──
ウクライナ問題が困難にぶつかっている。
・ 西部と東部の対立がひどい。
・ クリミアはロシアに奪われた。
・ ウクライナには巨額の債務があり、破綻寸前。
・ ロシアからの巨額の援助が消えて、大幅赤字。
・ 西側諸国は援助をするが、とうてい赤字を解消できない。
もう、滅茶苦茶である。これを解決するには、どうすればいいか?
──
そこで困ったときの nandoブログ。名案を出そう。
まずは基本はこうだ。
「物事の本質を考えよ」
例によって例の方針だ。それに従って本質を考えると、こうなる。
・ ウクライナはもともと西部と東部の対立があった。
・ 西部は親欧的。東部は親露的。
・ 言語や民族も、西部は西欧的で、東部はロシア的。
・ 経済もまた、西部は西欧的で、東部はロシア的。
これだけならばどうってことはないのだが、さらに次の重要な点があった。
・ 西部は農業主体で、東部は工業主体。
・ 西部は農業なので、欧州との貿易を望む。
・ 東部は工業だが、西側との競争力がなく、ロシアにしか輸出できない。
・ 豊かな東部から、貧しい西部へ、巨額の資金援助があった。
これをまとめると、全体として、次の構図があった。
「ロシアはウクライナを自国の圏内に留めるために、巨額の援助をしていた。天然ガスを安価で与えることで、巨額の援助を直接与えていた。さらに、ウクライナの工業製品を優先的に買い付けることで、ウクライナの工業を成立させていた。そして、それによって工業を発展させていた豊かな東部から、貧しい西部へと、巨額の資金流出があった」
図示すると、次の資金の流れがあった。
ロシア → ウクライナ東部(工業) → ウクライナ西部(農業)
こうして、ウクライナ西部は間接的に、ロシアから巨額の援助を受けていた。これはこれで問題なく安定する。長年、この状態が続いていた。
ところがあるとき突発的に、ウクライナの中部と西部に「親欧派の民主運動」が起こった。これは、欧州諸国の仲介で、政府との間で和睦協定を結んだ。この協定が守られていれば、何も問題はなかった。
しかるに親欧派は、クーデターを起こして、親露的な政権を崩壊させた。のみならず、ロシア語の「準公用語」としての扱いを停止して、ロシア派の住民を弾圧した。つまり、西部・中部が東部を弾圧しようとした。
ここにおいてロシアは権益の失効を恐れた。クリミアを選挙して併合し、かつ、巨額の資金提供をやめた。かくてウクライナ全体が財政破綻の危機に瀕した。
以上を簡単にまとめると、次のようになる。
「西部は、親欧政策という方針でクーデターを起こして、独裁的な政策を取り、東部を弾圧しようとした。ところが、西部はその金を東部およびロシアに頼り切っている。自分が弾圧しようとしたものに、資金を頼り切っている。そのあとで、弾圧しようとしたものから、資金を打ち切られて、困ってしまった」
本質的に言えば、西部はきわめて虫のいいことを考えていたことになる。
「あなたに従いますから、お金を下さい」
と申し出て、お金を毎年もらっていた。ところが突然、
「あなたには従いません。自分の好き勝手にします」
と前言をひるがえした。
そこで相手は、「あ、そう」と言って、資金の提供を中止した。するとウクライナはたちまち金に困って破綻寸前になってしまった。
これが本質だ。
──
ところが西側諸国は、これを経済的に捕らえることができない。単に「西側民主主義とロシア的弾圧の対立」というふうに、政治的にとらえるだけだ。そのあとで、「ロシアが巨額の金を援助してくれなくなって大幅赤字」という経済的な困難に直面して、「困った、困った」と騒いでいる。
つまり、自分で財政破綻を引き起こしておきながら、「どうして財政破綻が起こったんだろう? 不思議だなあ」と思っている状態だ。
簡単に言えば、自分で自分の手にナイフを突き刺しておきながら、「どうして自分の手は出血して赤くなっているんだろう? 不思議だなあ」と思っているありさまだ。愚劣の極み。
──
ここまで理解すれば、対策もわかる。こうだ。
「基本は、元の状態に戻すこと。つまり、ウクライナ全体をロシア圏に戻す。同時に、ロシアから巨額の援助をもらい続ける。また、クリミアも元の状態に戻す」
これによってすべては元通りになって解決する。
ただ、現実的には、それは困難だろう。西部の人々がとても納得しそうにない。「せっかく西欧的になれたのに、またロシア的になるのはイヤだ」と言うに決まっている。つまり、上記の「原状回復」という方針は、実行不可能だ。
そこで、上記の基本を踏まえた上で、新たに提案をしよう。
まず、すでに知られたように、次の案がある。
「東部と西部を分けた連邦制にして、東部の独立性を高める。東部ではロシア的な政策や自治権を認める」
これはこれで一案だが、「原状回復」にはほど遠い。ロシアが巨額の援助をしてくれそうにない。ロシアはクリミアを元に戻すこともありえない。
そこで、代案として、次の案を示す。
「東部と中部と西部を分けた連邦制にして、西部についてのみ独立性を認める。中部と東部ではロシア的な政策や自治権がある原状回復となる。一方、西部については、ほとんど独立の扱いとして、親欧的な状況を認める」(★)
これはとても名案である。なぜか? この場合、西部は破綻するしかないからだ。西部はロシアからの巨額の援助を受けられなくなるし、東部からの巨額の援助も受けられなくなる。大幅赤字のギリシャよりもずっとひどい状況だ。国家として成立しない。もともと「ロシアと東部の乞食」みたいなものだったのだから、乞食が独立して成立するはずがない。
となると、西部としては、次の二者択一となる。
・ 西側諸国から永続的に巨額援助してもらう。(乞食の継続)
・ 中部と東部に頭を下げて、元のウクライナに戻る。
この二者択一を迫られる。で、そのあとは? ウクライナは前者を望む。しかし、西側諸国は、とうてい受け入れるはずがない。一時だけならともかく、毎年巨額の金を援助するなんて、ありえない。かくて、西部の夢は破綻する。そして、夢が破綻したあとで、現実に戻る。そうなると、残された道は「原状回復」しかない、とわかる。かくて、後者の道が取られる。
──
要するに、私の提案は、「本質を探ったあとで、その本質的な問題を根源から解決する」という方針だ。
一方、世界各国は、物事を表層だけで扱う。「ロシア圏から脱したことで、ロシアからの巨額の資金援助をなくした」という本質を見ないまま、表面の財政赤字だけを見て、「財政赤字を解決するにはどうしたらいいだろう? 西側諸国が援助すればいいな」と思っている。馬鹿馬鹿しい。そんな援助は本質的に不可能だ、ということを理解できていない。かくて、できもしない援助を実行しようとしている。「たとえ今年だけ援助をしても、今後も巨額の赤字が発生し続ける」ということを理解できずに、「目先の赤字さえ対処すればいいさ」と思い込んでいる。
はっきり言えば、ウクライナ西部は「大幅赤字企業」なのである。そのまま赤字の発生を続けることなど、できるはずがない。だったら、破綻させるしかないだろう。破綻させれば、現状よりもずっと悪い状況で、会社更生法のもとで再建することも可能だ。
なのに、破綻させることもなく、現状の「すこぶる有利な状況」を続けようとする。かくて、莫大な赤字の発生を止められず、大幅な赤字が毎年毎年発生し続ける。
物事の本質を見抜けない人々は、何をなすべきかも理解できないのである。
[ 補足1 ]
実は、本項で述べた提案は、実現は困難だ。「西部だけの分離独立」(★)というのは、およそ実現しがたい。西部が納得しないからだ。なぜなら西部は、こう望んでいるからだ。
「西部は政治的にはロシアから離れたくない。しかし経済的には、ウクライナを一体化させたい。つまり、ロシアと密接に結びついている東部と結合することで、ロシアや東部の金をもらいたい」
たとえると、こういう女だ。
「私はあなたのことが好きじゃないから、結婚はしたくないの。だけど、あなたのお金が欲しいから、結婚しているのと同様にしてほしいの。つまり、私を養ってほしいの」
何とも虫のいい話だ。呆れるばかり。これがウクライナ西部の主張だ。かくて、東部が「別れたい」と言っても、なかなか話がまとまらない。
では、どうすればいいか? 現実策としては、こう提案したい。
「東部・中部・西部に分割して、連邦制にする。ロシアは援助額を3分割して、親露的な国家のみに援助を与える。まずは東部だけが援助をもらう。それを見て、中部も援助がほしくなり、中部は将来的に親露的になる。その間、西部は財政破綻のまま、西側諸国の援助をもらって生きながらえるが、やがて西側諸国が援助負担に耐えかねて、『もう払えん』と言い出す。この時点で、西部は破綻状態となる。そのあとで、西部は親露的になる」
こうして、「東部 → 中部 → 西部」という順番で、次々と親露的になっていく。と同時に、赤字の負担者は、西側からロシアへと転じていく。かくて最終的には、原状回復がなされる。つまり、元のサヤに収まる。
「私はあなたのことが好きじゃないから、結婚はしたくないの」
と言っていたわがまま女は、「この男しか養ってくれる相手はいない」と気づいた時点で、わがままを言うのをやめて、その男といっしょに暮らすことになる。そのとき、文句をプータラ言うのをやめれば、元のように仲良く暮らせるだろう。
問題の根源は、わがまま女の勝手なわがままだったのである。そのわがままがなくなれば、すべては元のサヤに収まる。
[ 補足2 ]
上の提案は、実現可能である。では、実現するか? いや、実現しないだろう。なぜなら、欧州諸国も、ロシアも、「自分だけが正しい」という偏った認識をしているからだ。この件は、下記ページで詳しい。
→ ウクライナ危機 衝突する二つの論理 藤原帰一
一部抜粋しよう。
欧米のテレビ局、BBCやCNNでは、ロシアによるクリミア併合はナチス・ドイツによるチェコのズデーテン地方併合に匹敵する武力行使であると伝えていた。そこには、どれほど形式的には議会制民主主義をとっていても、ロシア政府は欧米諸国と人権や民主主義を共有する存在ではないという認識がある。
ロシアのテレビは、まるで違う物語を伝えていた。ウクライナの政情不安が激化した昨年 11月以来、ロシア国営放送は、ウクライナ各地でテロリストがロシア系国民の安全を脅かしていると繰り返し伝えた。そこでは、首都キエフの反政府運動は、選挙によって選出されたヤヌコビッチ大統領を暴力で追い落とす、ナチスに類する反民主勢力にほかならなかった。
双方が「自分こそ正しい、相手は間違っている」というふうに言い張っている限り、真実は見えないし、解決も不可能なのである。
( ※ だから「真実を見よ」と告げるのが本項だ。何らかのうまい案を提案する前に、まずは現実そのものを理解することが先決だ。)
( ※ といっても、愚か者は、真実が見えない。だからこのままずっと混迷が続くことになる。正しい解決策はあるのだが、それを理解できないのだ。解決策がないから解決しないのではない。解決策はあるのだが、それを理解できないから、解決しないのだ。)
※ 以下は、背景の解説です。
[ 付記1 ]
ロシアがクリミアを選挙したことを「不当だ」と見なす人が西側諸国には多い。これは現実を無視した発想だ。
ロシアにとってクリミアは地中海に出るための唯一の港湾である。これは軍事的に絶対に必要なものだ。だから帝政ロシアの時代から何としても奪おうと努力して、ようやく獲得したものだ。これを失えば、地中海への出口を封じられるから、致命的に痛い。ゆえに、ここを譲歩することは絶対にできない。
それでも今までは、「ウクライナ領であると認めなながらも、ロシアが借り受ける」という形で利用してきた。その代償として、莫大な金も払ってきた。¶
ところがこのたび、ウクライナは反ロシア政権を樹立させて、ロシアとの関係を断とうとした。これはロシアにとってクリミアを失うことを意味する(少なくともそう感じられる。)
となれば、ロシアがクリミアを失うまいとして、クリミアを選挙するのは当然のことだ。なぜなら、「ロシアとの関係を維持して、ロシアにクリミアを貸与する」という道が封じられたからには、次の二者択一しかありえないからだ。
・ クリミアを失って退却する
・ クリミアを奪って占拠する
この二つのうち、前者は軍事的に言ってありえない。ゆえに、後者を取るしかない。
つまり、ウクライナは、新ロシア政策を捨てた時点で、クリミアを奪われるしかなかったのだ。そして、それにもかかわらず、クーデターの形で(非合法的に)政権を打倒して、新ロシアから親欧へと方向を転じた。
この時点で、ウクライナ新政府は、クリミアを奪われる道を自分で選択したことになる。
- ¶ これは沖縄とは逆である。日本は米軍に駐留してもらうために、莫大な金を払っている。こんな馬鹿げたことをしている国は、日本だけだ。他国は逆に、駐留代として、米国に莫大な金を請求している。
[ 付記2 ]
一般的には、政治の力学関係としては、次のことが成立する。
「二つの勢力が対立しているときに、双方に妥協が成立すれば、中間的な政策で合意が可能である。その後、一方が妥協を破棄することがある。その場合、双方はそれぞれ自分にとって最大のものを得ようとて、奪い合いが起こる。たいていは、何かを得て、何かを失う」
ウクライナもそうだった。親欧的な西部は、親欧的な政策を得ることができたが、同時に、親露的な政策を失った。そのことで、ロシアからの莫大な援助を失い、クリミアを失った。
欧州には、民族が混在している地域がたくさんある。そういう地域では、民族が宥和して、譲歩しあうことが、共存するための唯一の道である。
なのに、一部の民族が、「多数派だ」という理屈で少数派を排除しようとすれば、とんでもない争いが起こるに決まっている。
近年、欧州で続いてきたのは、そういう無駄な争いだった。ソ連の崩壊後、クロアチアの独立に始まり、あちこちで親欧派の人々がユーロに近づこうとした。そのとき、東側に属する人々を犠牲にしようとした。そこから無用な民族の対立が起こった。
しかも、それを西欧諸国が諌(いさ)めるどころか、助長した。「勝手なことをするな。少数派に配慮せよ」と戒めればよかったのに、逆に「もっとやれ。どんどんやれ」とけしかけて、東側の人々を虐待するように仕向けた。かくて、あちこちで無駄な争いが起こった。
西欧の人々も、米国も、日本も、その失敗から何も学んでいない。単に「西欧の民主主義の普及が大切だ」と思い込んでいる。そうして他の民族を弾圧・虐待することが善だと思い込んでいる。
おのれの価値観を絶対視して、他人の価値観を尊重できないから、無駄な争いが絶えないのである。今のウクライナは、その一例にすぎない。
【 追記 】
読売新聞 2014-04-16 の報道によると、ウクライナはロシア向けの武器輸出を停止することにしたという。
これは、越えてはいけない一戦を、とうとう越えてしまったことになる。
これは長期的には、ウクライナの軍事産業の壊滅を意味する。もともとロシア向けが主体の産業であり、独自の武器開発力などはないからだ。西側の兵器と競合できるはずがないし、軍事産業は壊滅するだろう。
もっと重大なのは、ロシアがその先端軍事をウクライナに頼っていたということだ。ソ連は工業をウクライナに集中させていたせいもあって、ウクライナに武器工場があった。それを失えば、ロシアは軍事的に大きな痛手となる。(読売)
とすると、どうなるか? ロシアにとっては失うことはできないから、残された選択肢は一つしかない。東部および中部を独立させて、ロシアへの輸出を許可させることだ。これは、東部と中部の住民の支持を得る。(住民が失業しないで済むからだ。)
結果的に、東部および中部は独立して、ロシア圏に組み込まれることになる。その際、武力も使われるだろう。最悪の結果となる。
ウクライナの現政権は、ほとんど狂気の選択をした。宥和する代わりに、極端に対立する選択を選んだ。このあと、戦争も起こりかねない。
今後の推移に着目するべきだろう。このあとは地獄に向かって突き進むことになりそうだ。(西側諸国がウクライナを支援したせいで、ウクライナは最悪の決定をしてしまったのだ。)
争いを起こせば、軍需産業(死の商人)が儲かりますからね。