◆ メキシコ国境の壁は有効か?:  nando ブログ

2017年01月29日

◆ メキシコ国境の壁は有効か?

 トランプ大統領は、メキシコ国境に壁を作ろうとしている。不法移民の阻止が狙い。これは有効か?

 ──

 トランプ大統領は、メキシコ国境に壁を作ろうとしている。
  → メキシコ国境に壁、トランプ氏が命令へ 移民制限に着手:朝日新聞
  → トランプ大統領 メキシコ国境に壁建設へ 大統領令に署名 | NHK

 これに対して、批判もある。
 《 メキシコ国境の壁建設費、ツケは米消費者に 》
 新政権は、メキシコとの国境に壁を建設する費用を負担させるため、同国からの輸入品に課税する方針を示した。資金をたっぷり捻出できそうだが、ツケを払うのは米国の消費者かもしれない。
 パイサー大統領報道官は……メキシコからの輸入品に20%課税して壁の建設費に充てる方針を表明し、年間100億ドルを調達できると述べた。
 企業はそのコストを消費者に転嫁するかもしれない。……壁建設費の請求書は結局、米国の消費者に回ってくるかもしれない。
( → コラム:ロイター

 これは妥当ではない。前項でも述べたように、20%課税が生じれば、その税金を払うのではなく、その税金を払わないで済むような別の国から輸入するだけだ。メキシコからの輸入は激減するだろうが、米国の消費者が多額の金を払うわけではない。
 したがって、「年間100億ドルを調達できる」ということもない。つまり、壁の建設費は、まかなえない。

 まったく、こんなこともわからないで、机上の計算をするんだから、呆れる。トランプ政権も馬鹿だが、それを信じるロイターも馬鹿だ。馬鹿ぞろい。
 しかしまあ、それはどうでもいい。話の本題は、別にある。

 ──

 話の本題は、こうだ。
 「メキシコ国境の壁は有効か?」
 こんな壁を作ったところで、壁を越えることは簡単そうに見えるが、どうなのだろう? 

 これについては、現地に行った人に聞くしかない。そこで、ネットを調べてみると、情報が見つかった。かなり詳細な情報がある。
  → 「国境の壁」はすでにできていた
  → メキシコから砂漠縦断で米へ不法入国
  → メキシコとの国境沿いで何が|日テレNEWS24

 簡単にまとめると、こうだ。
  ・ 国境の壁はすでにたくさんある。特に、都市部の近辺。
  ・ 都市部から遠い砂漠には、壁はない。(出典
  ・ 砂漠縦断で越境する人が多いが、砂漠で死者多数。(出典)(出典
  ・ 越境の助ける業者が、数十万円で自動車を用意してくれる。(出典)(出典
  ・ その自動車が寿司詰めなので、死者が出ることもある。(出典
  ・ 壁の下にトンネルを作って脱ける人もいる。(出典
  ・ 国境警備隊は無人偵察機も使って警護する。(出典
  ・ 逮捕者は年間 50万人にもなる。(出典
  ・ 一方で、毎年百万人以上もの人々が越境する。(出典

 まあ、全体としては、話の規模が大きすぎる。阻止できる数(逮捕者数)も莫大だが、漏れて不法入国する人も莫大だ。こうなると、壁を作って阻止することは、およそ不可能だろう。いくらかは減らす効果があるという程度。
 また、陸上に壁を作っても、海路で船を使って不法入国するという手もある。海岸線は広いので、阻止は不可能だろう。今のところは、陸路の方がコスト安だから陸路ばかりだが、陸路が封じられれば、海路になるだけだ。どっちみち、不法入国を阻止することなど、できそうもない。

 以上が、ネットを調べてわかったことだ。

 ただし、ここで話が終わっては、面白くない。単にネットを見ればわかる情報だけなら、ひねりがない。本サイトの読者の期待は、もっと上だろう。
 実は、話の核心は、この先だ。

 ──

 そもそも、問題の本質は何か? 次のことだ。
 「メキシコ人がアメリカに不法入国したがるのは、メキシコの所得水準があまりにも低いからだ。そこで、まともな生活ができるように、国外に移ろうとする」

 しかし、これは不自然である。どこの国だって、国内でまともに生活ができている。ひところは最貧国並みだった中国でさえ、まともに生活ができていた。(だから中国は圧倒的に多大な人口があった。生活ができなければ、こんなに人口が増えるはずがない。)
 ではなぜ、後進国だった中国でさえまともに生活ができたのに、ずっと中進国であった(自動車産業もあった)メキシコでは、まともに生活ができないのか? ここに疑問が生じる。

 そこで調べてみる。どのような後進国でも、まともに仕事がないということはあり得ない。なぜなら、農業ができるからだ。中国でさえ、まともに生活ができたのは、中国では、奥地の山岳地帯でさえ、ちゃんと農業ができたからだ。だから、食料を生産できて、人口を増やすことができた。
 ではなぜ、メキシコではそれができないのか? なぜメキシコでは、農業による産業維持ができないのか? どんなにひどい後進国であっても、農業だけはできるはずだ。(さもなくば人口が減少するからだ。)人口分の農業は必ずできるはずなのに、どうしてメキシコではできないのか? 


nougyou_saigai_yasai.png

 ──

 ここまで考えながら調べると、意外な事実が判明した。メキシコにも農業があったのだが、それは壊滅させられてしまったのだ。どうしてか? NAFTA のせいで、米国から格安の農産物が流入したからだ。
  → 【第1回メキシコ】NAFTAで疲弊進む
  → 危機が迫るメキシコの農村 『NAFTA下メキシコの苦悩と抵抗』
  → メキシコの惨状・・・NAFTAの実体|ひろのひとりごと

 特にトウモロコシで顕著だが、メキシコの農業は、NAFTAの下で、壊滅状態になった。特に、野菜が壊滅的だ。まともに野菜もないので、メキシコ人が食べるのは、穀類ばかりだ。そのせいで、やたらと肥満体質になってしまっている。
 メキシコの農業団体「全国農民連合(CNC)」は、協定を心底憎む。発効から十六年を迎えた際には、「NAFTAが過去十六年間でメキシコにもたらした災厄は、スペインが五世紀にわたってもたらした災厄よりも大きい」と、厳しく断罪した。
 メキシコ人の食生活も激変した。自給自足農家が土地を追われた結果、国内の貧困層は飢えに苦しむか、高脂肪・高カロリーの安価なファストフードに頼る以外に、選択肢がなくなった。
 その結果、メキシコ人は九〇年代から急速に太り始め、九九年には女性の六〇%、男性の五五%が肥満または過体重に陥った。一〇年には国民の七割が肥満または過体重。最近ではアメリカを抜いて、「世界一の肥満国家」になった。
 米国人研究者のローラ・カールセン「国際政策センター」所長は最近の論考で、「貧困層は、新鮮な野菜の代わりにポテトチップスを食べ、飲料水の代わりに安いコカ・コーラを飲まざるを得なくなった」と、肥満激増の原因を指摘した。一方で、農村部では所得激減と偏食によって、子供の栄養失調が深刻化しており、カールセン所長は「NAFTAがメキシコの飢餓を作り出した」と批判する
( → 米国に潰されたメキシコ農業

 ではどうして、メキシコ農業は、NAFTA で壊滅したのか? 市場の競争で、米国の農業に敗北したからだ。ではなぜ、敗北したのか? 米国の農業はあまりにも優秀すぎたからか? いや、そうではない。米国の農家は莫大な 補助金 をもらっているからだ。
 そのことは、ググれば、情報はたくさん見つかる。
  → 米国 農業 補助金 - Google 検索
 ここから二つ取り上げれば、次のページがある。
  → 農業補助金が収入の5割
  → 米国の安い農作物は「補助金漬け」政策に支えられている 1

 補助金による農業保護。これこそが米国の農業の正体だ。それとともに、 NAFTA の下で農業輸出を自由化することで、米国の農業はメキシコの農業を壊滅させた。だから人々は(労働集約的な)農業に就くことができなくなり、所得が低下した。また、やたらと輸入を強いられることで、通貨安となり、この意味でも所得水準が低下した。

 まとめれば、こう言える。
 「補助金漬けで不当な競争力を得た米国農業は、NAFTA の自由貿易の下で、メキシコの農業を壊滅させた。そのせいで、メキシコの労働者は困窮し、低所得にあえぎ、まともに生活できなくなった。そこでやむなく、米国に不法入国する」


 ここまで見れば、問題の本質がわかる。不法入国が起こるのは、メキシコ人がデタラメだからではない。米国がデタラメな農業政策を取るせいで、米国がメキシコの農業を壊滅させたからだ。
 このあと、メキシコは工業で産業を維持しようとした。また、NAFTA で工業製品を自由に輸出しようとした。しかしながら、それは、農業壊滅による失業増を補うほどのものではなかった。かくて、社会には失業者があふれ、その失業者が、不法入国に向かうことになった。
 これが本質だ。

 ──

 話はこれで終わらない。メキシコでは、産業が壊滅して、失業者があふれたあと、どうなったか? 麻薬産業が跋扈(ばっこ)するようになった。そのひどさについては、前にも論じたことがある。
  → 麻薬を合法化するべきか?
 似た情報もある。
  → 【閲覧注意】世界凶悪の麻薬組織メキシコ麻薬カルテルの実態!
 去年の話だが、下記の事件もあった。
  → 麻薬犯罪一掃掲げた新市長、就任翌日に暗殺される:AFPBB News
  → 【閲覧注意】メキシコの市長、就任翌日に殺される

 メキシコは麻薬マフィアが跋扈(ばっこ)するせいで、地獄のようなありさまとなっている。
 そして、その根源は何かと言えば、米国の農業補助金なのだ。ここに莫大な金を投じるから、メキシコの農業を壊滅させ、そこから、二つの問題を発生させる。
  ・ メキシコから米国への不法入国
  ・ メキシコの麻薬マフィア(麻薬蔓延)

 ──
 
 米国の方針(農業補助金)が、いかにひどい厄災をもたらしたかがわかる。ここが本質だ。
 そして、この本質を見失ったまま、壁を建設するために兆円規模の莫大な金を投じても、ただの無駄になるだけなのだ。
 
 ではどうすればいいか? 兆円規模の金をかけて壁を建設するかわりに、農業補助金という兆円規模の無駄金を廃止すればいい。こうして正当な自由競争という原則を取るといい。
 なのに、「農家への所得補償」という、共産主義みたいな政策を取っているところが、米国の根本的な間違いだ。
 そして、それを理解しないまま、壁なんかを建設しようとするトランプに至っては、もはや道化状態というしかない。

( ※ 道化が王様になると、国が滅びる……となりそうだが。)



 [ 付記 ]
 前項の問題(メキシコへの輸入課税)についても、同様の結論を出せる。
 トランプ大統領の方針は、「メキシコからの自動車輸入に課税する」ということだが、そんなことをしても、輸入先が他国に変わるだけなので、無意味だ。(前項で述べたとおり。)
 では、どうすればいいか? 米国は、農業の補助金を減らせばいいのだ。それにともなって、農産物の輸出が減り、同時に、ドル安にともなって、他品目の輸出が増える。比較優位の原理から言って、農産物以外のもの(工業製品など)の輸出が増える。たぶん、メキシコからは農産物を輸入するようになり、米国からは自動車や機械製品やシェールガスを輸出するようになる。……このような変更にともなって、米国の対メキシコでの貿易赤字は減るだろう。(ただし米国の貿易赤字全体は減らない。理由は前項の (2)。)

posted by 管理人 at 20:45 | Comment(1) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
この話は日本がTPP交渉に参加する際、参加に反対する農業者側の理由の一例として見聞した記憶があります。
結局、日本はそれを抑えてTPP交渉への参加を決めたわけですが...
一方、トランプ政権はそれでも米国に不利としてTPP交渉からの永遠の離脱を決定しました。世界の警察であることを拒否、移民を拒絶、農業、自動車分野での一人勝ちを目指す、これが現状でしょうか。果たしてこの我儘が実現し得るのか興味深いところです。

米墨のNAFTAであまりに米側に有利な状況が不法移民の流入を招いたとすると、条件を緩和すれば移民を抑制する力は生まれます。北風政策から太陽政策への転校といったところでしょうか。しかしながら、あの大統領に強硬路線を変更するだけの資質があるのか、又、墨内産業の成長と移民抑制の均衡条件に両国が満足できるのかを考えるとなかなか難しい話では、と思います。
Posted by 作業員 at 2017年01月30日 11:30
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。