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前項では、次のように述べた。
「英国は、EU 脱退よりも、移民流入に反対しているだけだ。ゆえに、移動の自由を認めるシェンゲン協定だけを破棄する形で、EU 残留を決めるだろう」
しかしながら、コメント欄で指摘を受けたが、英国はもともとシェンゲン協定に参加していない。
私はこの事実を見失っていた。では、この事実に基づくと、前項はどう書き直されるか?
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実は、たいして差はない。「シェンゲン協定の破棄を求める」というところで、「もともと破棄したのと同じことだ」というふうになるのだから、単に手間がかからないだけのことだ。つまり、「シェンゲン協定の破棄を求める」という段階を抜くだけでいい。
となると、結果的には、次のようになりそうだ。
「英国は、(シェンゲン協定をもともと認めていないので)移民の流入を拒否する。もともと手足を縛られていないので、勝手に移民流入を拒否する。そういう方針を立てることで、EU 脱退をしない、という新方針を立てる。その新方針の元で、ふたたび国民投票を実施して、国民の賛成多数により、EU 残留を決める」
方針としては、前項で述べたことと、ほぼ同じである。違いは、「シェンゲン協定の破棄を求める」という段階がないことだけだ。
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実を言うと、調べてみたら、意外なことがわかった。シェンゲン協定に参加しいているフランスなどよりも、シェンゲン協定に参加していないイギリスの方が、移民流入に対しては、はるかに寛容なのだ。
・ フランスは移民流入をろくに認めていない。
・ イギリスは移民流入をかなり認めている。
こういうふうに、現状は大差があるのだ。上のことは、一見、おかしいと思えるかもしれないが、実は妥当だとわかる。
・ フランスは移民流入を認めていないから、移民問題がない。
・ イギリスは移民流入を認めているから、移民問題がある。
つまり、英国の人々が、あれほどにも移民流入の問題で「 EU 脱退」と叫んでいるのは、英国民が移民に対して不寛容であるからではなく、逆に、英国政府が移民に対してあまりにも寛容であるからなのだ。
政府が寛容すぎるから、国民はかえって不寛容になる、という図式だ。
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原理的な説明は、上記の通りだ。これは結論だ。
そのための補強となる事実(英国は移民に寛容な制度があること)については、下記で得られる。
《 フランスかイギリスか?人々がイギリスを目指す理由 》
イギリスでは、難民として認定されるまで住む場所を自ら選ぶ事が出来ないものの、確実に住む場所は提供されます。
フランスでも住宅が提供されるはずなのですが、国連難民高等弁務官の発言によると、フランス政府には難民に提供できる住宅は限られていて、……どうやら難民全員に住宅が行き渡っていないようです。
( → なぜフランスよりイギリス?イギリスを目指す移民達が求めるものとは )
調べてみると大差があるわけではないのだが、それでもイギリスの方がフランスよりも移民に優しい。特に、英語が通じるのは、とても強みだ。フランス語よりも英語を習得している移民が多いからだ。
次の情報もある。
フランスは難民に対して特に優しくはなく、住むのは勝手だが支援などしないという態度を取っていて、人気はありません。
フランス行きを希望する難民は1%ほどで、ドイツ以外ではほとんどがイギリス行きを希望しています。
イギリスは亡命者に対して寛容で、審査が行われている間も、住居と食料、生活費が支給されます。
不法入国でも6ヶ月経てば就労でき、しかも現実はそれすら機能していないので、すぐに働く事ができる。
イギリスにはIDカードや戸籍制度に相当するものが無いので、全員が難民みたいなもので、外から入って行き易い。
( → 欧州難民 国境無視しイギリス目指す )
難民でも就労しやすい、という点が決定的であるようだ。
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イギリスにおいて移民が増えたことについては、次のデータもある。
《 ロンドン 白人のイギリス人が5割切る 》
イギリスの首都ロンドンでは、海外からの移民が増えた結果、
これまで多数派だった白人のイギリス人が人口に占める割合が初めて 50%を割り込み、少数派となったことが分かりました。
イギリスの国家統計局が11日に発表した国勢調査によりますと、……これまで多数派だった白人のイギリス人が人口に占める割合は 45%となり、10年前の 58%から大幅に減って、初めて少数派となりました。
( → NHK 記事の転載 )
これほどにも、英国では移民が席巻するような状況なのだ。
[ 付記1 ]
これは、日本で言えば、日本の東京で、日本人が少数派となり、韓国人や中国人の方が多数派になってしまった、というような状況だ。
こうなると、韓国人や中国人が東京都の知事を選挙で決める、というような感じになりそうだ。
ここで、
「移民に選挙権があるのか?」
という疑問もあるだろう。だが、イギリスの場合、国政はともかく、地方政治では、移民にも選挙権があるそうだ。
イギリスは英連邦諸国民に関しては国政・地方ともに選挙権を認めているが、EUに関しては地方のみ、その他の国からの人には認めていない。
( → 移民と外国人参政権 イギリス生活からの雑感|ロンドンで怠惰な生活を送りながら日本を思ふ )
ウガンダやガーナなどの英連邦諸国からの移民には、国政も地方もともに選挙権がある。
EU に加盟した東欧からの移民には、地方についてのみ選挙権がある。
EU 域外の中東諸国からの移民には、選挙権がない。
こういう状況だから、ロンドンの市長選で、移民の支持を得た市長が当選するのも、当然だろう。
英ロンドンで5日にあった市長選で、初めてイスラム教徒の市長が誕生した。パキスタン移民2世の労働党下院議員サディク・カーン氏(45)だ。
なぜカーン氏は勝てたのか。背景には、ロンドンという街が培ってきた「多様性」がある。これまで、旧植民地や欧州連合(EU)加盟国から多くの移民を受け入れてきた。11年国勢調査によると、人口817万人(当時)のうち約37%が英国外生まれだ。「英国籍の白人」は約45%にとどまる。イスラム教徒も100万人以上で人口の12.4%を占める。
( → 朝日新聞の転載 )
英国は驚くべきほどにも、移民が優遇されているのだ。とすれば、「優遇されすぎ」という反発が生じるのも、当然だろう。
[ 付記2 ]
こういう状況があるがゆえに、次のような反発も生じている。
イギリスのキャメロン首相が、移民の不法滞在を厳罰化する方針を表明した。来週開幕する国会に、不法就労で得た賃金を没収する事や、弁解の機会を与える前に強制退去させることを可能にする法案を提出する。首相は、21日のロンドン中心部での演説で、「強い国とは、跳ね橋を上げる(門戸を開く)国ではない。移民をコントロールする国だ」などと述べ、移民を制限して自国民の労働の機会を拡大する決意を示した。
( → ニュースフィア )
なるほど、そこまで来たか……と思うかもしれないが、意外なことに、実は、これは 2015年5月23日 の記事だ。1年前の記事だ。
この方針があればよさそうに見えるが、実は、これでもまだ生ぬるい、ということなのだろう。また、それから1年たった今現在でも、「強制送還」というような法案が成立したという報道はないから、この法案は成立していないようだ。
そして、だからこそ、政府の移民政策の生ぬるさに反発した国民が「 EU 脱退」という方針を取りたがるのだろう。
EU にとっては、「移民問題の八つ当たりを食った」という感じである。
結局、移民問題への対策がきちんとしないから、八つ当たりみたいな形で、「 EU 脱退」という変な方針に行き着く。
逆に言えば、「移民問題にきちんと対処する」という方針を取りさえすれば、将来的には、「 EU 脱退」という問題は解決可能だろう。