◆ 低い賃金は公正か?:  nando ブログ

2019年01月28日

◆ 低い賃金は公正か?

 (非正規雇用などの)下層労働者の賃金は、生活困難なほど低いが、これは公正か? ……という議論がある。

 ──

 このテーマは、私の掲げたテーマではなく、下記で示されたテーマだ。
  → フェアな市場価格(低賃金)で労働者を働かせて大儲けしてる経営者はフェアじゃないのか?
  → はてなブックマーク

 要旨は次の通り。
  ・ 賃金は市場原理で定まるので、低くとも仕方ない。(フェアだ)
  ・ しかし低賃金労働者にとっては感情的に受け入れがたい。
  ・ これを解決するには、差額を国家が補填するしかない。
  ・ その原資は、富裕層への課税強化しかない。

 
 いかにももっともらしいが、これはいかにも素人議論である。ここには経済学の知識が欠落している。
 何が問題かというと、ここで説明する原理が「市場原理」つまり「自由経済における均衡」という「需給曲線」の発想しかないからだ。
 「需給曲線」というのは、中学で学ぶ知識だ。
   → 「価格と需要・供給の関係」のグラフの見方|進研ゼミ中学講座
 上の記事は、この中学生の知識から一歩も進んでいない。これでは経済学の知識が不足しすぎている。
 では、経済学の知識があれば、どうなるか? 以下で解説しよう。

 (1) 不均衡

 需給曲線の発想では、均衡点において「均衡」が実現するはずだ。しかしそれが成立するのであれば、失業者も存在しないはずだし、デフレも発生しないはずだ。(常に均衡するので。)
 しかし現実には、労働市場でも商品市場でも、不均衡というものがある。たとえば、失業者というものが存在する。
 このように「不均衡」というものが現実には成立するのだ。したがって「需給曲線」という発想そのものが不十分なのである。

 (2) 市場の歪み

 では、不均衡が発生する理由は何か? これについては、近年の経済学のテーマとなって、さまざまな仮説が導入された。その多くは、「市場の歪み」を理由とするものだ。つまり、何らかの理由で、市場原理が成立しなくなっている、というわけだ。
 その理由としては、次のようなものがある。
  ・ 情報の不十分さ
  ・ 不完全競争

 詳細は下記で。
  → 泉の波立ち(2002年7月31日)
 ともあれ、このような理由で、市場における均衡が実現しなくなっている。「市場に任せれば自動的に均衡点に到達する」という主張が成立しなくなっているわけだ。
 具体的な例としては、次のようなことがある。
  ・ 雇用条件を明示しない (情報が不十分)
  ・ サビ残を強要する

 こういう形で、いわば水面下で不公正な雇用がなされるので、うまく均衡点に到達できないわけだ。
( ※ その多くは、違法行為である。違法行為がまかり通れば、まともな状況にはならない。)

 (3) 労使関係

 では、どうすれば解決するか? これについては、労使関係の歴史を見るといい。
 労使関係では、昔は労働者が圧倒的に弱くて、奴隷並みの労働を強いられた。19世紀には1日14時間労働で虐待的にこきつかわれていた。
 しかるにマルクス以降、「万国の労働者よ団結せよ」というスローガンの下で、労働運動が盛んになり、労働者は団結した。そのことで、ストライキや団交で経営者と対決し、雇用条件を改善することができるようになった。
 このことは現在の日本でも当てはまる。近年は労働者の労組加入率がどんどん低下して、ストライキもしなくなり、労働者は団結しなくなった。そのせいで雇用条件はどんどん悪化した。
 一方で、堪忍袋の緒が切れた労働者が団結して、雇用条件を改善した例も出た。
  → 東大の有期雇用職員8千人の「5年雇止めルール」を撤廃させた労働組合の力
 労働者が団結すれば、雇用条件を改善することは可能なのだ。その見本がここにある。
 「現在の賃金は市場価格で決まった自然な価格なのだからフェアである」
 なんていう中学生みたいな主張をするぐらいだったら、労組を結成して、経営側と対決するべきなのだ。飼い慣らされた犬みたいに、ハイハイ言っているだけでは駄目なのだ。

( ※ 「労働分配率」が問題となる。現状では、労働分配率がどんどん低下しているので、労働分配率を引き上げるといい。そのためには、労働者が団結するといい。)
( ※ 市場原理は、業者間の競争については説明できるが、業界全体と労働者全体の関係については説明できない。市場原理に任せるだけでは、労働分配率が低下しがちだ。)

 (4) マクロ経済学

 経済学的に言えば、より本質的な核心がある。それは、マクロ経済学的な認識をすればわかる。(市場原理のことしか知らない中学生には理解できないが。)
 そもそも、「下層労働者が低賃金で苦しんでいる」という状況が発生しているのは、先進国では日本だけなのだ。「市場原理ゆえに低賃金は仕方ない」のだとしたら、世界中の国でそうなっているはずだが、諸外国はそうではない。日本だけがこういうひどい状況になっている。
  ※ 「低迷している」というより「悪化している」のが、日本だけ。


 では、なぜか? それは、日本だけが、特別に成長率が低いからだ。
 たとえば、次のグラフがある。(出典:世界のネタ帳)
 

gdp-suii.png

meimoku-gdp.png


 また、次の記事もある。
 環境省によると、02〜15年のGDP成長率(名目)と温室効果ガスの削減率の関係では、英国は 63%成長し 27%削減、ドイツは 61%成長し 13%削減、米国も 64%成長して 8%削減した。一方、日本は 6.5%成長で 4.8%削減と、主要国の中で最も成長できず、CO2削減にも失敗した国になった。
( → 地球環境時代、立ち遅れたわけ:朝日新聞 2019-01-28

 英国、ドイツ、米国はいずれも 6割以上も成長したのに、日本だけは 6.5%しか成長していない。極端に成長率が低い。
 しかも、その間に、貧富の差はどんどん拡大しているから、低所得層では賃金が低下していることになる。
 ま、貧富の差の拡大は、世界中で進行している( → ピケティ)から、日本だけの現象ではない。しかし、成長率の低さは、日本だけの現象なのだ。
 ここに本質がある。日本の下層労働者が低賃金なのは、経済成長の低さ(つまり不況・景気低迷)が真の理由なのだ。ここではマクロ経済学的な認識をするべきなのだ。そして、そこを理解すれば、正しい対策もわかる。こうだ。
 「経済を成長させる。景気を好転させる」

 このようにしたとき、国全体のパイが大きくなる。同時に、人手不足になって、下層労働者の雇用も改善される。
 一方、現実はどうかというと、過去 30年ほど不況が続いて、景気が低迷した。そのとき、問題は下層労働者にしわ寄せされた。解雇されたり、賃下げされたり。……それが「リストラ」というやつだ。
 
 そのあと、この状況を見て、「低賃金は市場原理で決まったから、公正である(フェアである)」というような認識をする人もいる。しかしそれは、中学生の認識なのである。(幼稚な認識)
 人々が低賃金で悩んでいるときには、「フェアかどうか」を問題にするべきではない。むしろ、もっと別の認識をするべきだ。そのことを、以上の (1)〜(4) で説明した。
 
( ※ そのためには、経済学的な見方が必要となる。)



 [ 付記 ]
 「富裕層への課税強化」という対処自体は、悪くはない。
 しかしそれは、事後的な対処だ。いわば、「インフルエンザにかかったあとは、抗インフル剤で治療すればいい」というようなものだ。
 インフルエンザで大切なのは、「インフルエンザにかからないように予防する」ということだ。たとえば、手をよく洗うとか、マスクをするとか、喉を乾燥させないとか、むやみに体温を下げないとか。……そういう本質的な対策こそが最優先だ。そして、それに失敗したときに、ようやく「抗インフル剤で治療」という事後的な措置が出る。

 貧富の格差が開いたあとでは、「富裕層への課税強化」という対処もいいだろう.しかし、より根源的には、「貧富の格差が開かない」という状況に導くことが必要なのだ。
 そのためには、次のようなことが大事である。
  ・ 市場の歪みをなくす
  ・ 労働者が団結する
  ・ 景気を好転させる

 これらが本質的な対処だ。
 逆に、これらを放置して、「市場で決まった賃金だからフェアだ。いくら低賃金でも素直に受け入れます」なんていうふうに屈服しているようでは、認識そのものが狂っているのである。
 格差が開いたあとで課税するよりは、格差が開かないようにすることが大切だ。

( ※ 富裕層に課税するばかりでは、富裕層が逃げ出す。それを避けるために「世界中で手を取り合って」協調的に対策するというのが、元記事の対策だが、しかし、「世界中で手を取り合って」課税するなんて、まるで「世界政府の樹立」みたいな夢物語だ。地球連邦軍の創設でも夢見ているのだろうか。ガンダムの見過ぎ。現実にアニメを適用するべからず。)
( ※ 日本の富裕層が逃げ出す先は、ケイマン諸島ではなく、シンガポールである。ユニクロ社長など、例は多い。これをつぶそうとすると、国家の独立を否定して、強権的で独裁的な世界政府を創設するしかない。「ジーク・ジオン」みたいに唱えて独立しようとするシンガポールを、強権的にたたきつぶす世界連邦軍、というのを実現するわけだ。……それが冒頭記事の主張。アニメ脳だな。実現したければ、まずはガンダムを作らなくちゃ。)



 【 関連項目 】
 最も現実的な対策は何か? 「世界政府みたいに世界的な富裕税」なんかではない。課税強化ではない。むしろ逆に、「減税」を実現することだ。それによって、景気を一挙に回復することだ。
 「景気回復のために巨額減税」
 これこそが現状を好転する唯一の策なのである。
  ※ 景気回復後には、増税して、財政を改善する。

 詳細は下記で。
  → 中和政策 : nando ブログ



 【 関連サイト 】
 上記の政策を公約するバーチャル政党……というのを、下記で示しました。
  → 理想党
  → 理想党の基本概念

 ※ 何でバーチャル正当なんかを導入したのか……というと、政策に整合性を持たせるためです。部分的な単項目の政策ではなく、複数項目の政策を整合させるために、総合的に政策の全体像を示しました。そのため、かなり長くなっています。各項目の記述はごく短いのですが、項目数が多大にのぼっています。
 
posted by 管理人 at 22:55 | Comment(1) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
うーむ

日本の政治家、官僚、経済学者、経営者はみな中2病ということですね。納得しました。

知識だけでなくメンタルも中2レベルに見えます。
Posted by 名無しの通りすがり at 2019年01月31日 15:39
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