◆ トランプ大統領と自動車貿易:  nando ブログ

2017年01月26日

◆ トランプ大統領と自動車貿易

 トランプ大統領が日本の自動車輸出をやり玉に挙げている。ここでは経済・貿易についての基本知識が欠落しているので、指摘しよう。

 ──

 (1) 輸入障壁?

 
 トランプ大統領の主張では、「米国車が日本に輸入されないのは、日本が輸入障壁を構築しているからだ(不公正があるからだ)」ということになる。
 もしそうならば、米国車は、「日本では売れないが、他国では売れている」というふうになるはずだ。しかし現実には、そうではない。米国車(ほとんどが大型車)は、日本以外でも売れていない。欧州や南米やオセアニアでも売れていない。そのことは、データを見ればわかる。米国車の輸出台数は、ごく小さいのだ。
 ちょっと捜してみたところ、やや古いデータしか見つからなかったが、下記だ。
 米国ビッグ3の世界戦略は、現地生産主義であったため、自国製品としての自動車輸出は、他の自動車先進国に比べ極めて少ないのが特徴である。……(生産台数比で)わずか 9.9%。輸出産業として米国経済に貢献するところはこれまで少なかったわけである。
( → JAMA -JAMAレポート-

 輸出比率が低いだけではない。内訳を見ると、輸出してるのは、ビッグ3ではなくて、日系メーカーだ。何のことはない。米国から自動車輸出をしているのは、米国の会社ではなく、日本の会社なのである。(トヨタ・日産・ホンダ)

 自動車輸出(乗用車では約20万台)全体のうち約50%は、日系メーカーが占めている。また、97年の米国内生産車のうち、輸出(除くカナダ向け)に向けられた割合は、日系メーカーでおよそ4%、ビッグスリーでおよそ1%となっている。
( → JAMA -JAMAレポート-

 つまり、トランプ大統領の認識は、事実とは正反対である。
  ・ 日本に輸入障壁があるのではなく、米国車に輸出能力がない。
  ・ 米国から輸出しているのは、米系でなく日系の自動車会社だ。

 これが事実だ。

 (2) 貿易の基本


 そもそも、貿易については、二国間で均衡する必要はない。下記に記してある通り。
 貿易とは、得意な産業では輸出して、不得意な産業では輸入することだ。
 日本で言えば、自動車や電子部品などを輸出して、農産物や石油や原料を輸入する。特にアメリカとの関係で言えば、自動車を輸出して、牛肉や戦闘機やオスプレイを輸入する。こうして、持ちつ持たれつの関係になる。
 なのに、そのうち日本の輸出品目である自動車だけを取り上げて、「日本の方が一方的に輸出している。やばい」と指摘しても、何の意味もない。
 貿易では、貿易品目ごとではバランスが取れなくていい。それが原則だ。

 ついでに言えば、貿易は、二国間でもバランスを取れなくてもいい。全体でバランスを取れればいい。
 日本はアメリカに自動車を輸出する。アメリカはアラブに兵器を輸出する。アラブは日本に石油を輸出する。こうして三角形の三つの頂点で貿易は循環する。それで全体としてバランスが取れている。 
( → ちきりん「日本の自動車産業が直視すべき現実 」の誤り

 仮にトランプの日本批判が当たっているとしたら、日本が大幅な貿易黒字になっている場合だ。1980年代なら、それは成立したかもしれない。しかし近年では、日本は大幅な貿易赤字になっている。昨年、ようやく黒字になったばかりだ。


bouekiakaji.png
出典:朝日新聞 2017-01-26



 貿易赤字の国に対して、「もっと輸入しろ」と強いるのは、筋違いだ。どうせなら、貿易黒字の国に、そう要求するべきだろう。
 特に、対米貿易収支が大幅に黒字である中国を相手に、注文を付けるべきだ。
 このことは、アメリカの貿易赤字における各国の占める比率を見るとわかる。(下記)


usa-inport.png
出典:アメリカの貿易はどう変わってきたか



 1980年代なら、日本が圧倒的に多くの比率を占めていた。しかし今では、圧倒的に多くの比率を占めているのは、中国だ。
 トランプ大統領は、そこを理解できていない。頭が 1980年代のまま、固定されている。(データが更新されていないわけだ。ワープロ専用機時代のデータのままで。)

 (3) 比較優位


 比較優位という概念がある。
  → 比較優位とは何か?:  nando ブログ
 これによると、次のように説明できる。
 「米国から日本に輸出されるのは、農産物だ。それというのも、米国の農産物の競争力は、世界的に見ても、圧倒的に強いからだ。この場合には、米国は農産物を輸出して、日本からは自動車を輸入するのが、双方にとって利益になる」

 ここから、次のように結論できる。
 「米国の自動車産業を繁栄せるためには、(圧倒的に強力な)米国の農業を弱体化させればいい」
 このことで、農業の比較優位が崩れるから、米高の農産物輸出は減る。その分、米国の工業製品輸出は増える。たとえば、自動車の輸出も増えるだろう。
 米国は、「農産物も自動車も輸出したい」と思うよりは、「自動車を輸出するために、農産物の輸出をやめる」というふうにすればいいのだ。それこそが、工業製品を輸出する最大の方策だ。経済学的には、そう結論できる。

 なお、このことは、下記でも説明されている。
  → はてな匿名ダイアリー

 (4) ラストベルト


 それでも次のような不満があるかもしれない。
 「経済学的にいくら理屈を述べても、ラストベルトと呼ばれるさびれた自動車工業地帯(デトロイト)の工場労働者は納得しない」
 なるほど。ラストベルトの労働者は納得するまい。しかしこれは、日本の自動車会社のせいではない。米国南部の自動車工場のせいだ。
 米国北部のラストベルトの自動車工場がさびれたのは、米国南部の自動車工場が発展したからだ。たとえば、テネシー州・スマーナの工場だ。
《 テネシー州の自動車産業 》
● テネシー州は4年連続"自動車製造競争力"で全米ナンバー1
● 州内の製造業従事者の3人に1人は自動車産業に従事
( → テネシー州政府日本事務所

 ラストベルトの労働者が失業しつつあるのは、日本にある自動車工場のせいではなく、アメリカ南部にある自動車工場のせいなのだ。そこを勘違いしているのが、トランプだ。
 日本の会社は、「米国の工場で雇用に貢献しています」とだけ説明するが、これは妥当ではない。「米国南部の工場では雇用に貢献していますが、そのせいで米国北部の工場は次々とつぶれていきます」と説明するべきだ。
 問題は、米国内の対立なのである。(米国と日本の対立ではない。)

 (5) 車より電子


 そもそも、トランプ大統領は、着目点が狂っている。先の貿易収支を見ればわかるように、日本からの輸入などは、たかが知れている。一方、圧倒的に多いのは、中国からの輸入だ。その貿易品目の多くは、電子製品だろう。iPhone や Android やパソコンなどだ。さらに、雑貨や繊維製品もある。
 時代はこのように変化しているのだ。今は花形商品は、自動車ではなく、電子製品なのである。規模でもそちらの方がずっと大きい。こちらでこそ、米国は大幅赤字をもたらされている。
 なのに、そういうIT時代の流れに遅れて、いまだに「自動車こそが米国の主役だ」というふうに思い込んでいるのだろう。IT時代という流れから、完全に取り残されている。
 彼に教えて上げるといいだろう。
 「貿易赤字を減らしたければ、自動車の輸出を増やすよりも、電子産業で中国からの輸入を減らせ」と。
 米国の自動車産業は、もともと輸出能力を持たない。(前出)。そんな「ありもしないもの」に期待するのは、幽霊に期待するようなものだ。
 それよりは、「中国からの輸入」を減らすことの方が、圧倒的に効果がある。そっちをめざすべきだ。

 (6) 雇用増大の方法


 では、米国で雇用を増やすには、どうすればいいか? これについては、先のページの記述が参考になる。
 この問題については、クルーグマンが核心を示している。
  https://www.nytimes.com/2017/01/06/opinion/the-age-of-fake-policy.html (英文)
  http://www.asahi.com/articles/DA3S12744609.html (翻訳)
  http://blog.livedoor.jp/koyamaiwao-0525/archives/68417516.html (転載)

 要するに、こうだ。
 アメリカでは毎日、大量(7万5千人)の失業者と雇用者が発生する。それは通常の出来事だ。そのなかで米国の自動車産業による雇用が数百人ぐらい増えたからといって、それはほとんど誤差程度の意味しか持たない。トランプが何かを言って、フォードやトヨタの雇用者が少し増えたからといって、何の意味も持たないのだ。

 まったく、ごもっとも。おっしゃる通り。米国が失業者を減らしたいと思うのであれば、日本の自動車産業をいくら攻撃しても意味がない。大切なのは、マクロ的な経済政策を妥当にやることだ。そして、そのために最も効果的な方法は、ピケティの方法だ。つまり、富裕層に増税して、中低所得者の所得を増大させることだ。こうして富の偏在を是正することで、GDP が拡大して、失業者は減少する。これが最も正しい政策だ。
( → ちきりん「日本の自動車産業が直視すべき現実 」の誤り

 米国で雇用を増やしたければ、個別の自動車産業で数百人の従業員を増やしても、誤差の範囲でしかない。つまり、スズメの涙か、焼け石に水だ。ほとんど意味がない。
 米国で雇用を増やしたければ、マクロ的に景気を拡大することだ。そうすれば、特にサービス業で、大幅に雇用者が増える。そのことで、失業者がどんどん吸収される。
 ただ、その際、「富の偏在」を防ぐことが必要だ。さもないと、いくら雇用が増えても、「低所得者」ばかりが増えてしまう。これでは逆効果だ。
  ・ マクロ的な景気拡大策
  ・ 貧富の差の縮小

 この二つが、失業解消の王道である。
 ひるがえって、日本の自動車会社をいくら責めても、それはまったくのお門違いなのだ。日本を責めれば、苛立っている米国の白人労働者の憂さ晴らしにはなるかもしれないが、実効性は何もない。

 トランプ大統領がやっていることは、経済政策ではなくて、ただのジャイアニズムなのである。



jaiann4.jpg jaiann7.jpg jaiann8.jpg 

ドラえもん ジャイアン猛言トランプ

posted by 管理人 at 22:27 | Comment(4) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
ご尤もな話なんですが、それを新大統領が理解するか、理解しないまでも施策を変更するかとなると期待できない処です。いっそうの状況悪化がない限り政策の転向は見込めない気がします。

やはり、理不尽、非合理的なものにどう相対していくかが求められているのではないでしょうか。
Posted by 作業員 at 2017年01月27日 10:15
全くその通りだと思います。
貿易の不均衡を是正するために、為替の変動があるのではないでしょうか。
日本の産業が、自動車など比較優位の製品を米国で売る。米国で売るんだから当然米ドル紙幣が日本に貯まる。一方、米国は農産物など比較優位の産物を日本で売る。当然日本円の紙幣が米国に貯まる。この双方に貯まったドルと円が同じ価値であればどちらがたくさん売ったということはないわけです。為替が動くということは常にこれを同じ価値にしようとする力が自動的に働くからです。
意図的に為替を操作しても、結局は無理が来ると思いますが・・
Posted by sm at 2017年01月27日 16:24
 強いジャイアンに対抗するには、弱い者が多数手を組むしか方法はない。多数で手を組んで力を強くすれば、対抗することができ、譲歩を引き出すことができるでしょう。
 4年後にアメリカの政権が交代することを予想すれば、アメリカに対抗するのではなく、あくまでトランプ政権の政策に対抗するという姿勢で臨むことになるでしょう。
Posted by ishi at 2017年01月31日 17:43
http://anond.hatelabo.jp/20170126101104


文体がnandoブログ、Openブログと同じでは?
Posted by 通りすがり at 2017年02月14日 16:18
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