◆ 年金資金を米国に投資?:  nando ブログ

2017年02月04日

◆ 年金資金を米国に投資?

 日本の年金資金を米国に投資する……という案が報道された。ここにある根本的な誤認を指摘する。

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 日本の年金資金を米国に投資する……という案が報道された。
 《 公的年金、米インフラに投資 首脳会談で提案へ 》
 政府が10日に米ワシントンで開く日米首脳会談で提案する経済協力の原案が1日、明らかになった。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が米国のインフラ事業に投資することなどを通じ、米で数十万人の雇用創出につなげる。対米投資などで米成長に貢献できる考えを伝え、トランプ政権との関係強化につなげる。
 米企業などがインフラ整備の資金調達のために発行する債券をGPIFが購入することが柱だ。…… 130兆円規模の資金運用のうち5%まで海外インフラに投資可能。
( → 日本経済新聞 2017-02-02

 「米国にお金を納入」ということで、感情的な反発も多い。
  → はてなブックマーク

 しかし、記事の後半を見ればわかるように、債権を購入するわけだ。個別事業に直接投資するのではない。これなら、個別事業の成否には依存せず、企業の信用度に依存するだけだから、普通の社債購入とあまり変わらない。危険度は特に高いというほどでもあるまい。特別な懸念は必要ないだろう。

 とはいえ、反発が強いせいか、首相はこの報道(または観測気球)を否定した。
 安倍晋三首相は3日午後、10日の日米首脳会談で協議する経済協力に関し、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資金を米国のインフラ事業に投資するとの一部報道について「政府として検討しているわけではない」と否定した。衆院予算委員会で大串博志委員(民進)の質問に答えた。
 首相はGPIFの資金運用について、法律に基づいて被保険者の利益のためにGPIFで判断するものとし、「そもそも私に指図する権限はないので、(経済協力の)パッケージとしてあり得ない」と語った。
( → ロイター 2017-02-03

 それに先だって、GPIFの側も否定していた。



 というわけで、この案はもともと「ボツ」になる運命だった。特に検討する必要はあるまい。

 しかし、である。ここには重大な錯誤があるのだ。それを指摘しよう。

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 経済学的に考える。
 そもそも、貿易収支と資本収支は、均衡するはずだ。
 たとえば、1億ドルの貿易赤字があるなら、1億ドルの商品を輸入して、1億ドルの金を払う。ここで、その金はどこから来たか?
 「ドルを印刷する」という手もあるが、それをやると、インフレになるから、やたらとやるわけには行かない。(もしやったら、ジンバブエみたいなことになる。)
 となると、外部からその金を持ってくるしかない。その金は、自分でもってくるか、プレゼントしてもらうか、借りるか、そのいずれかだ。いずれにしても、外部から金を持ってくる。この時点で、資本収支は1億ドルの黒字となる。
 かくて、貿易赤字と資本黒字は均衡する。
 その一方で、借金の場合には、帳簿に「借金残高」が記入される。

 米国の場合は、どうか? 近年は知的財産権の収入があり、資本収支が黒字になっているが、それまでは資本収支が黒字にならず、差額は借金で補っていた。(この場合は、資本収支のかわりに金融収支が黒字になっていた。借金をすればするほど金融収支は黒字となる。一方で、借金残高は増える。)
 要するに、米国はずっと貿易赤字が続いてきたが、それは、借金をすることで、商品を輸入する金を得てきたからだ。借りた金で、外国から商品を輸入してきたので、貿易赤字が続いてきた。(下記は経常収支だが、貿易収支と大差ない。)


usa-akaji.png
出典:世界のネタ帳

 
 この間に、米国の借金はどんどん貯まってきた。対外純債務を見るとわかる。(対外純資産が赤字である、という形になる。)

usa-junsaimu.jpg

 次の図もある。

us-junsisan.gif

 米国は、外国から借金をすることで金を得て、その金で外国の商品を買ってきた。これが原理だ。

 ──

 とすれば、米国の貿易赤字が続いてきた原因もわかる。それは、米国の商品の競争力が弱いからではない。
 仮に米国の商品の競争力が弱いだけなら、米国の貿易赤字がどんどん拡大して、ドル安になるから、米国の商品の競争力は高まり、貿易赤字は減る。かくて貿易収支は均衡するようになる。これが原則だ。
 ではなぜ、ドル安にならないか? トランプ大統領は「日本や中国が為替操作をしているからだ」と思い込んでいるが、実際には為替操作などはしていない。せいぜい、金融政策があるぐらいだが、その効果はたかが知れている。日本が少し円安になるぐらいの効果はあるが、米国に大量の貿易赤字をもたらすような効果はない。

 ではなぜ、米国はドル安にならないか? 先のことを見ればわかる。米国が借金という形で、大量のドルを米国内に呼び込んでいるからだ。このとき、ドル買いが発生して、ドル高になる。

 ここまで考えれば、米国の貿易赤字を縮小する方法もわかる。それは、米国が巨額の借金をやめることだ。換言すれば、巨額の財政赤字をやめることだ。


usa-zaiseiakaji.png


 現実には、財政赤字は巨額のまま維持されている。すると、米国の国債を買う外国政府があるせいで、対外純債務がふくらむ。こうして巨額の金を得ると、その金で、外国の商品を購入する。かくて、貿易赤字が発生する。

 ──

 こういう原理を理解しておけば、冒頭の日本政府の方針が狂っていることがわかる。
 「日本が投資をして、米国の社債を購入して、米国の投資を増やす」
 というのは、一見、よさそうに見えるが、実は、「米国の借金を増やす」という効果があるのだから、実際には、米国の貿易赤字を増やしてしまうのだ。
 この方針は、米国経済を拡大する効果はあるにしても、そのことを通じて、輸入を増やして、貿易赤字をかえって拡大してしまうのだ。つまり、逆効果だ。
 一見、矛盾するように見えるが、これが経済学的な真実なのである。(理解しづらいだろうが。)

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 では、同じようなことでも、「途上国に投資する」というのとは、どう違うか? 
 途上国に投資する場合は、それは通常、「輸出産業への投資」となる。それは次の効果を持つ。
  ・ 当面は、建設資材や設備の購入で、貿易赤字が増える。
  ・ 将来は、輸出産業が稼働して、輸出が増えて、貿易黒字が出る。


 つまり、当面の貿易赤字と、将来の貿易黒字だ。
 では、冒頭の案はどうか? 日本政府の方針は、米国の国内産業の振興のための投資だ。それは輸出産業の振興ではない。したがって貿易黒字を増やす効果はない。その一方で、当面は、金を投入した分、国全体では貿易赤字が増えてしまう。
 というわけで、途上国に投資した場合(輸出産業に投資した場合)とは、事情がまったく異なるわけだ。

 途上国に投資した場合には、産業を振興し、将来の貿易黒字をもたらす。しかし、米高に投資した場合には、当面の貿易赤字の発生だけがあって、将来の貿易黒字をもたらさない。
 ゆえに、冒頭のような投資は、貿易赤字の縮小のためには、逆効果となるだけなのだ。

 一見、矛盾のように見えるが、経済学的には、それが真実なのである。
 
posted by 管理人 at 09:35 | Comment(0) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
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