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これは朝日新聞・金融面コラム「経済気象台」( 2017-09-01 )にあった話。
次の趣旨。
日銀は異次元緩和で、ゼロ金利政策を続けている。
これによって金利はゼロに張りついているが、そのせいで、銀行の収益が伸びない。
かといって、「預金を長期国債で運用する」という手も使えない。長期国債もゼロ同然だからだ。また、仮に長期国債を買えば、あとで金利が上昇したときに、国債価格の下落という莫大な損失が発生するので、やはり長期国債は買いにくい。
結果的に、すべての銀行の収益が悪化している。かくて、国全体の金融システムが弱体化している。
……
たしかに、その通りだ。ちょっと、目からウロコだった。
記事では「金融システムが弱体化している」というふうに記述されているが、これは、下手をすると「金融システムが崩壊しかねない」ということだ。非常にやばい。
[ 付記1 ]
下記の報道がある。
《 企業の内部留保、過去最高406兆円 》
財務省は1日、2016年度の法人企業統計を公表した。企業が得た利益から株主への配当などを差し引いた利益剰余金(金融業、保険業を除く)は前年度よりも約28兆円多い406兆2348億円と、過去最高を更新した。日本の景気は回復基調を続けているが、企業のいわゆる「内部留保」は積み上がっている。
政府はため込んだ内部留保を設備投資や社員の賃金アップなどに使うよう求めているが、企業側は慎重な姿勢を崩していない。16年度の設備投資額は42兆9380億円で、前年度比0.7%増にとどまる。第2次安倍政権が発足した12年度以降、内部留保は約124兆円積み上がった。
( → 朝日新聞 2017-09-01 )
「内部留保」は2016年度末時点で過去最高の406兆2348億円となり、初めて400兆円を超えた。景気回復を背景に企業が資金をため込んでいる実態が浮き彫りとなり、投資や賃上げを求める圧力が一段と強まりそうだ。
内部留保は企業の利益から税金や配当金、役員賞与など社外へ流出する分を差し引いた残りを積み上げたもの。第2次安倍政権発足後の12年度末から増加が続き、5年連続で過去最高を更新した。残高の増加ペースは毎年20兆円以上で、昨年度末は前年度末比7.5%増だった。
内部留保が増加している背景には、好業績に見合った賃上げや投資が控えられている側面がある。法人企業統計によると、設備投資はリーマン・ショック前の水準に戻りつつあるが、直近の17年4〜6月期は季節調整済みで3四半期ぶりにマイナスとなるなど、勢いには陰りが見える。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは「収益に比べて投資の伸びが悪い。400兆円という数字は企業の積極性のなさを象徴している」と指摘する。
出典:時事通信
( → 企業の内部留保、過去最高=初の400兆円台-16年度末:時事ドットコム )
内部留保が積み上がっている理由は、記事に書いてある通りで、「設備投資や社員の賃金アップ」に回さないからだ。
さて。こういう状況であれば、日銀の「ゼロ金利」政策が無効であることも明らかだろう。企業は「金を借りたいから、金利を下げてくれ」と望んでいるのではない。「金が余っているから、金を預金する」と言っているのだ。
こういう状況で「金を貸します、ゼロ金利にします」なんていう政策が、いかに見当違いかは、明らかだろう。
国がやるべきことは、金利を下げることではなくて、投資や消費を増やすことなのだ。そして、そのための唯一の方策は、減税なのである。(それによって消費が拡大し、少し遅れて、投資が拡大する。その後はインフレ・スパイラルとなる。)
なお、内部留保が積み上がっているという状況では、次の方法も有益だ。
「内部留保を強制的に賃金に回す」
これは次のことと同等だ。
「法人前を引き上げて、労働者に減税する」
これが正解なので、「法人税引き下げ」を狙う政府の方針が見当違いであることも明らかだろう。「法人税引き下げ」をすれば、企業は投資や賃上げをするのではなく、単に内部留保の積み上げを増やすだけなのだ。
※ 内部留保については、本項末の 【 関連サイト 】 を参照。
[ 付記2 ]
銀行の収益があまりにも悪化して、本業ではまともに稼げなくなってきている。そのせいで、銀行はサラ金稼業に励むこととなった。というのは、サラ金規制法から銀行は場外されているので、銀行に限ってはサラ金稼業がやり放題だからだ。(サラ金に科せられる限度額が、銀行ははずされている。どんどん高利貸しができる。)
→ 銀行カードローン残高8.6%増 19年ぶり高水準:朝日新聞
→ カードローン、利益優先 厳しいノルマ「利用者考えず」:朝日新聞
→ 銀行は、もはや「消費者金融」になっている
このせいで、消費者が銀行からの高利貸しのせいで、多重債務を負っているケースが増えている。今はまだ大問題となっていないが、今後は続々と自己破産が増えそうだ。
そこで、これを懸念して、あらかじめ銀行のサラ金業務を規制しよう……という動きも出ている。
→ 銀行カードローンの実態調査へ 麻生金融相が表明 :日本経済新聞
→ 銀行カードローンの検査を表明 麻生金融相、過剰貸し付け問題で
→ 銀行カードローン検査 業界側は総量規制に反対 審査「消費者金融に丸投げ」の声も
要するに、日銀がゼロ金利政策という無理をし続けるから、銀行は収益性が悪化し、まともな貸し付け業務ができなくなってしまったので、銀行はやむなく個人向けに高利貸しをするようになった……というわけ。
以前は、銀行も「住宅ローン」や「自動車ローン」のようなまともな貸し付けをしていたのだが、そんな当たり前のことをやっているだけでは首が回らなくなってしまった。そこで、金のないヤクザが非合法の麻薬に手を出すように、金のない銀行は法の抜け穴を突く形で、高利貸しに手を出すようになったのだ。「銀行ならば節度ある貸出をするから安全だ」と思っていたのが、今は「背に腹は替えられない」という銀行ばかりになったので、銀行が高利貸しで儲けるという状況になってしまったのだ。
日銀がゼロ金利政策を取れば取るほど、すごい高利の高利貸しがはびこる……という矛盾。
なぜ? 金のある人は、金を借りずに預金するが、金のない人は、返すアテもないまま高利貸しに頼るしかないからだ。(貸す方も、自己破産を見込んで、高利にするしかない。)
これはもはや、一国の金融システムが異常化している(崩壊しつつある)ということに近い。ゼロ金利という日銀の政策は、日本経済を破壊しつつある。
【 関連サイト 】
「内部留保が溜まっているということは、現金が貯まっているということではない」
というふうに主張するサイトがたくさんある。しかしこれは、半可通であるようだ。会計の解説書を書き写して、それでわかった気になっているだけ、という半素人意見。
真相は下記サイトにある。
→ 「内部留保から賃上げへ」は本当に無理なのか?
趣旨は:
・ 内部留保(利益剰余金)は増えている。
・ 投資は増えるどころか減っている。(重要!)
・ 現金や預金は減っているが、有価証券は増えている。
批判者の言う「内部留保とは現金のことではない」という指摘は正しいのだが、「内部留保のおかげで投資ができる」というのは妥当ではない。
【 追記 】
内部留保についての真相は、こうだ。
「利益剰余金とは、過去の利益の蓄積の総和である。その総和が増えるということは、毎年の利益が貯まっているということである。この金は、本来ならば、全額が投資(設備投資や研究開発)に回るのが、本来の企業活動だ。ところが実際には、投資に回らず、預金(現金・銀行預金・有価証券など)に回る分が出る。その分、金が眠る」
ここでは、問題となっているのは、利益剰余金ではなくて、
Δ = 利益剰余金 − 投資
という額である。これが「眠る金」だ。
この Δ と、利益剰余金が、しばしば混同される。
「内部留保」を、「投資にも賃金にも回らない金」と見なすと、それは Δ のことなのだが、「利益剰余金」と見なすと、それは Δ のことではなく、投資を含む。
「内部留保」を「利益剰余金」と定義するのは、ちょっとまずい感じだ。そのせいで、あちこちでいろいろと批判が生じる。
なお、利益剰余金は、賃金が下がるほど増えるので、「利益剰余金を賃金に回せ」(そうすれば景気は回復する)という主張は正しい。
利益剰余金に対立するのは賃金であって、投資ではない。
「利益剰余金を減らして、賃金に回せ」
という主張は成立するが、
「利益剰余金を減らして、投資に回せ」
という主張は成立しない。
「Δ を減らして、投資に回せ」
という主張は成立する。この Δ を「内部留保」と解釈することはできるが、それは「利益剰余金」ではない。
※ 参考
→ 内部留保とは - コトバンク
※ Wikipedia の「内部留保」は、素人の書いた間違い記事なので、信用してはならない。
クラウドファンディングやら仮想通貨やら、バンカー達はどう見てるのか、興味あります。