。そして、それが民主主義のなかで権力を握ると、「おれに反対する奴は弾圧する」という形になる。つまり、独裁。
こういう結果になる、ということを、先の本文では示した。(この「付記2」では、それを「根回し」という概念で説明した。)
今日の南堂さんのブログにはスカッとしました。
私も利権屋の小沢氏は大嫌いです。
日本の国をどうしてくれるのか?と問いたくなりますが、それでもゾッコンの人達がいるのには驚くばかりです。
早く日本をまともな国にするべく完全に政治家を引退して欲しいと思っています。
それか金問題で政界から追放されると良いと思っています。
私は、小沢元幹事長が民主党の乗っ取りを謀り、民主党に合流した頃までは、この凡百の見解と全く同じ感情を小沢元幹事長に抱いておりました。しかしながら、その後のマスコミ報道や、昨今の異常なまでの検察の動きを見ていると、判官贔屓の気持ちもあってか、巷間語られていることが、どうしても真実を語っているように思われなくなってしまいました。
小沢元幹事長がいまだ捨て去っていないと思われる、新自由主義的な考え方に疑念を持ちながらも、鳩山・小沢のW辞任以降、迷走が際立つ管総理(心底失望させられました)に代表される、全く政治権力に疎い民主党の面々たちの中で、唯一政治権力とは何であるかを知り尽くした、小沢元幹事長こそ民主党には欠くべからざる人のように思われます。
現在の日本において、小沢元幹事長に権力を持たせることによる民主主義の危機よりも、小沢元幹事長を抹殺する非民主的動きの方が、よほど危険に思われてしまいます。それこそ独裁者の思うつぼであると思われるであろう、南堂様には、目の覚めるような論評を期待していたのですが。
> 目の覚めるような論評を期待していたのですが。
期待のしすぎです。 (^^);
小沢関係では、特にありません。「わらしべ長者」ということ以外は。
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なお、「小沢の能力を取り込め」というのは、菅直人の持論であり、小沢の自由党と合併したときから菅直人の信念です。だから菅直人は、小沢と喧嘩しないわけ。
それは新聞でもたびたび説明され、広く知られてきたことですから、いちいち書かなかっただけです。ま、小沢を幹事長としてうまく使いこなしたい、という菅直人の政治方針は、なかなか賢明だと思いますよ。鳩山みたいに、軒を貸して母屋を乗っ取られるようだと困るが。
> 全く政治権力に疎い民主党の面々たちの中で、唯一政治権力とは何であるかを知り尽くした、
それはヒトラー待望論と同じですね。その点については、本文中で言及しています。
> 小沢元幹事長を抹殺する
それは相当被害妄想です。菅直人は「小沢さんにお会いしたい」と望んでいるのに、小沢の方が雲隠れしているだけ。一国の首相に「お会いしたい」と敬語でいわれる男は、小沢だけです。(若い美女は別として。)
ただただ私欲を増やしたいのでしょうか?
他人を自分の思うとおりに動かしたいだけでしょうか?
国民や国のことはまったく考えていないのでしょうか?