◆ 米国の金融政策とインフレ:  nando ブログ

2021年12月26日

◆ 米国の金融政策とインフレ

 米国では金融政策を変更して、ゼロ金利政策を脱したが、米国は「日本化」の恐れがなくなったのか?

 ――

 朝日新聞の経済記事で、興味深い話題があった。
 米国は金融政策を変更したが、それはどういう意味をもつのか、という疑問がある。デフレの恐れはもうなくなったのか? インフレを恐れなくていいのか? ……というような疑問だ。

 記事の要旨は、次の通り。
  ・ 米国は長らく「日本化」(低成長化)を恐れてきた。
  ・ そこで量的緩和政策を取り続けた。
  ・ しかし秋頃から量的緩和政策を脱した。
  ・ 「インフレのリスクを過小評価したのでは?」と記者は考えた。
  ・ 経済学者が「インフレの危機がある」と警鐘を鳴らした。
  ・ FRBはデフレよりもインフレを敵と見定めた。
  ・ FRBは来春からゼロ金利を解除する。(利上げ)
  ・ 「日本化」の恐れはなくなったように見える。
  ・ だが、一方で、経済格差の問題がある。
  ・ 富裕層に富が集中する経済格差はいっそう悪化した。
  ・ そのせいで、富裕層の富は貯蓄に回るので、成長の阻害となる。
  ・ ただし当面は、非富裕層が借金して、消費を増やすので、大丈夫だ。
  ・ しかし借金による経済成長は、長続きするものではない。
  ・ ここで利上げすると、状況は悪化するだろう。
  ・ この問題を解決するには、金融政策以外の方法が必要だ。
  ・ 格差是正のために、富裕層への課税強化が必要だ。
  ・ ただしそれは時間がかかるので、当面の景気対策には間に合わない。


 ――

 記事の言っていることは、かなり込み入っていて、論旨がわかりにくいところもある。とはいえ、話の対象は興味深い。なかなか面白い話題を扱っている。
 ただ、一点、次の話はおかしい。
 「インフレのリスクを過小評価したのでは?」
 これは記者の疑問だが、話は逆だろう。米国が利上げを決めた時点で、それに文句を付けるのなら、「インフレのリスクを過小評価している」というのは、話が逆である。「インフレのリスクを過小評価している」というのは、利上げしないと決めたときに言う文句である。利上げすると決めたときに言う文句ではない。話が逆だ。
 実際、いまだに低成長が続いている状況で、ちょっとぐらい物価が上昇したからといって、金利を上げるというのは、かなり危ない政策だ。利上げすることで、ふたたび低成長の罠に落ち込んでしまうかもしれない。
 ま、すぐにはそうはならないだろうが、利上げの幅が課題ならば、そうなる可能性もある。今はコロナで供給が絞られているせいで、インフレ懸念があるが、コロナ収束で供給が回復すれば、たちまち供給過剰で値下げが起こってデフレになる可能性もある。
 記者の心配は、心配する方向が逆だと言えるだろう。

 とはいえ、それはどうでもいいことだ。記者の勇み足ということではなしは済む。肝心の話は、別にある。

 ――

 この記事の疑問で最も大切なことは、次のことだ。
 「米国の問題(病理)は、格差の拡大だ。これを是正するには、どうしたらいいか? 記事では、富裕層への課税強化(所得税・資産課税の強化)が例示されていたが、その方法には限界があるとも示されていた。では、どうすればいいのか?」

 困った。どうする?
 そこで、本サイトなりに、きちんとした対策を示そう。

 ――

 まず、ヒントとなるのは、次のことだ。
 《 バイト時給1800円も 都心の居酒屋、人手争奪戦: 》
 年末年始の需要期にある居酒屋がアルバイト確保を急いでいる。時給を引き上げる動きが相次ぎ、東京都心では夜間時給が1800円台に上昇する例も出ている。
 「銀座コリドー店」(東京・中央)ではフルタイム勤務の場合、12月中の時給は1500円以上。労働基準法に基づいて深夜手当がつく午後10時以降、同店では1800円を超える。
( → 日本経済新聞

 コロナで人材が流出したせいで、解雇した分を補う人員を確保しようとしても、なかなか集まらないそうだ。ふたたびコロナで解雇されることを恐れているらしく、コンビニなどに流出した人員が戻ってこないそうだ。そのせいで時給がどんどん高くなっているようだ。

 さて。このことがヒントになる。
 人員不足になると、雇用を確保するために、企業は否応なしに賃金を上げざるを得なくなる。そのせいで、労働者の賃金がどんどん上昇する。これはつまり、「経済格差が縮小する」ということだ。

 実は、本サイトでは、先にこう述べた。
 賃上げを実現するための王道は、国による補助金ではない。市場原理による需給の調整だ。そこにおいては、価格を上げるためには、「需要増加」か「供給縮小」か、どちらかが必要である。
 そして、今の日本において必要なのは、労働における「供給の縮小」である。
 日本人男性の労働時間は傑出して多い。このような労働時間を削減することこそが、喫緊の要請となる。
 そして、それが実現すれば、労働時間の減少によって、労働の供給が減少するので、市場原理によって、労働の価格(つまり賃金)は上昇する。
 つまり、政府が1円も補助金を出さずに、(市場原理を通じて) 賃上げが実現するのだ。
( → 賃上げ減税は有効か?: Open ブログ

 賃上げを実現するには、政府が(減税という形で)補助金を出す必要などはない。単に時短を実現するだけでいい。そうすれば、労働供給の不足が生じるから、あとは(市場原理を通じて)自動的に、賃上げが実現するのだ。

 そして、そのことは、現在の居酒屋の状況を見れば、まさしく真実だとわかる。居酒屋では人手不足を通じて、賃金が大幅に上昇した。だから、それと同じことが日本全体で起こるように仕向ければいいのだ。それこそが「経済格差」を縮小する王道なのだ。
 そして、「経済格差の縮小」が起これば、非富裕層の所得が増えて、富裕層の所得が減る。消費が増えて、貯蓄が減る。このことで、持続的な経済成長が達成される。

 そして、この路線を成立させるためには、「供給不足」や「消費増加」という傾向を、ある程度は推進する必要がある。それはつまり、「インフレを容認する」ということだ。
 実際、ある程度の物価上昇は、経済成長のためには不可欠なのである。とすれば、2%程度の物価上昇といわず、もっと高い物価上昇をも容認するべきだろう。そして、そのためには、「インフレが怖い」というインフレ恐怖症を、克服する必要がある。
 朝日新聞社の記者は、「インフレが怖い」というインフレ恐怖症にとらわれている。ちょっとしたインフレ懸念が見えただけで、「インフレのリスクを過小評価している」と思い込む。実際にはインフレ予防のために利上げしているのに、「インフレ対策をするということはインフレを容認していることだ」というふうに逆方向に解釈して心配する。(もはや論理倒錯だ。)……だが、そういうインフレ恐怖症こそが、経済成長を阻む原因なのである。



 [ 付記1 ]
 実を言うと、経済成長を下げる最大の要因は、少子化である。少子化によって国全体の人口がどんどん減少していけば、国全体の経済規模(GDP)が縮小するのは当然のことだ。……つまり、少子化こそがデフレや低成長の最大の理由なのである。
 そして、少子化をもたらすものは、若者の貧困化だ。そのまた理由は、非正規社員が増えたことだ。そのまた理由は、低成長が続くことだ。
  → 少子化の原因は意外にも……: Open ブログ

 ここでは、次の二重性が成立する。
  ・ 低成長の理由は、少子化だ
  ・ 少子化の理由は、低成長だ

 まるでニワトリと卵のような関係がある。それは相互依存的で循環的な関係だ。そして、これを解決するには、そのどちらか一方だけを解決するのではなく、双方をともに解決するしかない。
 ただし、少子化の問題を実際に解決するには、出生率が上がってから生産年齢人口があがるまで、20年ほどのタイムラグが必要となる。となると、当面は低成長の問題だけを解決するべきだ、となる。
 そして、そのためには、低成長の状況を脱する必要がある。そのとき、インフレを過度に恐れるというインフレ恐怖症を克服する必要もある。

 居酒屋業界では、人手不足を解消するために、賃上げが起こりつつある。これにともなって、居酒屋業界では値上げも起こるだろうし、インフレ傾向にもなるだろう。だが、そのとき、「インフレは怖い」というふうに言い出さないことが大切だ。やたらとインフレを恐れると、日本はすでに 30年以上も続いた不況から、いつまでも脱せなくなるだろう。
 
 [ 付記2 ]
 居酒屋業界では、「時短による労働者不足」が起こるかわりに、「解雇による労働者不足」が起こった。と同時に、「外国人労働者がいなくなったことによる労働者不足」も起こった。
 これは参考になる。労働者の賃上げをもたらすには、外国人労働者の流を阻止すればいいのだ。そのことで、賃金コストは上がるが、代わりに消費の額も増えるから、日本は経済成長の道を取れるようになる。
 「コストの低下」ばかりを目指していた日本式経営こそ、日本経済の低迷をもたらした張本人だ、とも言えるだろう。(賃金不足による消費不足を招いたので。)

 ちなみに、経営者視点では、次の見解がある。
 自動車産業は自由に世界に市場を求め、世界各地で低コスト・高品質の部品を生産・相互供給する分業を通じて発展してきた。
 (今後の)コスト上昇分を吸収することは容易ではない。従来の継続的なコスト低減努力では足りない。車体や部品の材料や工法の転換や、ビジネスモデルの転換を伴う革新的コスト削減策が問われる。
 (経済気象台)革新的コスト削減への挑戦:朝日新聞 12月24日

 ここでは「コスト削減」のことばかりを重視している。「高品質の商品を作って、高収益の体質にする」というような発想は、微塵も見られない。こんな発想だと、日本はどんどん途上国化していくしかないし、先進国からは脱落してしまうだろう。
 日本がめざすべきは、「コスト削減・賃金切り下げ」ではなくて、「高品質化・高収益」である。そのことを理解できないと、日本は没落するばかりだろう。

 ――

 一方で、次の見解もある。
 与党の新しい賃上げ減税案が示された。……しかし、その評判は必ずしも芳しくない。
 根底には、賃金をコストとしてしか捉えていないことがある。だから、企業は賃金抑制で収益を確保しようとする。
 1990年代末以降の長期低迷の中で、企業はイノベーションによる付加価値創出でなく、非正規雇用の拡大など様々な手立てで賃金を抑え、収益率上昇を図ってきた。
 しかし、賃金をコストとしてのみ捉え、従業員が生み出せたはずの新たな製品やサービスではなく、賃金抑制によって収益拡大を目指す経営者の姿勢は、企業の将来を担うべき若者世代から意欲と期待を奪い、将来不安と諦めを募らせる結果を招いている。換言すれば、人こそが成長の源泉との認識が失われたために、企業の成長力と革新力が劣化し、経済も低迷したのではなかったか。
 そのような経営者の認識が変わらないと、いつまでたっても賃金は上がらない。
( → (経済気象台)何が賃上げを阻むのか:朝日新聞 12月21日

 これは本項の主張に合致する。世の中には賢明な人も少しはいるようだ。



posted by 管理人 at 21:06 | Comment(0) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。