◆ TPP後の農業政策 1:  nando ブログ

2015年10月10日

◆ TPP後の農業政策 1

 TPP の合意があったが、日本の農業政策はどうあるべきか?

 ──

 この問題は、読売・朝刊 2015-10-09 が大きく論じている。ネットには要旨がある。
 《 攻めの農業へ支援策…TPP対策本部が初会合 》
 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を受け、政府は9日午前の閣議で全閣僚が参加するTPP総合対策本部の設置を決め、同日、初会合を開いた。
 安価な輸入品との競争にさらされる農業の強化策を中心に、年内にもTPP発効を見据えた「総合政策大綱」を策定する。
 農業については、赤字を穴埋めするだけのバラマキにならないよう、競争力の強化に重点を置く。安倍首相は初会合で「守りの農業から攻めの農業へ。意欲ある農家が安心して取り組めるよう、万全の対策をとりたい」と述べた。
( → 読売 2015-10-09

 具体的な策としては、次のような方針が掲げられている。
  ・ 大規模集約化
  ・ 農産物の販売や加工との合体( = 6次産業化


 これに続いて、別の話もある。重要5農産物(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)については、かなり強く保護するが、それ以外の品目では、TPP で自由化が進んでいく、という話。
 同様の話は、ネット上にもある。
  → TPPで農産物の関税撤廃が多岐に オレンジ、トマト加工品など
  → オレンジ関税撤廃へ 鶏肉・卵、豆類も TPPで政府説明
  → 「聖域」大幅開放 米輸入枠は7.8万トン TPP大筋合意

 最後の記事では、《 「聖域」大幅開放 》という話がある。だが、大幅開放といっても、たいしたことはない。そのことは、先にバターの例で述べた通りだ。
  → Open ブログ: TPP とバター

 だから、「聖域」とされる重要5農産物では、今後もずっと高い関税が維持されることになる。その一方で、政府はあれこれと補助金を出して、日本の非効率な農業を維持しようとする。
 このような方針は、もちろん好ましくない。では、かわりにどうするべきか? 日本の農業政策は、どうあるべきか? 政府は「大規模集約化」や「六次産業化」を唱えるが、そんなことでいいのか? 

 ──

 ここで、私の見解を述べよう。
 基本としては、次の二つを分けるべきだ。
  ・ 産業の維持
  ・ 農業従事者の所得維持

 この上で、個別に論じよう。

 (1) 産業の維持

 産業の維持とは、その産業がどれほど非効率であっても、高率の関税を課すことで、とにかく国内生産を維持する、というものだ。具体的には、高率の関税(課徴金などを含む)のかかるものを言う。
 たとえば、バターは輸入価格の何倍もの価格になる。サトウキビも同様だ。小麦もかなり価格が高い。( → 国の利益分
 これらは、市場価格が高くなることで、国民は多大な負担を負っている。では、そのことで農民が得をしているかというと、別にそうでもない。では、その差額はどこに消えてしまったかというと、生産性の低い生産活動(つまり無駄)に消えてしまったことになる。
 つまり、国民がせっかくの大金を払っても、それは、まともな農業が成立することにはつながらず、単に無駄のために消えてしまっていることになる。
 だったら、このような生産性の低い産業は、なくしてしまった方がいいだろう。その分、輸入品を増やせばいい。それで解決する。
 たとえば、バター、サトウキビ、小麦は、関税をゼロ同然にしていい。国内産業は消えるが、その分、輸入品でまかなえばいい。これで消費者は、大幅な価格低下というメリットを得る。一方、生産者は、たいして損をしない。もともと生産量は少ないからだ。(もともと儲けていないから、生産をやめても、たいして損しない。)

 (2) 農業従事者の所得維持

 バター、サトウキビ、小麦の生産をやめるとしたら、その生産に携わっていた人々は、どうすればいいか? 
 それは簡単だ。生産性の低い産業をやめて、生産性が高めの類似産業に移ればいい。
  ・ バター生産 → チーズや生乳の生産
  ・ サトウキビ → 野菜類、果物類
  ・ 小麦 → 米や酒米

 このように、類似の別産業(別の農産物の生産)に移ればいい。それだけのことだ。これらは、比較的競争力が高いので、若干の関税によって国内産業は守られる。それでいいはずだ。

 ──

 以上の発想は、比較優位(比較生産費)という発想に似ている。これは、分業の必要性を示す。
 つまり、各人は、自分で全部を生産しようとするべきではない。自分が得意なものを生産して、あとで生産物を交換すればいいのだ。そうすれば、全体として、効率が上昇して、生産量が増える。詳細は下記。
  → TPP の誤解と正解 2:  (nando ブログ)
  → 比較優位とは何か?:(nando ブログ)

 同様のことは、農業の内部でも当てはまる。生乳や生鮮野菜は、国内産業も十分に競争力がある。だから、農民はこれらの産業に集約すればいいのだ。
 一方、バターやサトウキビや小麦は、輸入品に比べて生産性が非常に低い。だから、これらの産業については、輸入品に明け渡す方がいいのだ。
 こう言うと、「それでは食料自給力が低下する」なんて叫ぶ人も出てくるだろうが、日本は、米と野菜と肉さえ自給すればいいのであって、バターやサトウキビや小麦を自給する必要はさらさらないのだ。こんなものは、保存が利くゆえに、いくらでも輸入できるからだ。また、代替品も、いっぱいあるからだ。
( ※ バターがなければ、チーズやマーガリンを食べればいい。パンがなければ、ケーキを食べればいい。……じゃなくて、パンがなければ、米を食べればいい。)

 ともあれ、比較優位(比較生産費)の発想に従って、生産性の低い産業はあっさりと捨てた方がいい。農業全体を捨てるのは問題だろうが、農業のなかの非効率な一分野を捨てて、かわりに類似分野を取ることは、何ら差し支えない。
 特定の産業をことさら守る必要はないのだ。農業のあらゆる産業を守る必要もないのだ。大事なのは、農業を全体として守ることだけであって、ところどころが虫食い的に失われることは、何の問題もない。
 そう理解することが、日本の取るべき農業政策であろう。



 [ 付記1 ]
 ここでは、「農民は犠牲になれ」というようなことは述べていないので、混同しないでほしい。
 「非効率な産業はなくなれ」と言っているが、「農民はつぶれろ」というようなことは言っていない。「農民は、非効率な分野を捨てて、効率の高い分野に移れ」と言っているだけだ。たとえば、バター生産を捨てて、生乳生産をすればいい。
 実際、これは不自然ではない。バター用の牛乳の買い入れ価格は、生乳用の牛乳の買い入れ価格よりも、かなり低い。だから多くの酪農家は、生産した牛乳を、バター用でなく生乳用に回す。(そのせいでバター用の牛乳がなくなって、バター不足が起こる。)
 こういう現状を追認して、生乳の生産になるべく専念すればいいのだ。バター生産なんてものは、もともとどうでもいいのであるから、なるべく輸入品に任せるのが妥当なのだ。
 ここに気づかず、ことさらバターの国内生産にこだわるから、バターに馬鹿高い値段が付いて、消費者は大損する結果となる。国全体としてみれば、ものすごく非効率な生産をすることで、国全体の生産性を下げていることになる。愚の骨頂。
 日本政府(農水省)は、「大規模集約化」「六次産業化」なんてものを掲げて、それが正解だと思い込む。5%程度の生産性向上をめざして、500%程度の非効率さを放置する。……無駄の極み。愚の骨頂。
 比較優位(比較生産費)という経済学の概念を理解できていないと、国全体が非効率な生産に突き進むわけだ。


 [ 付記2 ]
 「農家が損するんじゃないか?」
 と心配する人もいそうだが、心配は無用だ。損するどころか、得をするからだ。
 たとえば、バター生産という非効率な分野を捨てる。すると、国内でバター生産はほとんどなくなるが、同時に、バター生産のための高額の補助金が不要になる。だから、その補助金の金を、他の類似分野に回すことができる。
 農家は、バターのかわりに、生乳またはチーズに特化する。すると、バター用の補助金をもらえなくなるが、今度は生乳またはチーズ用の補助金が新たに出るから、そっちの補助金をもらえばいい。
 農家としては、生乳またはチーズのときにはかなり利益が出るから、そこでさらに新規の補助金をいくらかもらえれば、所得はかえって増える。
 結局、無駄な産業がなくなれば、無駄な補助金がなくなるから、金を有意義に使うことによって(別分野に補助金を出すことで)、農家はかえって所得が増えるのだ。



 【 関連項目 】
 
 → TPP とジャガイモ(北海道)
 ( ジャガイモ・小麦・大豆などは、高い関税で守られているが、これらの農業生産はなくなってもいい、という話。)

 → TPP後の農業政策 2 
  ( 本項の続編。) 
posted by 管理人 at 00:15 | Comment(1) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
 米作からの転換先として、生鮮野菜を記したが、和牛生産も有力である。生産農家が(高齢化のせいで)減少していて、価格が高騰しているからだ。
 → http://www.asahi.com/articles/ASHC66QJWHC6PPZB00R.html

 以下、一部抜粋。

 ──

 和牛の子牛の数が減り、せり価格が上がっている。子牛の売買頭数は3年前より1割減り、価格は7割上がった。牛を育てる農家が高齢化などで減ったからだ。牛肉の小売価格も3年間で2割ほど高くなっている。

 価格グラフ。
  → http://www.asahi.com/articles/photo/AS20151126003931.html

 ──

 こういう状況では、稲作をやめて和牛生産をすれば、高所得を得られるであろう。(手間はかかるが。)

 ただし、次の問題点もあるようだ。(近親交配)
  → http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110218/218499/

Posted by 管理人 at 2015年11月27日 12:10
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