◆ 金融工学という詐欺:  nando ブログ

2013年02月05日

◆ 金融工学という詐欺

 金融工学は詐欺である、と私は前に指摘したが、どういう詐欺であるかが、はっきりとした。格付け会社が不当に高い評価を与えていたのだ。

 これまでの流れ


 まず、これまでの流れを復習しておこう。

 金融工学は詐欺である、と私は前に指摘した。2008年秋に米国金融危機があったが、それよりも前に指摘していた。
  → 米国の金融危機の予測 ( 2012年10月14日 の解説)
  → 予告された米国金融危機 (私の予告のまとめ)
  → サブプライムローンとデリバティブの過去記事 ( 2008年09月22日 以前の過去記事一覧 )

 金融工学がどういうものであるかは、次の項目で解説した。
  → 金融工学の意味
 
 その結果、金融危機が起こったことについては、次の項目で説明した。
  → 米国の金融危機の理由 1
  → 米国の金融危機の理由 2
 
 ここには、次の記述がある。(金融工学で金儲けができた理由。)
  • 金融工学ではさらに、CDO というものが登場した。これは、リスクを整理することで、うまく利益をもたらす「マジック」のような方法だ。
  • 具体的に言うと、CDO では、ハイリスクのものやローリスクのものをひとまとめにする。ハイリスクはハイリターンで、ローリスクハローリターン。そこまでは普通と同じ。ただし、ハイリスクのものをたくさんまとめることで、リスクを下げることができる。(数学的に。)……そのことで、リスクを下げる分、利益をもたらす。
  • その際、リスクを正当に評価することが大事だ。ところが、リスクがどうなるかは、未来予測に関することだから、誰にもわからない。(神のみぞ知る。)したがって、その分の考察は放棄して、残りの数学的な操作の分だけで、リスクを下げる。
  • このようにして、「リスクが少なくて大儲けできますよ」という商品を販売した。それがデリバティブ商品であり、金融工学の成果だ。
 ここで疑問に思えるのが、次の箇所だ。
 「ハイリスクのものをたくさんまとめることで、リスクを下げることができる。(数学的に。)」
 ま、確率的に、そういうことは、いくらかはある。しかし、その量は微小であるはずだ。なのにどうして、デリバティブをやる金融機関は、あれほどボロ儲けできたのか? 

 これまで説明されてきたのは、次のことだった。
 「金融工学では、ブラック-ショールズ方程式を使ったが、それは事象が正規分布の形で起こることが前提とされていた。ところが実際には、(金融や株価の)事象はべき分布で起こる。つまり、極端な変動を起こす大事件は、理論で前提とした割合よりも、はるかに大きな頻度で起こる。そのせいで、起こりそうにない大変動が起こったので、リスクを過小に見込んでいた金融工学は破綻した」

 上のことが、これまでの説明だった。

 格付け会社の不当な評価


 ところが新たに、次のニュースが報じられた。
 「格付け会社が、金融商品を不当に高く評価していた。その理由は、『格付け会社は評価される機関から金をもらう』という、持ちつ持たれつの関係だった」 …… (

 つまり、格付け会社は、いい加減な金融商品に不当に高い評価を与えることで、その金融商品を販売する会社から高い格付け手数料を得ていた。
 一方、格付け会社に高い評価をしてもらった販売会社は、金融商品を不当に高い価格で販売できた。(販売価格は高く、金利は低め。)…… ここでは、リスクは過小評価されてきた。経済がうまくバブルの上昇基調に乗っている間は、その問題は発覚しなかった。しかしバブル収束とともに経済が下落局面になると、あちこちで債権の破綻が起こった。もともと予想されたよりも、はるかに高いリスクで破綻が起こった。そのせいで、債券の購入者は、大損した。
 
 以上が、新たに判明したことだ。特に、() の件が報道された。報道を一部引用しよう。
 《 米司法省、格付け会社S&P提訴へ 「不当に高く評価」 》
 米司法省は、2008年の金融危機のきっかけとなった住宅ローン関連証券について、不当に高い格付けを与えていたとして、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)を近く提訴する方針を決めた。
 司法省が問題にしているのは07年に同社がつけた債務担保証券(CDO)の格付け。CDOは、複数の住宅ローンから得られる金利収入などを束ねた金融商品で、証券会社などが作って投資家らに販売した。
 CDOには低所得者向け(サブプライム)ローンも含まれていたが、S&Pは最上級の「AAA」を与えていた。しかし住宅バブルが崩壊してローンが焦げ付き、CDOの価格も大幅に落ちて、格付けを信用して購入した投資家が損失を被った。
 こうした高い格付けは証券に過大な信用を与え、住宅ローン市場の膨張を招き、08年の金融危機につながったと非難されてきた。
( → 朝日新聞 2013-02-05
 こういうことがあったんですね。格付け会社が、詐欺の片棒を担いでいたわけだ。
 本項の前半では、「ハイリスクのものをたくさんまとめることで、リスクを下げることができる。(数学的に。)」と述べた。だが、数学的に決まる量よりも、はるかに高い有利さが生じていたのが、不思議だった。しかしその理由は、今や判明したのである。
 「格付け会社が不当に高い評価を与えていたのだ」
 と。そしてその理由は、
 「そのことで格付け会社が金をもらっていたからだ」
 と。
  
 ──

 これで、ちょっと思い出すことがある。
 米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は22日、日本国債の格付けに関するリポートを発表し、財政健全化が進まなければ格下げに踏み切る可能性があると指摘した。
( → 時事通信 2012-10-22
 日本国債を韓国国債よりも低く格付けするなんて、とんでもない……と思ったが、今になると、わけがわかる。こうだ。
 「S&Pは日本政府に対して、たかりをしていた。『格付けを高めてもらいたければ、格付け料を払え。払えば、格付けが高くなるので、金利を低く設定できる。そうすれば、かえってお得ですよ』と。」(推測)

 これに対して、日本政府は当然ながら、要求を蹴っ飛ばしたと思える。なぜならゼロ金利下では、国債の金利はもともとゼロ同然であり、金利を下げる必要はないからだ。また、財務省の官僚は優秀なので、こんなごろつきの要求を聞いて金を払ったとは思えない。

 S&Pは、しばしば格付けで話題になるが、こいつは、金融界のごろつきなのである。で、こいつがかつては金融工学でバブルを引き起こして、2008年秋の金融危機を招いて、世界経済をどん底に落としたわけだ。
(日本はいまだにそこから立ち直っていない。株価は直前の 14000円の水準 には戻らず、大きく下落したままだ。 → 株価グラフ

 
posted by 管理人 at 20:01 | Comment(10) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
韓国国債の格付けを上げて、金を集めて
搾り取ったら、夜逃げ同然に撤退していますよね
金融詐欺の会社
Posted by あわれな韓国 at 2013年02月06日 00:22
野口悠紀雄の著書「金融工学こんなにおもしろい」には、「金融工学で儲かる」という話には、釘を刺してます。金融工学は、リスク(変動)を最小にするだけだ、儲かるわけではないときちんと書いてます。
Posted by 井上晃宏 at 2013年02月06日 08:12
> 野口悠紀雄の著書「金融工学こんなにおもしろい」

 その本、野口悠紀雄にしては珍しく、まともなことを書いているんですよね。彼の経済論で私が納得できたのは、これだけ。よく考えてみたら、彼の専門だった。
 一方、彼のマクロ経済学の主張は、デタラメだらけ。その点では、池田信夫と双璧だ。(池田信夫はリフレ批判だけは正しいが。)

 ところで、証券会社や銀行は「デリバティブで大儲け」という舌先三寸で、あちこちで売りつけていたんですよね。だから学校法人などが大損をこうむった。証券会社や銀行だけじゃなくて、朝日新聞も「デリバティブで大儲けをしよう」と日本の都銀にけしかけていたから、都銀も大損したところがある。というか、大損させた方かな。被害者は学校法人など。

> 金融工学は、リスク(変動)を最小にするだけだ、儲かるわけではないときちんと書いてます。

 私も書いたはずだと思って検索してみたら、同じことを下記で書いていた。
http://nando.seesaa.net/article/108310749.html(2008年10月01日)
http://openblog.meblog.biz/article/36367.html(2006年08月24日)

 彼が書いたのは私のパクリかな……と思って発売日を見てみたら、彼の方がずっと先に書いていた。これじゃ私がパクったみたいだ。カッコ悪い。  (^^); 
Posted by 管理人 at 2013年02月06日 12:45
>財務省の官僚は優秀なので

国債に関してはかなり気をつかってるでしょうね。
確かに優秀なのは認めますが、
デフレのまま財政再建するという考えが省内にある様で、
肝心要のマクロ経済については……。

ところで、格付け会社はかなりいいかげんな様です。
書籍名は失念しましたが高橋洋一氏の著作の中で、
かつて日本政府が発行を「止めた」国債を格付け会社が格付けしていたことがある、とありました。
こうなるともはや不当な評価云々以前の話、まさにごろつきですね。
Posted by プリズム at 2013年02月06日 22:37
格付け会社の制度、投資理論におけるリスクと、リスクの分散効果についてもう少しお勉強された方が良いかもしれません。批判が素人向けのテレビ番組が正しいことを前提としているようですね。
リスクの分散効果は、50年ほど前の理論からはるかに進みました。少しだけではなく、適切にやれば劇的な効果を現します。
「金融工学」は昔の理論にしがみついている人がまだ多く残っているので、(それを文系経営者は区別がつかない)リーマンショック時は失敗した会社が出たわけです。

Posted by いぬわたり at 2013年09月18日 07:29
追加。
「金融工学は詐欺だ」ということには、大きな反論はしません。現在の金融工学では、不十分、あるいは、すでに必要なリスクに対応できていない手法に頼っているケースもまだまだ多いから。そういう人たちは無知からくる過ちは、詐欺なのか過失なのは。。。ただし、主張の一部は金融工学に詳しい、内容的にも鋭い「ブラック・スワン」で指摘されている内容の受け売りかな〜。
Posted by いぬわたり at 2013年09月18日 19:43
 「金融工学は詐欺だ」ということは、2006年以降、あちこちの項目で何度も書いていますから、そっちの項目を読むといいですよ。
 本項でもリンクがいくつか示してあります。そのリンク先の、そのまたリンク先をたどっていけば、たくさんの項目を読めます。

 一番古いのは……
 金融工学については、これ。
  → http://openblog.meblog.biz/article/18724546.html
 いろいろ一覧は、これ。
  → http://nando.seesaa.net/article/106819538.html
 これを見るとわかるように、デリバティブについては、2002年から批判しています。
 「ブラック・スワン」(2007年)なんて、私よりもずっと後に書かれたものです。
Posted by 管理人 at 2013年09月18日 21:37
さっそくのコメントありがとうございます。
はい、私は金融の本職筋ですので、「詐欺だ」説を「制度の欠陥」という指摘ととらえて、反論はしません。
「デリバティブ」と一括りで言いますが、普通の契約、アマゾンのネット注文にもデリバティブが含まれているのをご存知ですか?普通の火災保険にも。レンタカーの契約mにも。それは詐欺ですか?(笑)
また、おそらくご存知と思いますが、日本の証券取引所も始めた高速取引への対応ですが、あれは公営公認詐欺と言ってもおかしくありません。その意味はわかりますか。
しかし、これらは人間の生きる社会のあちこちに潜む制度の欠陥(あるいはアノマリー)で、それを活用できる人間・組織にとっては、リスクの少ない儲ける機会です。
この世界で長年生き残ってきた私は、おかしいと感じても、お役所や、世界の潮流や、政治家の思い込みで制度が変わることを散々見てきましたし、生き残りのために制度の欠陥を利用するのは、ガラパゴスのゾウガメも選択した(偶然淘汰の)知恵に過ぎません。
とても面白くよませていただきました。これからもご活躍を祈念いたします。
Posted by いぬわたり at 2013年09月19日 02:36
 詐欺というのは「これは儲かりますよ」と嘘をついて、客に買わせた場合に限ります。(デリバティブの勧誘販売ではしばしばなされました。)

 制度そのものを詐欺と言っているわけではありません。デリバティブの勧誘販売(素人向け)のことを言っています。
 制度を廃止しろと言っているのではなく、嘘つきの勧誘販売にだまされるなと言っています。
Posted by 管理人 at 2013年09月19日 07:30
了解しました。金融業界で働くものとして、詐欺や問題が発生する度に、規制が強化されるのですが、実質的に「客に儲かると言ってはいけない」「全額失うことがあります」とリスク表示せよという規制が導入され。それでも詐欺をしたくなる悪徳業者はいる。また理論上あり得ない利益でも「おいしい話」乗りたい人は少数ながらいる。
私がお付き合いしている、ゼロが9個ならぶ金額を少額のお付き合いというプロでも、かなりわかっていると言えるのは1割ぐらいですから。
金融工学については、他の学問と違って金に直結しているので(同じか?)情報が隠される傾向がある。またリスクをとった者勝ちで、バブルが弾けるまでに(給料・ボーナスをもらって)儲けて、下落したらクビになっても過去もらった給料を返す必要はない。
ならば正しい理論でリスクを抑えるよりも。。。というモラルハザードが起きやすい。特に経営層が金融工学も理論も理解できないことが多いため目先の利益優先でブレーキが存在しなくなります。
実は、この構図は金融工学やデリバティブばかりでなく、単純な株式の発行や、
社債の発行でも全く同じです。1998-99年頃のitバブルの頃の一部の銘柄(上場企業)の「一般には詐欺とは糾弾されないが、投資家心理を操る様な行動」は、経営者が陥る、詐欺まがいの(経営者にとって)おいしい話と(投資家にとって)悲劇の繰り返しです。

Posted by いぬわたり at 2013年09月19日 19:20
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