◆ 労働生産性と残業:  nando ブログ

2014年11月07日

◆ 労働生産性と残業

 労働生産性の向上をめざすなら、残業を減らすべきだ。( 現状では、生産性の向上が必要だと言われているが、残業の増加をめざすのでは方向が逆だ。)

 ──
 
 この件は、小室淑恵 がインタビュー(朝日新聞・朝刊 2014-11-07 )で述べている。以下、抜粋・引用しよう。(記者の質問に答える形。)
 ――長時間労働はなぜなくならないのでしょう。
 「社員が短時間で成果を出しても、会社が評価する仕組みになっていないからです。チームを組んだ社員が早く仕事を終えて帰ると、会社は『余力がある』と判断し、仕事を増やす一方、チームの人数を減らします。
 ――早く家に帰るより、「もっと働きたい」という社員もいるのでは。

 「日本では長時間労働が当たり前ですが、先進国の中で時間当たりの労働生産性が低く、人件費は中国人の8倍、インド人の9倍です。時間はコストなのです。
 ――働く時間にかかわらず成果で賃金を支払うとして「残業代ゼロ」となる働き方の導入が検討されています。

 「年収が1千万円以上の人に限定して導入すると議論されていますが、それが産業の競争力をあげることになるとは思えません。労働時間を管理せずに成果でのみ評価すると逆に一番時間をかけられる人が勝ってしまい、育児や介護もできずに倒れるまで働く結果となります。
     *
 こむろ・よしえ ワーク・ライフバランス社長 資生堂勤務を経て06年に起業。政府の産業競争力会議の民間議員を務める。
( → 短時間での成果に評価を 小室淑恵さん

 ──

 ここでは大切なことが述べられている。
 企業や経済学者や官僚は、経済政策の際に、やたらと「生産性の向上を」と唱えている。ここで、「生産性」というのは、「時間あたりの生産額」であるから、生産性を向上させるには、労働時間を減らすことが必要なわけだ。

 ところが、安倍内閣は、「残業代ゼロ」という法案を通そうとしている。
  → 「安倍内閣 残業代ゼロ 法案」 - Google 検索
 
 このように「残業代ゼロ」をめざすのは、「やたらと残業をさせよう」ということであり、「残業によって労働時間を増やそう」ということだ。これでは、「労働生産性をかえって下げてしまう」という結果になる。
 めざす方向がまるきり正反対だ。安倍内閣は、日本を高賃金の先進国にしようとしているのではなく、日本を低賃金の後進国にしようとしているのだ。なぜ? 
 「日本が後進国になれば、低賃金の労働者を使って、企業がたくさんの利益を上げられる」
 と経営者が思うからだ。

 ところが、ここには、大いなる錯覚がある。仮にそれが実現したなら、たしかにコストは大幅に下がるが、同時に、所得もまた下がるから、日本の市場が縮小してしまうのだ。企業としては、「コストが減るぞ」と喜んだのもつかの間、市場の縮小によって、景気後退に悩むことになる。

 そして、これが実は、現在の「不況」なのである。賃金も物価もどんどん低下し、かつ、国内の経済規模が縮小する。……現実には、文字通り縮小しているわけではないのだが、本来ならば年 2.5%の経済成長があるべきところを、もっとずっと低い成長率であるせいで、どうしても景気後退感に悩まされる。その間、人々は、低賃金に悩まされることになる。

 ──

 ひどいものですね。マクロ経済学を理解しないと、こういうことになる。



 [ 付記 ]
 マクロ経済学とは何か? 一言でいえば、「所得の理論」だ。
 ミクロ経済学では、市場だけを見るので、需要と供給だけを見る。
 マクロ経済学では、需要と供給のほかに、所得を見る。すると、次のことがわかる。

  需要の縮小 → 生産の縮小 → 所得の縮小 → 需要の縮小


 つまり、所得の縮小があるせいで、「いったん需要の縮小があると、それがスパイラル的に拡大していく」という原理がある。
 そして、このスパイラルを止めるには、自由放任では足りない。何らかの形で「所得の縮小」を止めないと、「需要の縮小」や「生産の縮小」のスパイラルは止まらないのだ。

 ここを理解しないのが、市場原理主義者(別名・古典派経済学者)である。彼らは、「マクロ経済学は所得の理論だ」ということを理解できない。だから、所得については考えないまま、「市場の調整だけで足りる」と思い込む。そして、「商品市場については介入できないが、金融市場については介入できるから、資金供給を増やせばいい。それで金利を下げればいい」と思う。
 しかし、ある程度金利が下がると、ゼロ金利になるので、金利はもはや下がらない。かくてなすすべはなくなる。
( ※ 実は、この状況では、たとえ効果があっても、微小である。金融政策が有功なのは、資金需要が大きいとき、つまり、金利が高いときだけだ。金利が低いときには、金利を少しぐらい下げても上げても、効果はたいしたことはないのである。)

 マクロ経済学を理解すれば、「景気の回復のためには所得の拡大が必要だ」とわかる。そのためになすべきことは、「大規模減税」だ。それ以外にはない。(その後、景気が回復したら、増税によって減税分を回収すればいい。それだけのことだ。)

 とにかく、今必要なのは、「マクロ経済学による処方」つまり「所得の拡大」だけである。
 なのにそれを理解しない人々が、てんで見当違いなことばかりをやっている。
 そのあげく、「生産性の向上」を唱えて、「残業代ゼロ」という法案を通そうとする。それがもたらすのは「生産性の低下」なのに。

 結局、日本は、「景気回復を」とか「生産性の向上を」とか唱えながら、めざすものとは逆のものを得ようとしているのだ。
 比喩的に言えば、「助けてくれ、助けてくれ」と言って、上から垂れたロープにぶら下がるのだが、そのロープは上の方で  型になっており、その下端では、自分の首に結びついている。つまり、人がロープにすがりつけばすがりつくほど、自分で自分の首を絞めることになる。
 これが今の日本の状況だ。

 ──

 小室淑恵と私がいっしょになって経済政策を取れば、日本は良くなりそうだけどね。まあ、無理です。


     

 


 【 関連項目 】

 → Open ブログ: 残業税を導入せよ

 残業を減らして、生産性を向上させるには、「残業税」を導入するのが最適だ。

  ※ 経済界は文句を言うだろうが、その分、法人税を下げれば、文句ないはずだ。
 


 【 関連サイト 】
 次の記事もある。
  → 膨らむ『女性活用』への期待…課題『少子化』との矛盾は?

 一部抜粋。
 2012年6月に開催された「TEDxTokyo」で、株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵代表は「夫の長時間労働」こそが、実は真の少子化の原因」と指摘。「山積みする社会問題をタダで解決する、たったひとつの方法」として「夫の長時間労働をやめるべき」と語っている。

 
posted by 管理人 at 23:50 | Comment(3) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
厚生年金、ワークスペースなどの見えない負担があるので人を増やさずに残業させてしのいでいます。
話は飛びますが、労働人口(率)が減る曲面では従来の産業施策である加工貿易とは異なる付加価値製品の輸出で稼いで非労働者を扶養せざるを得ません。
労働者一人当たりの所得を上げないと賄えません。
そこで物価が上がると増えた所得が相殺され…と変なスパイラルになりそうです。
経済は奥が深いです

Posted by 京都の人 at 2014年11月08日 06:47
こんにちわ。
以前、空洞化と雇用流出のところで、
円安になれば、全体の輸出量は増えるというような話をされていましたが、現在は一時期に比べればかなり円安になっています。
しかし、輸出は思ったよりも増えていないという話を聞きました。
空洞化して産業構造が変わってしまったために、輸出が増えないらしいのですが、今後もこの状態は続くのでしょうか?
それとも、徐々に国内回帰がすすみ、雇用が増えて輸出が増える方向に進むのでしょうか?
自分は輸出増やすより、GDPを増やせよ派の人間ですが、雇用が増えるならそれにこしたことはないだろうと思っています。
どのように考えているのか、お聞かせいただいてもよろしいでしょうか?
Posted by 中川原 at 2014年11月25日 17:57
 私もその点は気になっていたのですが、別に、どうということもないようです。
 新聞記事では、

> 空洞化して産業構造が変わってしまったために、輸出が増えない

 というふうに書かれていますが、現実にはそんなことはなくて、きちんと輸出は増えつつあります。急激ではないだけで。
 → http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_bop-balance

 貿易赤字が急増したのは、原発停止で LNG の輸入が増えたからです。それにともなって円安が進んでいます。(金融緩和はあまり関係なさそう。)
 円安にともなって輸出はだんだん増えています。しかし輸出は契約が必要なので、急に増えるわけではない。それでも円安の効果で少しずつ増えています。
 特に全体としては経常黒字になっているので、このあと急激に黒字が増えるとも思えません。最大の理由は、所得収支が大幅に黒字であることです。輸出を増やすより、働かないで、海外から金をもらっている。それで黒字になっている。

 結局、日本は全体として黒字になっているので、雇用の問題は別ですね。一部の人が残業しすぎているのが悪い。ワークシェアリングをすれば、雇用は増えるし、残業は減ります。GDP は増やした方がいいが、現状でも特にひどいわけじゃない。ひどいように見えるのは、所得配分がおかしくて、富裕層ばかりが儲けすぎているからです。
 底辺層に金が回るようにするには、労働需給を逼迫させる必要があり、そのためには GDP の拡大が手っ取り早い。しかし、GDP の拡大は必須ではありません。所得配分がうまく行っているのなら、GDP の拡大をしなくても、現状のレベルで足ります。夏休みのない日本は労働量が多すぎるし。
 ま、それはともかく,「円安で輸出量を増やす」というのは、悪手ではあると思います。現状は過剰に円安であり、この状況に慣れると、あとの反動がきつい。(たとえば輸出増加のあとで生産設備の拡大が起こり、その後に設備遊休が生じて、大幅な赤字になる、というふうな。)
 景気回復のためには輸出に頼るべきではありません。アベノミクスは本質を突かずに、対症療法で円安に走っている。短気目的だけだ。一種の輸出バブル。あとで副作用が出かねない。
 その意味では輸出はあまり増えない方がかえって好ましい。また、円安も,進めない方が好ましい。円安バブルには必ず弊害が来る。
 きちんと内需拡大をするべきなのに、消費税増税なんていう正反対のことをやるんだから、アベノミクスは最悪としか言いようがないですね。円安推進で表面を取り繕ってもダメだ。
Posted by 管理人 at 2014年11月26日 01:47
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