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最低賃金はどうあるべきかについて、さまざまな意見がある。
・ (賛成論) 現状は低すぎるから、上げるべきだ。
・ (反対論) やたらと上げると、失業が増えるので逆効果。
前者は、最近、しばしば言われる話。現状では、年収 200万円にも届かないので、これでは人生設計が成り立たない。子供を産んで育てることができない。政府が少子化を推進しているようなものだ。亡国政策である。
後者は、韓国の失敗例を示す。やたらと最低賃金を上げたら、高い賃金を払えないので雇用できなくなる会社が増えすぎた。結局、失業者が激増してしまった。逆効果。
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それとは別に、本日の朝日新聞には、三人の識者がインタビューに答える記事が掲載された。
→ 最低賃金1500円なら「人生に希望」 引き上げの先に:朝日新聞
有料記事なので、普通の人は読めない。私は紙の新聞を購入しているから、紙の新聞で読んだ。
特に目立つ論点は、次の諸点だ。
・ 時給 1500円なら年収 300万円。夫婦で 600万円だから、生活が成り立つ。
・ 高給を払えない中小企業には、国が補助金を出せば大丈夫。(暴論か)
・ 地方では競合が少ないので、賃金相場は過度に下がりがちだ。
その場合は、強引に賃金を上げても倒産しないで済む。
・ 最低賃金で働くのは、主婦のパートや学生のアルバイト。
最賃の引き上げは、フルタイムの貧困層の対策にはならない。
・ 日本の最賃は、平均的フルタイムの4割。他の先進国は5〜6割。
だから日本の最賃はもっと引き上げてもいい。
・ 最賃の対象は一律にせず、細かく区別してもいい。
学生・若者・実習生などは半額ぐらいまで安くしてもいい。
以上のような諸点がある。「なるほど」と思える点もある。劣悪会社には「国が補助金を出す」(社会保障料を免除する)というバカげた暴論もあるが。
※ 非効率な会社に補助金を出すわけだから、国全体ではどんどん劣化する。優勝劣敗の反対で、劣勝優敗にするようなものだ。ダメ会社ばかりが優遇される、というわけ。社会主義的な補償を、人でなく会社に適用する、という暴論。
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さて。以上の話を見た上で、私の考えを述べよう。次のようにしたい。
(1) 地域の格差
最賃について、よく聞かれるのは、次の主張だ。
「地方と東京で賃金の格差が大きくなるのは、好ましくない。だからなるべく、格差をなくして、最賃の額をそろえるべきだ」
しかし、そろえるとしたら、どちらにそろえるのか? 高い方に? 低い方に? あるいは中間に?
仮に中間にするとしたら、東京では最賃の額が大幅に引き下げられて、困窮する労働者が激増しそうだ。一方で、地方では最低賃金の額を払えなくなる会社が続出して、失業者が激増しそうだ。……あっちもこっちも困る。
というわけで、「格差の縮小」というのは、ダメだ。
むしろ、その逆にした方がいい。では、どんな?
(2) 引き上げの原理
最賃を引き上げるとして、「どの地域で」「どのくらいの額を」上げるべきか? これについて、次のように提案したい。
「可能な限りで、最大限の引き上げ」
ここでは「可能な限りで」という条件が付くことで、解雇・失業という問題を避けられる。しかも、その範囲で、最大限の引き上げが可能となる。
では、その数字は、どうやって出すか? それが問題だ。困った。
そこで、困ったときの Openブログ。名案を出そう。こうだ。
「有効求人倍率を見て、それが適正な値(1.2〜1.3倍)になるように、最低賃金を決める」
たとえば、現状では、次のような倍率となっている。( 出典 、出典 )
・ 東京都 2.13倍
・ 広島県 2.06倍
・ 沖縄県 1.18倍
・ 全国平均 1.61倍
東京都や広島県は、倍率が非常に高いので、最賃を現状よりも大幅に引き上げていい。政府は「東京や神奈川などAランクは28円」という引き上げ幅を示したが、むしろ 100円以上の引き上げにした方がいい。東京で 1013円 という数値は低すぎる。半数以上の会社が 1100円以上を呈示している。とすれば、1070〜1100円という最賃にしても、有効求人倍率は 1.2 をかなり上回るはずだ。
一方で、沖縄県は 1.18倍なので、現状以上に最賃を上げると、失業者が増える危険が高い。だから、沖縄県については、最賃をあまり引き上げなくてもいいだろう。(賃金は全国でも最低額だが。)
以上のように、「有効求人倍率を見て、その数値に応じて、最賃をなるべく高く引き上げる」という方式が望ましい。これこそ科学的な方法だ。
( ※ 現状は非科学的な どんぶり勘定だ。)
(3) 倒産の推進
東京のように有効求人倍率の高い地域では、最賃を引き上げた場合、給料を払えなくなって、倒産する企業が出てきそうだ。それは問題ではないのか?
答えよう。問題はない。むしろ、倒産を促進するべきだ。なぜか? (引き上げられた)最賃を払えないような企業は、非効率な劣悪な企業だから、そういう企業はさっさと市場から退場した方がいいのだ。こういう非効率な企業が倒産すれば、そのための設備や人員は、他の効率的な企業で有効利用されることになる。スクラップ・アンド・ビルドだ。それで社会的に「非効率な企業 → 効率的な企業」というふうに、経営リソースが移転する。これこそ望ましいことだ。
だから、最賃を払えないような会社は、どんどん倒産するべきなのだ。それで社会の効率化が進む。
( ※ 安倍首相は「賃上げで失業が増える」と述べたが、有効求人倍率の高い地域では、失業が出てもまったく問題ないわけだ。どうせすぐに再雇用されるからだ。それも、前よりも高い賃金で。……安倍首相がいかに経済音痴であるか、このことからもわかる。)(無知なのではなく、確信犯で嘘をついているのかもしれないが。)
(4) 正社員と非正規雇用
フルタイムの正社員と、短時間雇用のパートタイム労働は、区別した方がいい。(他の識者も述べたように。)
ただしこれは、「パートやアルバイトの賃金を引き下げてもいい」というふうに、パートやアルバイトを推進するという意味ではない。むしろ逆だ。
「パートやアルバイトは、企業の社会保障負担が免除されていることで、企業は実質的に優遇されている。一種の租税免除だ。そのせいで、国の社会保障費用が増えてしまう。(低賃金労働者に対する社会保障費用が増えてしまう。たとえば生活保護費など。)
そこで、パートやアルバイトについては、企業の社会保障負担が免除されるのをやめる」
つまり、パートやアルバイトについても、社会保障負担の分をきっちりと払ってもらう。それも、少なめではなく、多めに払ってもらう。(低賃金労働者を雇用することで、不当に利益を上げた末、将来の社会保障負担を国に押しつけるのだから、当然だろう。)
同様に、非正規雇用(期間労働者など)についても、「失業保険料を大幅に上げる」というふうに、企業負担を増やす。(非正規雇用は、首を切られやすくて、失業手当をもらう機会が多いのだから、失業保険の雇用者負担を大幅に上げるのが当然だろう。月3万円ぐらいの負担増にするべきだ。)
このようにして、「非正規雇用に対する、企業の社会保障負担の免除・減額」という現制度を是正すれば、非正規雇用をすることのメリットが減るので、非正規雇用は自然に減っていく。一石二鳥となる。(国の財源が増えて、国民の所得が増える。)
以上が、私の提案だ。
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ただし、例外的措置として、次の二点を認める。
(i)高齢者の例外
高齢者については、例外的に低賃金で雇用することを認めていい。最賃制の額から一律で 100〜200円を引いてもいいだろう。高齢者はもともと雇用機会が少ないし、失業率も高いので、最賃制の例外として、高齢者の雇用を推進してもいい。たとえば、コンビニやスーパーのレジ係に、高齢者を雇用することを促進する。
(ii) 都市部・非都市部の区別
都市部・非都市部では、100円ぐらいの差を設定してもいい。たとえば、
・ 東京で、23区とそれ以外。
・ 神奈川で、横浜・川崎とそれ以外。
一般的には、県の中心部である市(特に政令指定都市)では、都市部の扱いで、他の地域よりも 100円ぐらい高い値に設定してもいい。その方が妥当だろう。
現状では、両者が同一扱いなので、低い方の非都市部に引きずられる形で、最賃の額が低くなっている。そのせいで、都市部では最賃の額が異常に低くなりすぎている。そういう問題を解決したい。
[ 付記1 ]
地域の格差については、「あってもかまわない」と考えていいだろう。というのは、「それが不満ならば、いくらでも引っ越せる」からだ。「地方は給料が安くて不公平だ」と思って不満になるのなら、さっさと都会に出て高給をもらえばいい。その自由はあるのだ。
なのに、実際には田舎暮らしをする人が多い。それは、「都会暮らしよりも田舎暮らしの方がいい」と思うからだろう。「満員電車はイヤだ。家賃が高いのもイヤだ。物価が高いのもイヤだ」なんて思って、「田舎暮らしはいいな」と思う人が多い。それなら、その分、給料が安くても仕方ないのだ。そこは本人の選択である。
ちなみに、沖縄の給料が極端に安いのに、沖縄から出て行かない人が多いのは、「気候が温暖で過ごしやすい」「のんびり暮らしても生きていける」というメリットがあるからだろう。たとえ給料が安くても、怠け者には極楽の地だ。東京みたいに労働に追い立てられる地域は、給料がいくらか高くても、すごく暮らしにくく思えるのだろう。だったら、給料が安いのも受け入れればいい。それは本人が自分で選択することだ。
ここで、沖縄の最賃を大幅に上げれば、怠け者の人々にとって住む場所がなくなってしまう。それではかえって人々を不幸にする。
「何が何でも給料は高い方がいい」
というのは、都会人の発想であり、一種の驕りである。「世の中万事金だけだ」というような。一方、地方にはそれとは別の人生方針をもつ人々も多い。たとえば、「Dr.コトー」というテレビドラマを見ると、そのことが実感できる。(離島でのんびり暮らす人々の話。財布は薄いが、人情は厚い。)
( ※ 「外国では最賃は全国一律の額であることが多い」と朝日の記事にある。しかし、それは日本には適用しがたい。日本は「南北に細長い国で、地域差が大きい」「中央と地方との差が大きい」という状況があるからだ。「国土が小さくて平地ばかり」「地域格差が少ない」というような欧州の国と比較しても意味がない。下図参照。)

出典:truesize
[ 付記2 ]
そもそも、物事の根本は、次のことだ。
「国全体の労働分配率が低下している。止めるものはますます富み、貧しいものはますます貧しくなる」
こういう現状を是正することが大事なのだ。その一環が、「非正規雇用を正規雇用にすること」である。最賃の引き上げよりは、こちらの方が重要かつ有効であろう。
なお、労働分配率が低下していることは、各種指標で明らかだ。
→ 労働分配率が低下 - Google 検索
家計の貯蓄率が低下して、企業の貯蓄率(内部留保)が上昇している……というデータもある。
→ 家計の貯蓄率が低下
→ 企業の内部留保は激増
マクロ的にはこういう問題を是正することが核心となる。そのための具体策は、いろいろと細かな手段が考えられるが、その根源にはこういう問題があるのだ、ということを理解しよう。それこそが本質だからだ。
企業の社会保険料負担分が人頭税という形になっていて、時短やワークシェアリングがしにくい。企業の社会保険料負担分を法人税増税であがなうべき
との趣旨のものがありましたが、法人税を上げれば、その分社会保険料の企業負担分の引き上げ幅が少なくなるという理解でよろしいですか?
どのような制度にするのかという細かな話になりますが。
それ、言ったと思うけど、出典が見出せません。どこで言ったっけ?
「あがなう」を「まかなう」に変えれば、その通りです。
「法人税を上げた分、社会保険料の企業負担分を引き下げる」
という理解で十分です。
なお、企業負担の総枠を増やすということは、本項の話とは別の話題となる。それはそれで、また一つの話題。