◆ MMT(現代貨幣理論):  nando ブログ

2019年04月17日

◆ MMT(現代貨幣理論)

 インフレにならない限り財政赤字を気にしなくてよい――という経済理論がある。「現代金融理論」(MMT)というもの。
 
 ──
 
 これは本日の朝日の記事にあるもの。一部抜粋しよう。
 インフレにならない限り財政赤字を気にしなくてよい――。異端の「現代金融理論」(MMT)をめぐる論争が日米で熱い。「巨額債務を抱えるのにインフレも金利上昇も起きない日本が実例だ」。そう語るMMTの提唱者、米ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授に、日本の経験をどう見るのか聞いた。
 
 ――政府支出の原資を税金で賄う必要はないとの立場ですね。

 
 「税金は政府が収入を得る手段ではありません。自分でドルを発行できる米国政府は、ドルを得るために課税しなくてもいいのです。税金の役割の一つは、政府が経済に注ぎ込むお金の総量を調整し、インフレを抑えることにあります」
 
 ――財政赤字を出して何をするのですか。

 
 「米国も日本も、人材や資源をフル活用できておらず、私たちは実力よりもだいぶ低い生活水準に甘んじています。政府支出を増やせば失業者が経済活動に戻り、生産量も増えます。インフレが怖いからと完全雇用を目指さないなら、失業の経済的・社会的コストはどうなるのでしょう」
 
 ――将来にわたり大丈夫と言えますか。

 
 「超インフレは極めて想像しがたいですね。超インフレが起きたのは戦争やクーデターの場合などで、民主的な政府がお金を大量に刷って完全雇用をめざした場合は起きていません。マネーの過剰ではなく、モノの不足で起きるのです」
( → 異端の経済理論、日米で論争 「日本の債務、全く過大でない」 ニューヨーク州立大・ケルトン教授:朝日新聞写真・図版 ニューヨーク州立大・ケルトン教授

 ググるとわかるが、これについての解説記事はいろいろとある。(批判を含む。)
  → 異端の経済理論「MMT」を恐れてはいけない理由
  → MMTも主流派経済学もどっちもどっちな理由
  → 焦点:財政拡大理論「MMT」、理想の地は日本か
  → 米国で広まる経済理論MMTの危うさ
  → Modern Monetary Theory - Wikipedia

 何やら新しい画期的な説であるようだが、危うさを含んでいるようで、批判もあるようだ。
 では、これをどう評価するか? まったく新しい画期的な理論だとしたら、何らかの良い評価を与えるべきか? 

 ──

 実を言うと、この件は、私が9年前( 2010年)にすでに論じている。朝日の記事では、まったく新しい理論だという感じで紹介されているが、私が出したことの二番煎じ(車輪の再発明)であるにすぎない。しかも、内容は粗雑である。
 以下では、具体的に示そう。

 (1) 基本的な主張は妥当

 「インフレにならない限り財政赤字を気にしなくてよい」

 という基本な主張は、妥当である。
 この意味で、「財政赤字の蓄積が大変だあ」と騒いでいる財務省や主流派経済学は妥当ではない。
 ではなぜ、そう言えるのか? MMT は、結論だけを述べているが、その基本原理は私がすでに示している。こうだ。
 「借金を次の世代にツケ回ししても、次の世代はそのまた次の世代にツケ回しをすることができて、永遠のツケ回しが可能となる」

  → 財政赤字は 若い世代へのツケか? : nando ブログ
 この原理が成立する。こういう形でツケ回しが可能であるから、「借金を未来の世代にツケ回しをしてはいけない」という主張(主流派経済学の主張)は、誤りであるわけだ。また、MMT の主張は正しいわけだ。(基本的には)

 (2) 限界の問題

 問題は、その限界だ。そのツケ回しは、どこまでも無制限に可能であるわけではない。ある程度はツケ回しが可能だが、いくらでも際限なくツケ回しが可能であるわけではない。では、どこまで可能か? それは、
 「インフレにならない限り財政赤字を気にしなくてよい」

 ということの、「インフレにならない限り」というのがどこまで成立するかに依存する。

 実は、この限界については、すでに経済学的に研究済みである。その条件を定めるのが「ドーマーの定理」だ。この件は、先に述べた。
 ドーマーの定理とは、
   名目成長率 > 国債金利

 であれば、財政破綻しない、という経済学の理屈。(長期的な場面で。)
( → ドーマーの定理 : nando ブログ

 今現在であれば、国債金利はゼロ金利である。とすれば、名目成長率がプラスである限りは、いくら借金をしても財政破綻は起こらない、ということになる。
 今後、国債をどんどん増発すると、国債の買い手が少なくなり、国債金利は上昇する。その場合も、国債金利以上の名目成長率があれば、財政破綻は免れるわけだ。
 というわけで、限界についても、すでに定式化されている。
 (本サイトでも説明済みである。)

 (3) ドーマーの定理の限界

 では、ドーマーの定理を信頼して、財政赤字をいっぱい増やしても大丈夫だろうか? いや、そうとは言えない。名目成長率や国債金利の値は、変動するからだ。この変動に対しては、ドーマーの定理は無力なのだ。
 ドーマーの定理では、「 名目成長率 > 国債金利 」と書くときに、名目成長率や国債金利の値は、固定値となっている。つまり、長期的に一定の値を取ると仮定されている。そこが問題だ。
 現実には、名目成長率や国債金利の値は、変動する。そして、その変動に応じて、財政破綻が起こったり起こらなかったりする。これに対しては、ドーマーの定理は無力である。
( → ドーマーの定理の否定 : nando ブログ

 たとえば、調子に乗って財政赤字をどんどん拡大したとする。その後、(原油価格上昇などの外的要因によって)インフレが起こって、物価上昇率が5%を突破する。ところが、名目成長率が5%を上回るとは限らない。
 特に、「富の集中」が起こって、「金持ちが富を独り占めして、労働者は富を得られなくなる」(貧富の格差が拡大する)という状況では、「需要不足」が原因となって、経済が縮小するので、実質成長率が低迷する。物価上昇が起こっても、名目成長率は十分に上昇しないで、経済は縮小する。つまり、インフレでなくスタグフレーションになる。(今の日本は、これと似た状態にある。)
 で、物価上昇率が5%を突破しても、名目成長率が5%を上回らないことがある。こうなると、ドーマーの定理の条件を満たさない。つまり、
  名目成長率 > 国債金利

 という条件が満たされない。かくて、財政は破綻する。
( ※ 上の条件が満たされれば、財政は破綻しない。だが、条件が満たされなければ、財政は破綻する。)

 (4) まとめ

 MMT における「財政赤字を増やしても大丈夫」という主張は、基本的には正しい主張である。(逆に、「財政赤字を増やしては駄目だ。そんなことでは経済は破綻する」という主張は、間違いである。ここでは、主流派が間違いであり、異端の方が正しい。)
 一方で、MMT は、自己の主張の限界を理解していない。「アクセルを踏んでも大丈夫ですよ」というふうに主張するだけであって、「どこまでアクセルを踏んでいいか」という限界を示していない。
 これらの問題を包括的に扱ったのが、私の前出項目だ。
  → 財政赤字は 若い世代へのツケか? : nando ブログ
  → ドーマーの定理 : nando ブログ
  → ドーマーの定理の否定 : nando ブログ

 ──

 なお、簡単に結論を言えば、こうだ。
 「財政赤字を増やしてもいいのは、不況期だけだ。不況期には、低金利(ゼロ金利)の状態だから、財政赤字を増やしても破綻しない。この状態で、財政赤字を増やして、一挙に不況を脱出するべきだ。その後、不況を脱したら、もはや財政赤字を拡大するべきではない。むしろ財政を黒字化するべきだ」

 簡単に言えば、こうなる。
  ・ 不況期には …… 財政赤字を拡大せよ
  ・ 好況期には …… 財政赤字を縮小せよ

 これが正解だ。しかし、現実には、その逆の方策がとられている。不況期の日本では、財政赤字を縮小しようとして、消費税増税という政策が取られる。
 これが間違いであるということを、MMT は主張する。
 ただしそれは、私が9年も前に、いっそう詳細に説明しておいたことだ。

posted by 管理人 at 23:52 | Comment(5) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
つまり、インフレでなくスタグフレーションになる。(今の日本は、これと似た状態にある。)

と書かれていますが、
安倍政権は雇用が380万人増えて失業率は低いと言っています。
これについてはスタグフレーションと言っていいのでしょうか?
また、量的緩和で安倍さんは雇用増だ!と言っていますが、これも本当に量的緩和が効いたのでしょうか?
選挙中ですが、野党はこの点の反論はしてない気がします。
Posted by アレン at 2019年07月07日 02:45
 下記をご覧ください。
  http://blog.monoshirin.com/entry/2019/07/07/000117

 最初のグラフからわかるように、物価上昇と実質賃金低下が、ともに生じています。
Posted by 管理人 at 2019年07月07日 08:19
わざわざありがとうございます。
すぐに理解できました。スタグフレーションですね。
ご紹介のブログで使用されている消費者物価指数は、原油価格が含まれていますが、コアコアCPIだとまた少し違いそうですが。
それでも安倍さんが言っているようにはならないと思います。

しかし、これはヒドイですね…。
高橋洋一氏などリフレ派の人達はこれを見ても、まだアベノミクス成功だと言えるのでしょうかね。
ちょっと意味がわからないです。
一部の人達だけが収入が上がっているのは事実だとしてそれ以外は…。
この明石さんという方のブログに正面切って反論できる人はいるのでしょうか?

質問ついでにもう一点だけお許しを。
安倍さん及び与党議員は、2018年度の税収はバブル期を超えた!と盛んに宣伝しています。
正直これは選挙的には強いです。

企業の内部留保は全て現金ではないですが過去最高ですし、円安基調なので一部上場輸出系大企業を中心に企業収益が改善したのかな?と私は思っているのですが。
管理人様は、この原因は何だと思われますか?
お時間のある時にご回答いただければ有難いです。

Posted by アレン at 2019年07月08日 00:41
 国民の所得を搾取して、企業がボロ儲けをすれば、所得格差が拡大するので、税収が増えるのは当然のことです。

 国民がみんな豊かになって税収が増えることもある(高度成長期がそうだ)が、格差が拡大して税収が拡大することもある(今がそうだ)。

 ──

 現状は、スタグフレーションによく似ているが、GDPの縮小は起こっていない。「格差の拡大」が最適な解釈。
Posted by 管理人 at 2019年07月08日 01:04
>格差が拡大して税収が拡大することもある(今がそうだ)

税収は上がっているのに何故収入が上がらないんだろうと思っている人達の分が、企業・株主に行っているわけですね。

>現状は、スタグフレーションによく似ているが、GDPの縮小は起こっていない。

仰る通りです。
インフレと賃金だけ見ていました^^;
現状GDPは微増ですね…。
これで消費増税とは…ちょっとありえない。
ご回答くださり、ありがとうございます。

Posted by アレン at 2019年07月08日 23:47
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。