◆ 潜在的な思考:  nando ブログ

2020年07月19日

◆ 潜在的な思考

 明晰な論理的な思考の前に、潜在的な漠然とした思考というものがある。
 
 ──

 これは、将棋の藤井聡太(棋聖)が語った話が元となっている。

 話の発端は、これだ。
  → 藤井聡太は『頭の中に将棋盤』が無いらしい…行方八段もドン引き「筆算無しで答え出せるみたいな?」「常識が崩れた」 - Togetter

 これを不思議に思っている人が多いようだが、本人の解説がある。
 「詰将棋の場合、見た瞬間に解けることがあります。意識的な思考を始める前に、バックグラウンドというのか、そこで既に読んでいて、ひらめきにつながるのかなと」
( → 朝日新聞

 似た話は、下記にもある。
  → 叡王戦の棋士インタビューで、「わかる!」と共感した藤井聡太七段らの思考法(遠山雄亮)
 
 わかりやすく言うと、明白に駒を動かして試行錯誤するのではなく、駒を動かさないまま漠然と可能性を多様に考える。

 以上の話は、昨日の Openブログでも記した。
  → 藤井聡太の特徴(将棋)2

 ──

 さて。本項ではもうちょっと踏み込んだ話をしよう。
 「駒を動かさないまま漠然と可能性を多様に考える」
 とはどういうことか? 

 それは、こうだ。
 「駒を動かすという明晰で論理的な思考をするかわりに、さまざまな経路を漠然と多様に試行錯誤して、その中から正解となる一つを一挙に探し当てる」

 これは、ちょっと量子コンピュータに似ている。
 通常のコンピュータは、1ステップごとの計算をして、その計算を何百万回や何千万回も遂行することで、人間の思考(計算過程)と同等の結果に到達する。
 量子コンピュータは、1度に多様な計算を同時になして、それらの計算のうち、正解となる計算経路をひとつだけ選び出す。
(たとえば巡回セールスマン問題で、さまざまな経路を同時に調べて、最小の経路となるものを一つだけ選び出す。)
 
 潜在的な思考というのも、量子コンピュータと同様に、さまざまな可能性のある経路を同時に探索する。ただし、量子コンピュータの計算経路と違って、潜在的思考の思考過程は漠然としたものである。本人も自分が何を考えているか理解できていない状況だ。そしてあるとき突然、正解が急に閃くのである。ほとんど天下り的に。
 
 ──

 では、潜在的な思考とは、どういうものか? 次の二点で示せると思う。

 (1) 漠然

 潜在的な思考は、漠然としている。換言すれば、それは、明晰な記号を用いない。
 たとえば、通常の論理的思考で用いるような「言葉」(文字・音声)を用いない。「言葉」(文字・音声)を用いれば、思考は明晰になるが、同時に、思考は限定される。そこで、言葉を用いない思考をする。
 また、たとえば、将棋の駒を用いない。将棋の駒を用いれば、頭のなかで、盤面上の駒を一つ一つ動かしたりするが、そういうことはしない。あくまで顔面全体を漠然と眺めながら、将来の経路を漠然と予想する試行錯誤を、漠然とした思考でなすのである。
 ここでは、「漠然としている」というのと、「記号を用いない」というのが、ほぼ同義のこととなっている。

 (2) 意識下

 潜在的な思考は、意識下の思考(意識されない思考)である。自分が何を考えているかを、自分自身でもよく理解できていないような思考である。
 ※ 記号を使う思考では、そんなことはないが。

 このことを理解するための有力な原理が知られている。次のことだ。
 「人は何かを考えるとき、考えると同時にその脳細胞の電位が上がる、と思われている。しかし実は違う」


 たとえば、「偶数」という言葉を考えると同時に「偶数」に対応する脳細胞の電位が上がる、と思われている。しかし事実は違う。人が「偶数」という言葉を考える直前(時間的にはミリ秒単位の直前)において、「偶数」に対応する脳細胞の電位が微小に上がる。その後、人が「偶数」という言葉を思い浮かべたときに、「偶数」に対応する脳細胞の電位がはっきりと上がる。このとき、人が「偶数」という言葉を考えたことが生理的に確認される。

 これは何を意味するか? 実験した生理学者は、次のように考えた。
 「人の思考と脳細胞の活動が同等であるということはない。人の思考に先だって、脳細胞の活動があるのだ。脳細胞の活動(微小な活動)が先にあって、人の思考は、それを後追いしているにすぎない。人間の思考というものは、最高レベルのものではなくて、脳細胞の勝手な活動のあとに、遅れて生じるような、従属的なものなのである」

 しかし私はそういう解釈を取らない。かわりに、次の解釈を取る。
 「人の思考の前には、潜在的な思考というものがある。潜在的な思考においては、いくつかの経路が同時に微小に活動する。ただし、それらのうち、大部分の経路はすぐに否定されて、ただ一つの正しい経路だけが残る。その残った経路が、正式に採用されて、正式に活動して、電位が上がる。このとき、ただ一つの明晰な思考が生じる」
 
 具体的に言おう。
 私はいま、この文章を書いている。この文章を書いているときには、ある単語のあとに来る単語を考慮する。そのとき、ただ一つの単語を考慮するのではなく、複数の単語をいくつか可能性として候補に挙げる。それらの候補のうち、ただ一つだけが残されて、潜在的な思考から、明晰な思考へと、格上げされる。このとき、ただ一つの単語が、語るべき単語として(キーボードで)打鍵される」

 たとえば、「具体的に」という言葉を書いたときに、次に来る言葉はいくつか候補となる。「言おう/言う/示そう/書こう」などのの候補が暗黙裏に考えられている。そのうち、「言おう」という候補が選択され、確定する。すると、「具体的に」という言葉のあとに、「言おう」という言葉が打鍵される。
 ここでは、「言おう/言う/示そう/書こう」などのの候補は、はっきりと明晰に頭のなかに思い浮かんでいるわけではない。漠然と考えられ、本人にも意識されていない。本人はただ漠然と考えているだけである。そして、そのうち突然、ただ一つの言葉が選択されて、はっきりとした言葉とともに頭に思い浮かぶのである。……これがつまり、

   潜在的思考  →  明晰な思考


 という過程だ。
 そして、その過程が生じるまでは、潜在的思考があれこれと漠然と考えられているのである。
( ※ 適切な言葉がすぐい思い浮かばないまま、漠然とした思考状態がしばらく続くこともある。)

 ──

 以上のことから、「思考とは何か?」について、次のように結論できる。
 「思考とは、潜在的思考における一つ以上の候補のなかから、唯一の候補を選択することである」
 「この際、潜在的思考においては、多様な試行錯誤がされている」


 ここから、次のように言える。
  ・ 潜在的思考における候補の数が多いほど、思考レベルが高い。
  ・ 潜在的思考における候補の範囲が広いほど、思考レベルが高い。

 
 さらに、次のように言えるだろう。
 「高レベルの思考をするには、高い脳力が必要である」
 「高レベルの思考をすると、潜在的思考は、広い範囲で多様な思考をすることになるので、非常に疲れる」


 ──

 話を戻そう。
 通常の人なら、高レベルの思考をしない。潜在的な思考をしても、頭に浮かぶ候補は一つだけである。その一つを追うだけなので、思考はありふれた思考になるだけだ。
 藤井なら、高レベルの思考をする。潜在的な思考をしているときには、広い範囲で多様な候補を取り入れて、潜在的に試行錯誤する。さらには、1段階先を考えるだけでなく、2段階先、3段階先……というふうにずっと先の方まで、潜在的思考で候補を試行錯誤する。そういう形で、常人には思い浮かばないような広くて深い範囲で、さまざまな候補を試行錯誤している。

 ここで、注意。
 藤井のような能力を測るのに、「6億手まで読む」とか、「1秒に1億回も読むコンピュータのようなものだ」とか、数によって能力を測ろうとする見方がある。しかし、それは適切ではない。それは、通常の計算機能力を測定する発想であって、人間の思考を見るには適していない。
 藤井の能力は、計算機の「明確な思考の回数の速さ」にあるのではなく、量子コンピュータのような「暗黙裏の多様さ」にあるのだ。
 ここでは「潜在的な思考」こそが何よりも大切なのである。(明晰な論理的な思考ではなくて。)



 [ 付記 ]
 潜在的な思考のうちで、複数の候補があるとき、ただ一つのものが選ばれる。この際、不適切な候補は「これはダメだ」という直感が働いて、拒否される。
 これは一種の「エラー検出機構」である。この機構があるのが、人間の思考の独自性だとも言える。頭のいい人ほど、この機構がうまく働く。
 たとえば、たいていの人が「これでいいよ」と思っているときに、頭のいい人が、「いや、これはダメだ」と感じて、駄目出しをする。そのとき、彼の唱える話は、思いもよらぬ視点からの話だ。彼の脳は、普通の人にはできないような「エラー検出」の働きをなしている。
 この「エラー検出」の機能は、彼の長い思考経験の産物であるので、どうしてそういうふうに思いついたのかは、彼自身でも説明できない。
 ただ、羽生や藤井のような人だと、この機能が発達しているので、一目見ただけでも、ダメな手は「ダメだ」と判定できる。

posted by 管理人 at 23:59 | Comment(0) | 思考法 このエントリーをはてなブックマークに追加 
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