◆ イスラム国(ISIS)への対処:  nando ブログ

2015年02月22日

◆ イスラム国(ISIS)への対処

 イスラム国(ISIS)への対処は、どうするべきか? どうやって問題を解決するべきか? 

 ──

 ISIS は、日本で騒がれただけでなく、世界中で大騒ぎになったようだ。
  → 「卑劣な行為」各国非難 対「イスラム国」結束強調

 特にアメリカでは、オバマ大統領が ISIS 壊滅のために大規模な軍事行動を取ることを表明した。
  → オバマ氏、イスラム国壊滅へ決意
  → 「イスラム国」への武力行使案、オバマ大統領が議会に提出

 こういう状況で、識者たちも「ISIS対策」を考えるようになった。特に、読売新聞 2015-02-22 では、フランシス・フクヤマが長文を執筆している。その趣旨は、次の通り。
  1. イスラム国は強大に見えるが、実は弱体である。「国」を名乗るが、公共サービスなどの施政能力はない。
  2. 金銭的収入も限られているし、領土も大部分が砂漠だし、周辺諸国からも認知されていない。
  3. なのに強大に見えるのは、周辺諸国が弱すぎるから。(シリアは崩壊したし、イラクは統治能力が弱い。)
  4. 長期的な解決策としては、地域の国々が自国の体制を整備するしかない。
  5. ではそれまでの間、われわれはどう対処すべきか? 
  6. アラブ世界は、シーア派とスンニ派が対立している。( ISIS はスンニ派の系列。)
  7. しかしこのうちのどれかに肩入れするべきではない。
  8. 19世紀英国の「オフショア・バランシング」という戦略が参考になる。
  9. これは、欧州諸国のどれかが有力になるのを邪魔して、常に群雄割拠に置く戦略だ。
  10. 中東でも「アサド打倒」「ISIS破壊」などを唱えず、各勢力を対立させればいい。
  11. どれかが支配的になりそうになったら、圧力をかければいい。
  12. ISISなんて、米国にとっては小さな問題だ。(イラク政府にとって、よりも。)
  13. 大量の軍事力で飛び込むよりは、手抜きして、そこそこの状態に置くだけでいい。

 以上が、フランシス・フクヤマの主張だ。これをどう評価するか? 

 ──

 全体としては、なかなか良いことを言っており、卓見も含まれると思う。特に、「あまり深入りするべきではない」という全体的な傾向は、「やたらと深入りする」というブッシュ(子)の方針とは逆で、好ましいと言えなくもない。
 とはいえ、いったん破壊しておきながら、あとは「介入したくない」というのは、かなり無責任なことだ。
 「破壊するのはきちんとやりますが、破壊したあとの整備は途中で投げ出します」
 なんて、無責任すぎる。
 特に、「オフショア・バランシング」という戦略は、歴史家の良くやる過ちだ。「過去の政策を真似よう」「過去に学べ」というわけ。ふん。過去の物真似で済むのなら、これほど楽なことはないが、それでは人類の進歩などはあり言えない。人類というのは、常に前を向くべきであって、後ろを向くべきではないのだ。だいたい、「オフショア・バランシング」という戦略だって、過去の物真似ではなくて、その時点での独創だったのだろう。そのときの英国は、自分の頭で考えた。だったら現在の我々も、自分の頭で考えて、最善の策を探るべきだ。

 ──

 私の考えは、実は、先に示した。
  → イスラム国(ISIS)の本質
 
 そこから要点を示すと、次の通り。
 本来ならば、終戦直後の日本のように、占領軍の下で旧政府が統制するべきだった。しかしイラクでは旧政府が解体されて、無秩序状態になった。この無秩序状態が根源だ。だから、この無秩序状態を解消して、秩序を構築することが本質だ。

 以上のことは、フランシス・フクヤマが「長期的な解決策」として述べたことだ。これをただちに実行することが大切だろう。
 ただ、これを実行するときに、障害となることがある。それは米国の「主導する」という立場だ。米国はやたらと主導したがる。しかし米国主導ではなく、国連主導でやるべきなのだ。米国主導でやるから、何事もうまく行かなくなる。
 現在のイラクは、イラク人の下で政府を構築しているが、まったくうまく行っていない。とすれば、外国人が主導するべきだろう。ちょうど、終戦後の日本におけるマッカーサーのように。
 ただ、そのマッカーサーのような人物は、米国人ではなくて、国連で選定された他国人であるべきだ。(マッカーサーは高潔な人物だったが、今の米国人は俗っぽい損得まみれの人が多すぎる。)
 また、国連主導に際しては、多大な経済援助によって、イラク国民の生活水準を向上させることも必要だろう。ただ、それに先だって、治安回復が必要なので、イラク軍の構築が必要であり、そのための資金(給与の支払いのため)も必要となる。
 イラクには大量の石油があるのだから、これを利用して、イラク軍の給与の支払いに充てて、まともなイラク軍を構築して、治安の回復をすることが最優先となるだろう。(西側諸国の援助も必要だ。)
 一方、米国や日本の軍隊が現地にしゃしゃり出ていくことは、給与の支払いでもイラク人の何倍にもなるので、とうていコスト的に引き合わない。自衛隊を派遣するようなことは、莫大な資金を必要とするので、やめた方がいい。それよりは、現地でイラク人を兵士として雇う方が、はるかにコスト安で済む。
 イラク特措法による派兵費用は970億円に達し、新旧テロ特措法によるインド洋・アラビア海での戦争支援費用は720億円を超えました。ソマリア沖・アデン湾、ジブチへの自衛隊派遣には200億円を超える予算が計上され、これらの自衛隊の海外派兵に2000億円近い経費が投入されています。
( → 日本共産党

 こんなに莫大な金をかけて、イラクの一部で土木業をやるくらいだったら、同じ金をかけて、イラク政府が兵士を雇用して治安を回復するのを助けるべきなのだ。
 安倍首相はやたらと自衛隊を派遣することばかりを考えているが、そのために莫大な支出がかかることをすっかり失念している。こういうふうにコスト感覚を欠いたまま国税を浪費するよりは、「日本人の血は一滴も流さないまま、イラク全体で治安を回復させる」ということの方が、はるかに賢明なのだ。
 しかるに、そういう方針を取らない。だから、イラクでは治安が崩壊した。それゆえに、そういう権力の空白地域に ISIS がのさばるようになったのだ。※
( ※ この認識は、私が上記項目で先に記したが、フランシス・フクヤマもまた、同趣旨のことを書いている。)

 まとめ。

 ISIS がのさばった理由は、現地の無秩序状態である。
 だから、秩序を回復することが、根本的な解決策だ。
 そのためには、イラク政府がまともに構築されるべきだ。
 特に、イラク軍がきちんと整備されるべきだ。
 そのためには、西側諸国がいろいろと援助するべきだ。
 米軍や自衛隊を派遣するのは、高コストなので、無駄だ。

 


 【 関連項目 】

 → イスラム国(ISIS)の本質

 
posted by 管理人 at 22:25 | Comment(4) | 政治 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
「前方展開した米軍を地域から撤退させ、域内における勢力均衡の維持を地域諸国にやらせる」戦略を「オフショア・バランシング」という。こうすれば、アメリカは海を越えたところで無駄な血を流すこともなく、自国のパワーを温存できることになって安泰だからだ。アフガニスタン、イラクで血を流してきたアメリカ(自業自得だがw)には魅力的な戦略だ。

しかし、それがいつも正しいわけではない。シリアで「オフショア・バランシング」をやってしまったから、「イスラム国」の台頭という誰も望まない結果をもたらした。

シリアで民主化運動が起き、それをアサド政権が弾圧し、内戦となった。「自由シリア軍」が元気なときに介入し、アサド政権を倒しておけば、内戦の長期化、「イスラム国」の台頭という結果にはならなかった。しかし、やらなかった。その結果、自由シリア軍は、アサド政権軍に圧迫され、弱体化してしまった。

代わって台頭したのが、「イスラム国」を含む「イスラム急進派」だ。アメリカは慌てて空爆を始めたが、イスラム急進派には「イスラム国」と対立するグループもいて、彼らは自由シリア軍の“味方”だが、彼らも空爆の対象となっている。敵をアメリカが叩いてくれるので、「イスラム国」を利することに…。

「羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」という諺があるけど、オバマの過ちはこれ。正しい状況判断ができない人が大統領をやっているから、すべて裏目に出てしまう。
Posted by 王子のきつね at 2015年02月23日 10:28
自由シリア軍は、アルカーイダ系の過激派ですよ。アサドを倒した場合には、こいつが ISIS みたいになりそう。
単にアサドを倒すだけでは、フセインを倒したのと同様になる。

あと、シリア政府軍を倒すのには、莫大なコストがかかる。金も人間も大変な犠牲が出る。イラク政府を倒したときよりも、もっとコストがかかりそうだ。おまけにシリアはロシアと中国の支援を受けている。

独裁者アサドを倒すべき、と私も昔は思ったが、現実的にはコストがかかりすぎるとわかった。
Posted by 管理人 at 2015年02月23日 12:09
>自由シリア軍は、アルカーイダ系の過激派ですよ。

自由シリア軍がアルカーイダ系なんて初めて聞いた。
ヌスラ戦線のマチガイではないのか?
Posted by 王子のきつね at 2015年02月24日 11:15
Wikipedia 「自由シリア軍」

> イスラーム過激派として知られるアルカイダとは、協力関係にあるとされる。

 「アルカーイダ系」という表現はちょっと不正確でしたね。ごめんなさい。うろ覚えだった。
Posted by 管理人 at 2015年02月24日 12:24
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