◆ トランプ大統領の誤りは?(輸入課税):  nando ブログ

2017年01月28日

◆ トランプ大統領の誤りは?(輸入課税)

 「貿易赤字国からの輸入品に 20%の課税」という方針を、トランプ政権が検討中だ。ここでは、何が誤りなのか?

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 「貿易赤字国からの輸入品に 20%の課税」という方針を、トランプ政権が検討中だ。
 ホワイトハウスの報道官は、メキシコとの国境の壁の建設費を賄うためにアメリカ側が貿易赤字を抱える日本などからの輸入品に 20%の税金を掛けることを検討していると明らかにしました。
 メキシコ以外の国からの輸入品への課税についても「貿易赤字を抱えている国を検討している」と述べました。日本はアメリカにとって中国に次ぐ貿易赤字国で、実施されれば大きな影響を受けます。
 この政策で実質的には消費者が壁の建設費を支払うことになるのではという指摘に対して、スパイサー報道官は「アメリカ人労働者の賃金を引き上げるものだ」と反論しました。
( → テレ朝ニュース 2017/01/27

 正式決定したわけではなく、まだ検討中の段階ではあるが、あまりにもひどい政策だということで、各所で話題になっている。
  → はてなブックマーク

 ただ、「金を払うのは米国民だ」という指摘が多い。上記の記事中にもその指摘がある。
 ただし、その指摘は妥当ではない。間違いというよりは、ピンボケだ。大事なのは、次のことだ。
 「特定国からの輸入に課税しても、米国内の産業が盛んになるわけではない。対象国以外の国からの輸入に代替されるだけだ」
 たとえば、メキシコと日本からの輸入に課税しても、欧州や韓国からの輸入が増えるだけだ。この場合、輸入対象国が変わるだけだ。次のように。
  メキシコ・日本 → 欧州・韓国

 したがって、米国内での価格上昇はほとんどないだろうが、一方で、米国の産業が盛んになるわけではない。また、米国の貿易赤字が減るわけでもない。米国の貿易赤字の対象国が、「メキシコ・日本 → 欧州・韓国」というふうに変わるだけだ。
比喩
A「ダイエットするために、ご飯を食べるのをやめました」
B「それじゃ、おなかが減るだろ?」
A「大丈夫です。ご飯の代わりに、パンを食べています」
B「だったら、ダイエットしないのと同じだろ?」
A「いいえ。ご飯を食べるのをやめた分、ダイエットになります」

 こっちを減らしても、あっちを増やすのでは、差し引きして、何にもならない。しかし、上のダイエット馬鹿は、こっちを減らした分だけ、全体でも減ると思っている。(差し引きができない。)
 トランプ大統領も同様だ。メキシコ・日本で減らしても、欧州・韓国で増えては、何にもならないのだが、メキシコ・日本で減らした分、輸入量全体が減ると勘違いしている。

 一般に、輸入品への課税というものは、全輸入国を対象としなくては無効である。特定国だけを対象としても、他の国から入ってくるので、尻抜けである。バケツから水が漏れるようなものだ。あるいは、ザルみたいなものだ。


cooking_zaru_arau_kome.png


 こういうふうに「無効である」と指摘するのが正しい。ひるがえって、「払うのは米国民だよ」という指摘は、妥当ではない。米国民は、払うことはない。かわりに、買うのをやめるだけだ。そして、他の国からの輸入品を買う。別に、高い金を払うわけじゃない。1〜2%ぐらいは値上がりしそうだが、それだけだ。
 上記のような政策は、対象国(メキシコ・日本)には大きな被害をもたらすだろうが、米国にとってはほとんど何ももたらさないのである。極端な被害者(メキシコ・日本)がある一方で、欧州・韓国みたいに「漁夫の利」を得る国がある。それだけのことだ。損得は、米国外で発生する。米国自体は、「ちょっと損する」というだけのことだ。
 これが正しい認識である。




 ただし、である。以上は、「無効である」という指摘であり、「手法が正しくない」という指摘だ。すると、
 「だったら正しい手法をとれば?」
 という発想になる。その場合には、
 「貿易赤字国だけでなく、全世界を対象にして、輸入品に課税する」
 という方針となる。( 20世紀初めの保護主義みたいだ。)
 では、そうすればいいのか? もちろん、違う。では、そのような「自国第一主義」は、どこがおかしいのか? それが問題となる。
 この問題には、以下のように答えよう。
 「トランプ大統領は、現状認識そのものが根本的に狂っている」


 手法が狂っているのではない。認識そのものが狂っている。
 比喩で言うと、トランプ大統領が「ハンドルを右に切ろう」としたとき、そのハンドルの操作法が間違っているのではない。「ハンドルを右に切ろう」という判断そのものが間違っている。それというのも、「道路が右に曲がっているから、右に曲がるべきだ」とふう現状認識そのものが間違っているからだ。
 現状の道はまっすぐなのに、道が右に曲がっていると勘違いしている。そのせいで、ハンドルを右に切ろうとする。しかし、ここでは、ハンドルの切り方が間違っているのではなく、現状認識そのものが間違っているのだ。以後の手法などは、どうでもいいのだ。(どんな手法をとろうと、正解はない。)
 比喩的に言えば、道がまっすぐなのに、「道が曲がっている」と誤認して、ハンドルを右に切れば、必ず脱線する。「どういうふうにハンドルを切れば正しいか?」という問題ではないのだ。「どういうふうにハンドルを切っても、必ず脱線する」という意味では、その質問には正解がない。そういう間違った質問をしていること自体が誤りなのだ。
 以下では具体的に示そう。


 (1) メキシコからの貿易赤字

 「メキシコからの貿易赤字があるから課税して貿易赤字を減らしたい」
 というのが、トランプ大統領の方針だ。
 もちろん、そんなことをしても、他国からの輸入に代替されるだけだから、何の意味もない。(上記)
 ただ、それとは別に、根本的な無理解がある。次のことだ。
 「メキシコは貿易赤字国である」

 トランプ大統領の発想では、「メキシコは(対米黒字のせいで)大幅な貿易黒字国である」というつもりなのだろうが、実は違う。メキシコは貿易赤字国である。
 メキシコの経常収支は、こうだ。


mexco.png
出典:世界のネタ帳


 見てわかるように、経常赤字が続いている。
 貿易収支は、ちょっと数字がばらつくが、似たようなものである。


mexico-trade.png
出典:tradingeconomics


 メキシコは、経常収支も、貿易収支も、赤字である。
 日本も同様だ。前項の (2) で示したように、日本はずっと貿易赤字が続いていた。


bouekiakaji.png
出典:朝日新聞 2017-01-26



 このような国を「貿易黒字の国」と見なして課税するのは、認識そのものが狂っているのだ。

( ※ 「少なくとも対米貿易では黒字だろ」という発想もあるかもしれない。しかし、貿易というのは、世界全体で見るものであって、特定の二国間だけ見るのは誤りだ。そのことは、前項の (2) のコラムで引用・説明した。こんなこともわからないのが、トランプ大統領だが。)


 (2) 米国の国際収支

 トランプ大統領は「米国を貿易赤字にする国が悪い」という発想のようだ。しかし、米国の貿易全体を見ると、大幅な貿易赤字がある。とすれば、世界中のほとんどの国に対して大幅赤字なのだから、世界中のほとんどの国に対して、20%の課税をすることになる。しかし、それは馬鹿げている。(ただの保護主義だ。)

 もっと重要なことがある。こうだ。
 「米国は、貿易収支では大幅な赤字国だが、資本収支では大幅な黒字国である。その両者はほぼ同額だ。ゆえに、米国の国際収支は、黒字でも赤字でもなく、ほぼバランスが取れている」
 このことは、次のページで指摘されている。
  → アメリカの資本収支の変化(リーマンショック前後)
  → 大きく転換した米国の国際収支

 説明とグラフを見れば明らかだろう。
 たしかに、輸出入の商品だけを見れば、米国は大幅な赤字だ。つまり、貿易収支は、大幅な貿易赤字だ。
 しかし、知的財産権の収入などの所得収支は大幅な黒字になっているし、金の移転を意味する金融収支も大幅な黒字になっており、資本収支は大幅な黒字だ。
 そして、その両者は釣り合っているのだから、何も問題はないのだ。

 比喩で言うと、ある人は無職で働きもしないで給料ゼロだ。それでいて、毎年 1000万円も商品を購入している。「どういうことだ? 大幅赤字では?」と疑った人がいるが、実は、何でもない。その人は、株を持っていて、株の配当が毎年 1000万円もあったのだ。(あるいは、不動産をもっていて、不動産の家賃収入が毎年 1000万円もあったのだ。)
 こういうふうに、「不労所得」があれば、「労働所得」はなくてもいいのだ。何も問題はない。……そして、それが、今の米国の状況だ。
 こういう状況で、貿易収支だけを見て、「貿易赤字が巨大だあ」と騒ぐのは、「国際収支とは何か」ということも理解できない、ただの経済音痴の誤認であるにすぎない。


 (3) 正しい経済政策

 では、米国はどうすればいいのか? 以上の話を読んだだけでは、「貿易収支が赤字でも、何もしなくてもいい」というふうになりそうだ。しかしそれでは、自動車産業の失業者の問題を解決できない。不満を持った白人労働者の不満は残るままだ。だとしたら、「何もしない」ということ以外に、いったいどうすればいいのか? 

 実を言うと、元の発想が駄目なのだ。トランプは、
 「輸入のせいで失業が増えた。だから、失業を減らすために、輸入を減らす」

 と考えたが、それはもともと方向違いなのである。「冤罪だ」と言ってもいい。そこには犯人はいないのに、そこに犯人がいると勝手に思い込んで、間違った相手を逮捕してしまったのだ。

 では、どうすればいいのか? 正解を言おう。こうだ。
 「失業者が発生することの理由は、貿易赤字ではない。別のところに理由がある。だから、その理由に対して、正しい対処をすればいい」


 では、「別のところ」とは、何か? また、「正しい対処」とは、何か? こうだ。
 「米国は全体として、資本収支が黒字で、貿易収支が赤字である。これはつまり、不労所得の資本家が高収入になって、働いている労働者は所得を失う(職を失う)ということだ。だから、資本家の所得を削って、労働者の所得に回せばいい」


 具体的には、こうだ。
 「資本収支が黒字なのは、米国に資金が流入するからだ。それを抑制するためには、金利を引き下げるといい。そのことで、ドル安をもたらす。そうすると、ドル安を通じて、貿易収支が改善し、米国の産業は栄える」


 金利を引き下げること。これが大切だ。
 ただし、この方針には、弊害がある。金利を引き下げると、インフレ傾向になり、景気が過熱してしまうのだ。一般に、金利というものは、適切に調節することが大切であり、無闇に引き下げればいいというものではないのだ。無闇に引き下げれば、景気が過熱し、バブルがふくらむ。その行く末は、バブル破裂であり、急激な経済縮小である。その事例は、日本のバブル破裂(1991年)にもあったし、米国の不動産バブルの破裂(= リーマンショック・2008年)もあった。

 では、金利の引き下げに弊害があるとしたら、どうすればいいのか? こうだ。
 「金利の引き下げと増税を同時に実施すればいい」

 これによって、景気の過熱を阻止できる。と同時に、ドル安になって、貿易収支は改善する。その分、米国内の失業は減少する。その一方で、増税を通じて、米国内の金持ち階級の富は国に吸い上げられる。(その金を福祉に回すこともできるが、福祉には回さずに、国家財政の改善に回すことで、景気の過熱を防ぐことができる。仮に、増税の金を福祉に回してしまったら、インフレが発生して、元も子もなくなる。)
 結局、「利下げ」と「増税」の同時実施をすれば、失業の解決ができて、しかも、インフレという弊害を避けることができるわけだ。めでたしめでたし。

 この方針は、「金持ちの優遇」という共和党の方針には反する。
 一方で、「低所得者の優遇」という民主党の方針にも反する。
 この方針は、「増税によることの効果を得るのは、貧しい低所得者ではなく、働いている中所得者だ」というふうになる。その意味で、この方針は、共和党の方針とも民主党の方針とも異なる。どちらでもない、第3の方針だ。そして、この方針こそが、失業解消のための正しい方針(正解)なのである。

 増税をするというと、たいていの人は、「その金で福祉を増やすか減らすか」というふうに考えがちだ。しかし、増税というものを通じて、「失業を減らす」という効果をもたらすこともできるのだ。ただし、増税それ単独ではなく、「利下げ」という金融政策と組み合わせることによって、だ。



 [ 付記1 ]
 「増税」と「利下げ」の組み合わせは、経済学用語では、「ポリシー・ミックス」とも呼ばれる方針だ。この件は、前に「泉の波立ち」で詳しく論じたことがある。そちらを参照。
  → 「ポリシー・ミックス」 サイト内検索

 ※ 増税は景気を冷やす効果があり、利下げは景気を熱する効果がある。一見して、景気に対して矛盾する政策をすることになる。それが「ポリシー・ミックス」と言われる理由だ。
 ※ 「アクセルとブレーキを同時にかけるようなものだ」と思えるかもしれないが、実は「ヒール・アンド・トゥ」みたいに、高度な政策である。

 [ 付記2 ]
 通常の利下げでは、量的緩和がともなうので、通貨流通量の増大にともなって、インフレが発生する。
 ここで、増税によって通貨を吸い上げれば、通貨流通量の増大を阻止することができる。つまり、インフレを抑止できる。
 こうして、「利下げと増税」という組み合わせによって、インフレ抑止と経済成長の双方をともに達成できる。
 かなり高度な経済政策である。これを理解できている経済学者は、あまり多くないようだ。
( ※ 日銀内部に至っては、「量的緩和」という馬鹿のひとつ覚えばかりみたいな経済学者や金融関係者が多い。不況のときには、「利下げと減税」の双方の組み合わせが必要なのだが、そこを理解できないわけだ。金利のことしか考えていなくて、増減税の方法を知らないので、間違った無効な方策ばかりをとることになる。その意味で、日銀も、トランプも、経済学音痴という点では共通する。)(一方、違いは、正解だ。米国の正解は「増税」であり、日本の正解は「減税」である。)

posted by 管理人 at 17:13 | Comment(4) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
正しい、誤りはさておき、『資本家の所得を削って、労働者の所得に回せばいい』……これがトランプ政権で実現されることはまず、ありえないでしょう。

トランプ政権の閣僚はほぼ不労所得の資産家ですから、自分の収入が減ることを良しとすることはありえません。
大統領自身、大統領としての報酬は1ドルでよしとしています。つまり、政策で自分の不労所得を増やすことに熱中することでしょう。

A・ビアスの悪魔の辞典に書かれる様に、『政治:私の利益のために国事を運営すること』という流れでこの政権は終始することでしょう。
あ……日本の現在の政権も大差ありませんね。はぁ……。
Posted by 無機名 at 2017年01月29日 08:40
管理人様のこの手の主張が私にはもっとも良くフィットします。経済学に全く疎い私にも、管理人様の説く経済論は良く理解でき、まさにその通りだと共感できるのですから、政治家であれば当然のごとく、こんなことは理解できるはずです。しかしながら、そのような政治が行われることが決してないのは、結局のところ、自分の利害だけを考える人しか、政治家を志すことがないと言うことでしょうか。
Posted by murata at 2017年01月29日 12:17
 中国、メキシコ、日本などからの輸入に高関税をかけて、他の国からの輸入が増える。
 輸入品の量が増えて対米貿易黒字になった国からの輸入品にも高関税をかける。
 どんどん高関税をかける国が増えていく。
 対米貿易黒字が無くなった国の関税はいくらか引き下げるかもしれないが、元に戻すと輸入品が増えると予想されるので、関税を元の率には戻さない。
 高関税をかけられた国は怒って、報復措置をとる。どんな報復措置をとるか?
アメリカがいやがる報復措置が良いと考えると。
 アメリカは知的所有権をたくさん持っていると考えられるので、「アメリカ企業やアメリカ市民が持っている知的所有権(特許や著作権)を一時的に停止する」とどうだろうか。
 高関税をかけられた国で連合して、こんな対抗措置をとったらどうだろうか。そして、安い薬や本、コピー製品などを、高関税をかけられた国同士で貿易したり、安い品物を求める発展途上国に売りまくる。中国なんかは喜んで世界中に安物をばらまきそうに思います。
 高関税をかけられた国が多数協調すればアメリカはアメリカは困るでしょう。
これぐらいやらないと、または実行しなくても計画ぐらいはしないと、トランプのアメリカの態度を変えられないのではないかと思います。
 ただし、とらんぷのことだから、もっと過激な報復措置を実行しそうで怖いです。
Posted by ishi at 2017年01月31日 08:23
知的財産権等使用料への課税だけではなく、対アメリカへの支払い全般(サービス収支、第一次所得収支、金融収支など)への課税の方がよいか?
実際に課税するところまでしなくても、振りだけでもどうだろうか。
 
Posted by ishi at 2017年01月31日 17:36
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