◆ イスラム国(ISIS)の本質:  nando ブログ

2015年02月01日

◆ イスラム国(ISIS)の本質

 テロ集団である「イスラム国」(ISIS)とは何か? その本質は? 私なりに考えをまとめてみよう。
 ( ※ 池上彰の見解と同様だが、いっそう詳しい。)

 ──

 ISIS については、あちこちに意見がある。いくつか紹介しよう。

 (1) 橘玲

 橘玲という人の見解がある。
  → ISISの存在が突きつけるアラブ諸国の深刻な矛盾

 ISIS は「イスラム原理主義」というもので、世俗主義の混じったアラブ諸国の体制とは異なる。この原理主義がイスラム圏の若い人々を引きつけて巨大化した、……という主張。
 
 もっともらしい主張だが、勘違いだろう。ISIS が巨大化した理由は、原理主義が人々の心を引きつけたからではない。その逆だ。人々には嫌われているのに、巨大な力によって人々を圧迫しているのだ。その力はどこから来たか? 次の二点だろう。
  ・ 石油販売による巨利
  ・ 児童誘拐などによる強制的なリクルート(徴兵)

 つまり、金と暴力だ。この二点が本質だろう。
 ひるがえって、「イスラム原理主義が魅力的だから」と述べる上記サイトは、トンチンカンだとしか思えない。

 (2) 池内恵、他

 「イスラム国」の正体、という本がある。下記に内容が紹介されている。
  → 読書感想文”「イスラム国」の正体”を読んで!

 統一的組織がなくてバラバラなグループの集団だ(組織とはいえない組織だ)、という点に ISIS の特徴がある、という主張。

 しかし、これは、間違いとは言えないまでも、趣旨がおかしい。「統一的組織がなくてバラバラなグループの集団だ」というのは事実であるが、この事実は、ISIS に限ったことではなく、アルカーイダにも共通するからだ。

 (3) 読売社説

 読売社説 2015-02-01 に、上記のことを示す話が述べてある。
 西アフリカ・ナイジェリアのイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が、地域の安定を脅かしている。ボコ・ハラムは、国際テロ組織アル・カーイダの活動に刺激を受け、中東やアフリカ各地で続々と生まれた過激派組織の一つだ。
 シリアで邦人を拘束したとされる「イスラム国」や、仏新聞社銃撃テロ犯とつながるイエメンの「アラビア半島のアル・カーイダ」などと、「緩やかなテロ・ネットワーク」を形成している。
 各組織は、アル・カーイダの命令は受けず、独自の判断でテロ活動を展開する一方、水面下で資金や情報を融通しているという。
( → 読売社説 22015年02月01日

 (4) Wikipedia
 Wikipedia にも、読売と同様の趣旨がある。
 アル=カーイダの実態についてははっきりしないことが多く、現在では、アル=カーイダが一つのまとまった組織として存在しているかどうかは議論が分かれている。
 CIAの元工作員でイスラーム主義組織の専門家であるマーク・セイジマン(Marc Sageman)は、アル=カーイダとは軍隊のような明確な階級が存在する指揮命令系統を有する組織ではなく、人々が自発的に集合する社会運動のようなものであって、明瞭な境界や構成員が存在せず、特に2001年のアメリカ軍によるアフガニスタン侵攻以降についてはビン=ラーディンの指揮によるものではなく、地域ごとに自発的に集まった人々によってアル=カーイダの名の下に勝手にテロが行われていると指摘した。
( → アルカーイダ - Wikipedia

 ここでも、統制の取れていないバラバラなグループの集団であることが指摘されている。

 ──

 結局、ISIS にせよ、アルカーイダにせよ、そこにあるのはバラバラなテロ集団なのである。
 そのなかでも ISIS は比較的統制が取れていて、特に、思想的には「イスラム原理主義」という思想で統制が取れているし、経済的にも(石油販売代金の配分で)まとまりが取れている。この意味からして、一つの国のように自称することもある。
 しかしながら、ある程度の一体化は取れていても、軍事的な実態は、やはり群雄割拠ふうの独立的でバラバラなものだ。統一的な軍事行動を取ることはなく、各地でバラバラに軍事行動を取っているにすぎない。

 というわけで、
  ・ 思想的な一体性
  ・ 経済的な(部分的)共同性
  ・ 軍事的な非統一性

 という三点に、ISIS の特徴があるだろう。
 このうち、三番目(軍事的な非統一性)は、バラバラであるアルカーイダとも共通するが、思想的・経済的な一体性ないし部分的共同性があるがゆえに、アルカーイダよりも国家的な傾向があると見て取れるわけだ。「病気がいっそう凶悪化している」とも見なせるが。

 ──

 さて。以上は現状分析だ。
 このあとは、より本質的なことを探ろう。ISIS の本質は何か? テロ集団の本質であるような、軍事的な非統一性と凶悪性は、一体どこから来るのか? 
 この問題を考えたすえ、私としては次のように結論する。

 「イラク地域は、無法地帯になっている。それは、イラク政府が(軍事的に)無力だからである。そうなったのは、米国がフセイン体制を崩壊させて、この地域における秩序を崩壊させたからだ。そして、そのようにして秩序を失ったあとで、無法地帯になった地域に、暴力的なテロ組織がたくさん跋扈するようになった。いわば、恐竜がいなくなったあとで、哺乳類が大量に繁殖したように」


 ここで、「イラク政府が(軍事的に)無力だ」という点については、次の記事がある。
 イラクでは「イスラム国」掃討作戦が進みつつある。だが、主力はシーア派民兵だ。
 背景にあるのは政府軍の弱体化だ。昨年6月に第2の都市モスルが陥落した際、将校らはほぼ戦わずに逃走し壊滅した。
 「政府軍は組織として壊れていた」。元兵士クサイ・アタビさん。……500人のはずの部隊には「実際には200人しかいなかった」と語った。「上官が物資を横領している」と聞き、仲間とともに脱退したという。
( → 朝日新聞 2015-02-01

 イラクでは正規軍(政府軍)が崩壊状態にある。かろうじて成立しているのは、民兵である。これは、体制側のテロ組織みたいなものだ。 (^^);
 要するに、これほどにも政府軍が弱体化している。軍事的には政府という体制(つまり秩序)が崩壊している、というありさまだ。
 だからこそ、その無秩序状態(無法状態)に、各地でバラバラなテロ集団が跋扈(ばっこ)するようになった。フセイン時代ならば、そのようなテロ集団はあっという間に解体されていたはずだが、フセイン政府を崩壊させたとき、政府軍もまた崩壊してしまったので、秩序を維持する力が何もなくなってしまった。かくて、雨後の竹の子ごとく、群小のテロ集団がニョキニョキと出現するようになった。恐竜がいなくなったあとで、哺乳類が大量に繁殖したように。
 とすれば、このようなテロ集団が跋扈するようになったことの根源的な理由は、米軍によるフセイン体制の崩壊なのだ。米軍が秩序を崩壊させたから、そのあとの無秩序状態で、テロ組織が跋扈するようになったのだ。

 本来ならば、もっと計画的に、体制が崩壊したあとのことまで考えるべきだった。ちょうど、日本を降伏させたときのように。あのときの米軍は、あらかじめきちんと占領計画を練っていた。だから、天皇を残し、日本政府も残し、一部の戦犯だけを処刑した。かくて、残った天皇と日本政府の下で、秩序を保ちながら、国家を民主化した。
 イラクの場合には違った。単にイラク政府を破壊した。のみならず、旧体制の政府職員を「体制派」と見なして、一掃した。残るのは、無秩序状態だけだった。本来ならばイラク政府軍も残すべきだったのに、イラク政府軍も解体してしまったので、解体されたあとの軍人と武器は各地に分散されて、テロ組織の構成要素となってしまった。
 要するに、破壊することばかりを考えて、再建することを考えなかったから、破壊されたイラク政府の残骸から、テロ集団が生じてしまったのだ。悪鬼が生じるように。
 結局、すべての根源は、米国の破壊行為だったのだ。破壊することだけを考えて、後先のことを考えなかったから、無秩序状態のあとで、テロ組織が跋扈するようになったのだ。

( ※ なお、以上のことは、イラクに限ったことではない。リビアも同様だった。カダフィ大佐を排除することだけを考えて、後先のことを考えなかった。結果的に、リビア軍の大量の武器は、暴力的に奪われた。かくて、テロ組織が生み出されこととなった。……何のことはない。リビアで大量の武器組織を供給して、あえてテロ集団を誕生させたのは、カダフィ体制を崩壊させた西側諸国だったのである。西側諸国があえてテロ集団を誕生させたのだ。軍事介入によってリビア政府を崩壊させる という形で。)

 ──

 まとめて言おう。
 ISIS の本質は、そこに存在する何かではなくて、そこに存在しない何かである。そこに存在するものが本質なのではなくて、そこに存在しないものが本質なのだ。
 では、存在しないものとは? 秩序である。秩序は、もともとあったのだが、米軍のイラク侵攻とフセイン排除にともなって、それまであった秩序が一挙に失われた。残るのは(軍事的な)空白地帯だけだった。その空白地帯で、あちこちで暴力組織が誕生したのだ。なぜなら、(軍事的な)空白地帯においては、もはや秩序を維持する政府軍が存在しないからだ。警察ぐらいは存在しただろうが、崩壊したイラク政府軍の武器・弾薬を大量に保有しているテロ集団の前では、警察などは無力に等しい。
 結局、米軍が秩序をなくしたから、そのあとの無秩序状態に大量の鬼子が発生した。すべての根源は、米軍による秩序の破壊なのである。
 ISIS の本質は、イスラム原理主義でも石油でもなく、鬼子を大量に発生させるようにした無秩序状態なのだ。その無秩序状態をもたらしたのが、米軍だった。
( ※ ブッシュ親子という二代の大統領による共同作業だ。)



 [ 付記 ]
 ここまで理解すれば、ISIS を撲滅するための方策もわかる。それは、「秩序の回復」である。
 だから、そのために、西側諸国が協力すればいい。具体的には、次のことをめざす。
  ・ 政府組織の確立
  ・ 政府軍の確立
  ・ 石油販売代金の適正な管理

 このようなことをきちんとやるべきだ。特に、人間については、アラブ世界の各地から優秀な人員を招くべきだろう。また、学校教育を通じて、優秀な人員を大量に要請するべきだろう。経済活動よりも何よりも、まずは秩序の確立を最優先とするべきだろう。
 そのために、当面は、西側諸国が資金を提供して、公務員と軍人の給料を払うべきだろう。まともに存在していない政府と政府軍を、とにかく確立するべきなのだ。

 日本がやるべきことは、そのための資金提供だ。軍事的な協力は必要ない。必要なのは、金の提供だけなのである。実際に戦うのはイラク人であって、日本はそのために金の提供だけをすればいい。
( ※ 現状では、イラクの政府軍の軍人は、給料をもらえないので、次々と脱落する。そのせいで政府軍は無力化して、ISIS に制圧される。)

 ──

 ついでだが、今回のことのあとで、「海外派兵を」なんて述べている安倍首相は、火事場泥棒みたいなものだろう。災難を利用して、自分の利益を増やそうとしている。

 どちらかと言えば、共産党の方がまともだ。
 外国人戦闘員の参加を阻止し、資金源を断つなど、孤立させ、追いつめ、武装解除と解体に追い込んでいくことである。
( → 日本共産党委員長 志位和夫

 この方針は、「国連安保理決議が求めているように」と述べてあるように、国連の方針でもあるのだが、いかんせん、力不足だ。上記のことは、すでに米軍などが努力しているのだが、ISIS の弱体化はできても、一掃するには至っていない。
 テロ組織を一掃するには、相手の力の源泉を弱めるだけでは足りない。相手を軍事的に圧倒する必要がある。そのためには、イラク軍を確立するしかないのだ。
 米軍が完全に崩壊させたイラク軍を、改めて再建する必要がある。「壊した物を作り直す」というのは、馬鹿げたことではあるが、米軍が壊してしまったのだから、仕方ない。西側諸国の責任で、壊した物を作り直すしかないのだ。バカな米国の尻ぬぐいをする形で。
( ※ そもそも、現状は、すべては米国の愚行の尻ぬぐいなのである。諸悪の根源は、イスラム教ではなくて、ブッシュ親子の愚行なのだ。ここに本質がある。)



 【 関連サイト 】
 本項を公開した少し後で、同趣旨の話を池上彰が示している。
 全ては 2003年の米ブッシュ政権のイラク攻撃から始まった。
 少数派のスンニ派が多数派のシーア派を抑圧していたフセイン政権を倒せば、両派が殺し合うことは当然、予想できたはずだ。一党独裁だったバース党の党員を公職から追放し、その結果、国家が崩壊。内戦が始まり、「イスラム国」の前身だった過激派が組織されていった。
( → 朝日新聞 2015年2月1日23時38分

 本項と同趣旨ですね。 (^^)
     《 蛇足 》
     ただ、私は「ブッシュ親子」と書いたが、池上彰は子ブッシュの方を指摘している。これは、どちらかと言えば、池上彰の方が正しい。父ブッシュはフセイン体制を崩壊させなかったが、子ブッシュはフセイン体制を崩壊させようとした。その意味で、直接的にやったのは、子ブッシュだ。
     ただ、子ブッシュは「父ブッシュの業績を引き継ごう。父の真似をして偉大になろう」と思ったわけだから、父ブッシュの路線を引き継いだだけだとも言える。(間違った形で引き継いだわけだが。)……その意味では、「ブッシュ親子がやった」という認識も、間違っているわけではない。そもそも、子ブッシュが一代でフセイン体制解体を実現したわけではない。父ブッシュが前半をやったからこそ、子ブッシュがフセイン体制解体を完遂できたのだ。




 [ 補足 ]
 問題の解決のためには、政府軍だけを養成してもダメだ。イラク政府をきちんと養成する必要がある。政府がきちんとしていないと、軍もきちんとしないからだ。
 現状では、軍は腐敗しきっている。そのせいで資金が無駄に着服されている。
  → イラク軍に「幽霊兵士」5万人 将校らが給料横領
 こういう「軍の腐敗」が放置されているのも、政府がデタラメだからだ。政府がまともであれば、こういう腐敗を一掃することもできるだろうが、現実には、政府の職員自身が、汚職に励んでいる状態だ。他人の不正を摘発するよりも、自分がおまんまを食うことに熱中している。(あまりにも薄給なので。)
 こういう状況を解決するには、政府という組織を正常化することが先決だ。秩序を構築するには、軍だけをいじってもダメで、まずは政府をまともに構築することが大切なのだ。



 [ 余談 ]
 「イスラム国」の表記については、ISIS 、ISIL など、いろいろある。この件は、朝日の記事が興味深い。(リンクだけ示しておく。)
  → 「イスラム国」どう呼ぶ? 政府は「国家と認めない」

 この記事には、朝日自身の方針も示してある。
 カギ括弧つきで「イスラム国」と表記することを原則にしています。表記は、彼らが自称する英語表記「Islamic State」を日本語に訳したものです。国家ではなく過激派組織であること、括弧をつけることで一般のイスラムとは異なる、固有の組織名であることを意味しています。別名の ISIS または ISIL は過去の組織名であることから、現在では使っていません。
( → 朝日新聞 2015年1月31日

 
 
posted by 管理人 at 22:26 | Comment(4) | 政治 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
初めまして。

1000兆円もある財政赤字の下
日本は1ドルたりとも外国に支援
すべきではなく、逆に支援を乞う
べきでしょう。今現在でも中国に
ODAを貢いでいます。外務省も財
務省も政府も何故即刻中止しない
のでしょうか?
Posted by cqf02343 at 2015年04月29日 18:56
 調べてみたら、無利子貸与は別として、贈与はたったの年300億円。日本にとっても中国にとっても、ほとんど無視できる金額。
 ちなみに日本は、東日本大震災の対処と称して、数千億円規模の無題を大量にやっていて、総額で 20兆円近くも出している。このうち 10兆円ぐらいは無駄。
 こっちの無駄をなくすことの方が大切だ。300億円ぐらいの無駄なら、政府はあっちでもこっちでも、いっぱいやっている。むしろ兆円規模の無駄をなくすべき。
Posted by 管理人 at 2015年04月30日 00:55
>調べてみたら、無利子貸与は別として、贈与はたったの年300億円。日本にとっても中国にとっても、ほとんど無視できる金額。

調査有難うございました。

300億円で、日本国内の真に必要としている3億円
ずつカンフル剤的に手当すれば100箇所に有効です。

財務省のある主計官が
「300億は無視できる金額だから査定外、はい次・・」とは思えません。

>総額で 20兆円近くも出している。このうち 10兆円ぐらいは無駄。

薄々は予感していました。
無駄率50%ですか!
しかしこれを嘆く人・怒る人が居ない。
小生も諦めと無力感しか出てきません。
無駄率の許容限度は最大15%位だろうか・・


 
Posted by cqf92343 at 2015年04月30日 20:15
 震災の無駄遣いについては、私は何度も記しました。
  → http://j.mp/1AkzZeI
  → http://j.mp/1DYkDwW
Posted by 管理人 at 2015年04月30日 21:16
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