◆ 市場原理主義の罠:  nando ブログ

2007年07月03日

◆ 市場原理主義の罠

 物事は何でも市場原理で改善される、という発想がある。
 この発想は、正しいか? 

──

 こういう「市場原理主義」の発想は、次のように書ける。
 「市場原理にすれば、競争と淘汰の原理により、自動的にすべては改善される。だから何でもかんでも、市場原理を導入すればいい」
 この発想のもとで、次のような政策が提唱された。
  1. 国鉄の民営化
  2. 電電公社の民営化
  3. 郵政公社の民営化
  4. 道路公団の民営化
  5. 大学の民営化
 では、その結果は? 政府は「結果はすばらしい」と述べるが、現実には、次のようになっている。
  1. 国鉄の民営化
    • 全体的には改善されたが、JR西日本では尼崎の大列車事故を招いた。これは安全性を無視した利益至上主義に走ったせい。
  2. 電電公社の民営化
    • 企業の収益性は改善されたが、改善されすぎた。ボロ儲けのしすぎ。理由は利用者から高値の料金を取るから。なぜなら二社の寡占体制になったから。国営体制から寡占体制になったせいで、利用者は高い料金を払うハメになった。それを逆に「収益性の改善」と吹聴して喜んでいる。
  3. 郵政公社の半民営化
    • これも同様。民間参入がないので、独占企業が誕生しただけ。おまけに免税されているので、税金の分だけ国民は損をしている。
  4. 道路公団の民営化
    • これも同様。形だけの民営化。相変わらず身内への取引で、実質的に談合が継続している。
  5. 大学の民営化
    • 「経済特区において大学への株式会社参入。これによって教育の効率改善」という触れ込みだったが、LECリーガルマインドは、教授陣を徹底的に手抜きして、それがバレて政府に指導されたあとは、「儲からないからやーめた」と撤退した。( 2007-07-03 )
 以上をまとめれば、こうなる。
 「市場原理により効率の改善
 というのが狙いだった。しかし現実にはそうはならず、
 「市場原理による利益追求。手抜きによるサービス低下 or 企業のボロ儲け」
 というふうになるだけだった。

 実は、「市場原理」を単純にやれば、「質の改善」が起こるのではなくて、「質の悪化」が起こる。なぜなら、「質の改善をめざしても、(無能な自分には)無理だ」とわかれば、「粗悪品を低価格で売る」というふうになるからだ。
 その典型は、例の擬装牛肉だ。インチキ牛肉の食肉業者はどう考えたか? 食肉に品質を良くしようとしたか? いや、逆だった。発覚するまでは、インチキを隠してしまえばいい、と思った。その後、インチキがバレたとしても、処罰されるのは、そのときの担当者だ。もしかしたら自分も処罰されるかもしれないが、とにかく、そのときまでは、ずっと甘い汁を吸える。そういう方針を取った。
 同じことは、NOVA にも言える。金を受け取るだけ受け取って、サービスを提供しない。こうやって、利益を出す。
 どっちみち、「粗悪品を低価格で売る」というふうにして、シェアを増やした。

 要するに、「市場原理で質の改善が起こる」というのは、まったくの幻想である。実際には、「市場原理で質の悪化が起こる」というふうになる。
 その理由は? 「競争で能力が向上する」というのは、まったくの幻想にすぎないからだ。「競争で進化が起こる」という進化論の原理が幻想であるのと同様に、「競争で能力が向上する」ということはない。

 実例を示そう。学校で生徒を競争させる。遊んでいる生徒に対しては、競争させることで、学力の向上が起こるだろう。そこまでは正しい。では、すでに最大限にまで勉強している生徒に対して、さらに無理に競争で尻を叩けば、どうなるか? 睡眠時間を徹底的に削ってまで勉強している生徒に対して、「もっと勉強しろ、さもなくば死刑だ」というふうに無理に競争させれば、どうなるか? 
 「もちろん競争によって学力が向上する」
 というのが、市場原理主義者だ。しかし私は、これを否定する。むしろ、こう考える。
 「すでに努力の最大限にまで勉強している生徒は、さらに尻を叩かれると、インチキをする。カンニングをしたり、ライバルを倒したりする」(真面目にやるだけでは、どうにもならない。たぶん、無理をしたあげく、病気で倒れてしまう。企業で言えば、真面目にやるだけでは倒産してしまう。不況期には、苛酷な競争にさらされたあげく、みんな倒産寸前になる。)
 
 結論。
 競争原理は、万能ではない。
 たとえば、生徒で言えば、決して、「頑張れ、競争しろ」と尻をひっぱたくことではない。そういう「精神棒」みたいな発想は、あまりにも時代錯誤的だ。科学的な発想とは対極的である。……そして、それが、現在の経済政策である。

 では、真の経済政策とは、何か? それは、「競争を高めること」ではなくて、「一人一人の各人が十分に実力を発揮できる環境を整えること」である。
 たとえば、生徒で言えば、机や辞書などの勉学環境を整えることだ。経済政策で言えば、企業が努力することではなく、企業が努力すれば報われるようにすることだ。……つまり、総需要を増やすことだ。(正常水準まで)

 [ 付記 ]
 上記では「民営化の失敗」という例をいくつかの挙した。
 実は、もう一つ、「社保庁の民営化」という失敗例もある。これについては、泉の波立ち(「ニュースと感想」 2007-07-04 b )を参照のこと。
posted by 管理人 at 19:45 | Comment(1) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
郵便局は 大きな銀行で 大きな宅配とか運送で 大きなホテル業で〜すごい 企業ですね。
私は どの企業が 民営化したか わからないJR JT NTT 西友もかなぁ 一部高速道路もかなぁ 名鉄グループ(駐車場多いですねマンションになるのかなぁ フェリー他) 新聞関係もあるのかなぁ。もとは 国の財産 大きな グループ企業ですね。
そういえば ゴミ清掃車も 民営化しましたね。あの仕事 フリーターだと 嫌ですね。公務員なら考えるかなぁ?〜
オリックスのカードも 気になりますね。
ガス 電気 飛行機 もかなぁ 
今の若い子は 電電公社 わかるかなぁ?
Posted by 村石太さん&45歳中年 at 2011年05月01日 20:55
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