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麻薬組織
どっちが勝った負けたか、というようなことはさておき、最も重要なことがある。それは
「タリバンは麻薬組織だ」
ということだ。
この件は、前に詳しく論述した。
→ アフガン撤退と麻薬 : nando ブログ
一部抜粋。
そもそもタリバーンはどうしてアフガン政府をしのぐほどの強力な軍を維持できるのか? 莫大な麻薬収入があるからだ。
アヘンの生産量が全世界の87% にものぼる。年ごとに若干の変動があるが、およそ9割程度がタリバーンによるのだ。「タリバーン = 麻薬組織」と言ってもいい。だからこそ、莫大な資金力によって、アフガン政府をしのぐ軍事力を備えるわけだ。
別途、次の記事もある。
タリバン(Taliban)は……戦火で荒廃した同国のヘロイン生産に支配的影響力を及ぼしているとみられ、反政府活動の資金源としているという。
世界のアヘンの80%が生産されているアフガニスタンでは昨年、約4800トンのアヘンが生産され、30億ドル(約3300億円)相当の収入がもたらされた。ケシは安く簡単に栽培でき、アフガニスタンの農産物全体の半分を占めている。
タリバンは長年、反政府活動の資金源として支配地域のケシ栽培農家から徴税してきたが、最近では自らの工場を運営し、採取したケシの乳液を精製して輸出用のモルヒネやヘロインを生産している。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、昨年のタリバンの収入の半分はアヘンの生産によってもたらされたとみている。アフガニスタン内務省麻薬対策局の報道官は「タリバンは戦闘態勢を維持し、銃を買うためにさらに資金を必要としている。だから麻薬生産工場を運営するようになった」と説明している。
( → ケシからヘロインへ、タリバンが麻薬の生産に進出 アフガニスタン 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News )
戦争の勝敗
普通の戦争(内戦)ならば、「どっちが勝ったか」ということだけを論じていればいい。どっちが勝ったにせよ、ただの政治的な争いであるにすぎない。歴史上では無数にある類例の一つであるにすぎない。
しかし今回は違う。歴史上に類のないことだ。なぜなら、タリバンの本質は麻薬組織であるからだ。この場合には、「麻薬組織 対 一般」という形になる。そして、麻薬組織であるタリバンが戦争に勝ったということは、世界が麻薬組織に負けたということだ。
今回の戦いを見て、「遠い中東の出来事だな。自分には関係ないな」と思っている人が多いようだが、とんでもない。これは「世界において麻薬組織が勝った」ということだから、「世界が麻薬組織に侵食される」ということでもある。
世界各国が「麻薬撲滅!」を目標に行動しているのだとしたら、今回の敗北は、その目標達成が大いに損なわれたことを意味する。「挫折した」と言ってもいい。「屈服した」と言ってもいい。
「麻薬なんて日本には来ないだろう」と思っている人も多いだろうが、実は、すでに次のような例がある。
成宮寛貴 伊勢谷友介 ピエール瀧 清原和博 酒井法子 沢尻エリカ
こういう例があるのだから、麻薬は決して遠い世界のことではないのだ。下手をすれば、あなたもいつのまにか、知らないうちに麻薬を打たれて、ヤク中にされてしまうかもしれないのだ。
ゲリラ戦
今回の勝敗で、不思議に思えるのは、圧倒的に武器では優れていた米軍やアフガニスタン政府軍が、武器の貧弱なタリバンに負けてしまったことだ。
近代の戦争では、「最先端の武器を持つ方が勝つ」というのが常識だ。なのに、最新鋭のステルス戦闘機や戦車を持つ米軍が、ただの歩兵であるタリバンにあっさり負けてしまった。それはなぜか?
その理由として最も有力なのは、これがゲリラ戦であったということだ。国と国との戦いとは違って、同じ国のなかで陣取り合戦をする。そのとき、ゲリラの側は神出鬼没で、民衆のなかに紛れてしまう。便衣兵だ。
こういうゲリラを相手にして、「ゲリラを撲滅する」というのは、最新兵器の出番にはならないし、最新兵器のある方が有利だともならない。
ゲリラを相手にするときには、ステルス戦闘機や戦車のような最新兵器を使うよりは、兵士のレベルで優れた兵士を用意することの方が決定的に重要となる。
※ そのとき、ケブラー繊維の兵服のようなものがあれば、用具の点では優位に立てる。しかしそれは、ステルス機のようなハイテク兵器とはまったく別レベルのものだ。
弱い兵士
軍には優れた兵士が必要だ。(上記)
しかし現実には、(米軍はともかく)アフガニスタン政府軍には、優れた兵士はいなかった。志気も意欲もなく、軟弱な兵士がいるばかりだった。
次の記事に記してある通り。
米国が育てたはずのアフガン政府軍は、米軍がいなければ戦う意志すら感じさせなかった。20年間、米国が主唱してきた民主的な理念は、米軍の強大な軍事力がなければ崩れ去るもろいものだった。
( → 安保理が緊急会合 タリバーンへの制裁模索か アフガン政権崩壊:朝日新聞 )
これはどうしてかというと、特に政府軍だけが愚鈍だっただけでない。アフガニスタン政府のすべてが愚鈍だったのだ。政府がまとも機能していなかったと言える。国家組織そのものが、ろくに機能していなかったのだから、軍もまた、推して知るべしとなる。
民主主義の失敗
政府がまとも機能していなかったのは、どうしてか? そのことは、次の記事から窺える。
アフガニスタンのガニ大統領が、車4台とヘリコプターに現金を詰め込んで同国を脱出した。
( → 車4台とヘリに現金詰め込む? 国外脱出のアフガン大統領:時事ドットコム )
大統領そのものが、こういうふうに「私腹を肥やすこと」ばかりを目的とする人物だったのだ。
というか、こういうふうに「私腹を肥やすこと」ばかりを目的とする人物が大統領に選出されてしまったのだ。
ガニ大統領の政権基盤は、2014年の発足当初からぐらついていた。米国の支援で大統領選を2度競り勝ったが、政敵と溝が深まり内政がまひ。意に沿わぬ閣僚を次々と更迭した。汚職を排除できず、国際援助が賄賂となって消えた。
政府高官によると、ガニ氏と米特使が執務室で怒鳴り合い、米特使が「タリバーンの方がよほど話が通じる」と憤激した場面もあったという。
米国はかたくななガニ氏を、半ば見捨てるような形で米軍撤退を進めた。国内で政権を支える機運はしぼみ、州知事や長老は政権の存続より、衝突の回避を優先してタリバーンに従った。
国外脱出に追い込まれたガニ氏への同情の声は少ない。ガニ氏が失脚するや、政敵たちが次々に非難する声明を出した。利害が複雑な多民族国家を、ガニ氏は束ねることができなかった。
( → 同情少ないガニ大統領 複雑な多民族国家を束ねられず :朝日新聞 )
こういう人物が大統領に選出されたのは、どうしてか? 政治制度の欠陥があると言える。そして、政治制度とは、民主主義のことだ。
つまり、民主主義という制度だと、混乱状態にある途上国では愚かなリーダーしか得られないのだ。先進国である日本ですら、民主主義では菅首相という最悪の首相が選出されてしまう。いわんや、途上国をや。
アフガニスタンで、戦時の危機において、最悪の人物が大統領に選出されたのは、民主主義では避けがたいことだったとも言える。
※ では、どうすればよかったか? 最善の策は、国連または米国から、最高権力者を派遣することだった。いわば戦後日本における、占領軍のマッカーサー元帥のような人物だ。
※ 戦後日本は、最初は自主的な民主化をなそうとしたが、その手法があまりにも旧態依然で守旧的であるので、占領軍の側から、民主化のプランが天下り的に下りてきた。これに基づいて何とか、日本側が自主的に民主化のプランを出すことができた。日本人だけでは決してできなかったことが、占領軍の天下り的な方針を受け入れることで、かろうじて可能となった。
イラン
アフガニスタン内部の話は以上で終えることにして、アフガニスタン外部の話を述べよう。
アフガニスタンの西側には、イランがある。このイランとの関係が、非常に大きな影響を及ぼした。
米国がイランと対立する以前には、イランはタリバンと敵対していたのだが、米国がイランと対立するようになると、イランはタリバンを援助するようになった。
イランはタリバーンが活動を始めた1994年からしばらく敵対していた。
米同時多発テロの後は、国際テロ組織アルカイダをかくまっていたタリバーン勢力の居場所について、空爆を進める米国に情報を提供していたとされる。
だが、当時のブッシュ大統領がイランを「悪の枢軸」と名指ししたことで、米イランが対立関係に戻ると、イランは対タリバーンの姿勢を転換させた。
米政府によると、コッズ部隊は遅くとも06年には、タリバーンに武器や金銭の供与を始め、アフガニスタンに駐留する米軍への攻撃を支援してきたという。
イランでは米国の「対テロ戦争」でタリバーン政権とイラクのフセイン政権が崩壊するのを目の当たりにし、「次は自分たちだ」という脅威が広まっていた。
イランはタリバーンと政治レベルの交流も続けてきた。今年7月にはテヘランで、アフガニスタンの政府側とタリバーンの代表団を招き、会合の場を取り持った。
( → イラン、隣国アフガン情勢を注視 タリバーンの動き警戒:朝日新聞 )
これは非常に重要なことだ。
トランプ大統領は、イランを敵視する政策を取ったが、そのことが逆に、タリバンの伸長をもたらした。イランを敵視すればするほど、(イランの助けを受けて)タリバンは勢力を伸ばしていった。
バイデン大統領は、トランプ大統領のイラン敵視政策を改めるかと思えたが、そうせずに、トランプ大統領のイラン敵視政策を引き継いだ。そのせいで、タリバンはやはり勢力を伸ばしていった。
どちらの大統領も、イランを敵視する政策を取ることで、自分の手でタリバンを成長させていった。米国は自分自身がタリバンを成長させていったのだ。
だが、話がそれで終われば、まだいい方だ。先のイランの大統領選挙(6月20日)では、保守・強硬派の候補が大統領に当選した。これによってイランはますます米国に敵対する政策を取るようになる。このままでは核武装に邁進しかねない。
さらにはもっと恐ろしい未来が待ち受けている。
トルコ ━ イラン ━ アフガン ━ ウイグル(中国)
というふうにつながるルート(一帯一路)ができそうなのだ。
こうなると、もはや、中国が世界の覇権を握りかねない。その恐れは、次の記事で懸念されている。
アフガニスタンが中国寄りのタリバンによって支配されれば、アフガニスタンは完全に中国に取り込まれて、以下の地図のように「一帯一路」構想の中に入っていくことだろう。
( → タリバンが米中の力関係を逆転させる|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト )
下手をすれば、イランとタリバンと中国が連帯して、悪魔合体のような感じになって、米国や西側社会と対立しかねない。
そして、それを引き起こしたのは、ほかでもない、米国そのものがイラン敵視政策を取ったからなのである。
イランのソレイマニ司令官殺害というテロ行為(イスラエル犯人説が濃厚)をあえて放置して、「敵のテロは許さないが、味方(イスラエル)のテロはやり放題」という方針を取った。それが、回り回って、タリバンの成長をもたらした。米国に自分勝手な政策そのものが、米国を滅ぼそうとしているのだ。
アフガンのテロ勢力の根源
そもそも、アフガンのテロ勢力というものが生まれたのは、米国そのものの政策が発端だった。
ソ連がアフガニスタンを侵攻したとき、ソ連を敵視する政策を取った米国が、アフガニスタンのゲリラ勢力を援助した。これがアフタニスタンのテロ勢力の発端である。この系譜がアルカイーダに連なる。
→ 戦争と平和の理論 : nando ブログ 【 追記1 】
とすれば、アルカイーダという鬼子を生み出したものは、米国自身の身勝手な政策(反ロシア政策)であった、と言える。
そのアルカイーダとタリバンが親密な関係を持って、今回のアフガン崩壊という結果につながったのだ。(タリバンそのものがテロ勢力の一派だとも言える。)
※ アルカイーダとタリバンの関係については、下記を参照。
→ 依然として続くタリバンとアルカイダの関係
[ 付記 ]
米国のバイデン大統領は、「米軍のアフガン撤退は正しい」と自己正当化をしている。
→ バイデン大統領が演説 アフガニスタンからの撤退の正当性強調 | NHK
だが、その前に、自分の過ちを認識することが先決だ。
【 関連項目 】
次項、次々項に続編があります。
→ アフガン政府軍の無力さ : nando ブログ (次項)