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かつてバブル崩壊という政策があった。それと並ぶほどの超大規模な愚策となる政策がなされつつある。それが現在の日銀の政策だ。日本経済はバブル崩壊の再来に見舞われ、致命的な地獄状態となるだろう。これは冗談ではない。
かつて「キャピタル・フライト」という言葉とともに、「日本経済の崩壊」を予想する声が上がったとき、「そんな馬鹿なことはない」と私は打ち消した。「突発的な相変化」のような事象は、通常は発生しないからだ。
しかし、現在の日銀の政策は違う。現在の日銀の取っている政策は、バブル期の日銀の政策と同種のものである。したがってそこからはバブル崩壊と同様の事態が発生する。何の不思議もない自明のことだ。しかし、バブル期の最中には自明のことに気づかなかったように、今現在も日銀は自明のことに気づかない。単に「低金利政策は日本経済に有益だ」と信じて、無限の金融緩和政策を取っている。ちょうど、バブル期と同じように。当然ながら、その結果もバブル崩壊と同様になるだろう。
以上は、結論だ。以下では詳細を述べよう。
(1) 市場原理
まず、基本は「市場原理」だ。市場原理に従えば、状態は最適状態で決まる。特におかしなことは起こらない。これが原則だ。
だから、「キャピタル・フライト」というようなことが起こるという心配も、普通は否定することができる。そういう突発的な事態が起こる前に、市場ではなだらかな変化があるからだ。市場原理に従う限り、突発的な事態が起こるはずがない。
(2) 指値オペ
ところが現在、日本経済が不安定化して、景気が悪化しているので、金利は上昇気味である。国債価格は下落気味である。ここで日銀は、「景気悪化を防ぐには金利上昇を防ぐべきだ」と考えた。そこで金利を引き下げるため、「国債を買い上げる」という方針を取った。
ここまでは普通の政策だ。特に不思議ではない。問題は、そのあとだ。
通常なら、日銀が介入すれば、金利は下がる。ところが現在は、日本経済の悪化がひどいので、金利上昇の圧力が非常に強い。そうなると、日銀がちょっと介入したぐらいでは、金利水準を低い水準で維持できない。どうしても大規模な介入が必要となる。それも、ちょっとやそっとではない、非常に大規模な介入が必要となる。そこで日銀は「無限介入」という方針を決めた。それが「指値オペ」である。つまり、価格を先に決めたあとで、量は上限なしで無限に増やす、という方針だ。
そもそも「指値オペ」って、なんですか?
「指値オペ」は、日銀が利回りを指定して(=指値)、国債を無制限に買い入れる措置です。
( → 指値オペって、なに? なぜ円安に? | NHK )
こうして日銀は無限介入を決めた。
(3) 市場原理の否定
無限介入とはどういうことか? これは事実上、国家による価格統制である。ここではもはや「市場原理」は成立していない。たしかに市場は開かれているが、「市場における最適点(均衡点)による安定状態」というものは成立しない。「無限」というものが入り込んでいるので、「有限の値で均衡」という状態が成立しないのだ。ここでは「最適点による安定状態」ということも成立せず、原理的な不均衡状態となっている。と同時に、不安定な状態にもなっている。
市場原理が否定されているのだから、そうなるのも当然だと言える。
(4) 投機資金の流入
均衡状態が成立しないというのは、どういうことか? こうだ。
・日銀は、適性価格(均衡価格)よりも、高い価格で買い上げる。
・ ならば、日銀に過剰な高値で売りつけて、差額を儲けることができる。
・ そこに海外投資資金が、巨額の金を投入して、巨額の差益を得る。
具体的に言えば、「国債の先物を買ってから、国債の現物を日銀に売る」というふうにする。このことで、海外投資資金が、巨額の差益を得る。
しかも、資金の規模は巨額だ。1兆円や2兆円どころではない。何十兆円もの巨額の投資資金が注がれる。そして莫大な差益を得るのだ。
このとき、海外の投資資金が差益を得た分、日本は損をする。ゼロサムなのだから、当然だ。
では、その損は、どこが負担するか? 日銀だ。そして、日銀が損をするということは、日本国民全体が損をするということになる。それも、「円の価値が減る」という形で。もうちょっとはっきり言えば、「物価が上昇する」という形で。
(5) 経済崩壊
以上の損失は、少しずつ起こるのならば、特に大きな問題とはならない。「円安」は「物価上昇」は、少しずつ起こるのならば、現状では当然のことだから、別に騒ぐほどのことではない。(これまで日本は 1000兆円の借金をしていても、平気な顔をしていられたのは、そういうわけだ。)
恐ろしいのは、このあとだ。
なるほど当初は、海外の巨額の投資資金が流入しても、その時点では、特に大問題は起こらない。日銀に巨額の国債が入って、市中に巨額の現金があふれるだけだ。その巨額の現金は、回り回って、銀行の口座に戻ってくるから、特に何事も起こらない。
しかしその状態はいつまでも続かない。日銀にとんでもない巨額の国債が貯まると、国債そのものの信用が毀損する。これまでは「日本国債は政府の裏付けがあるから」という信用で安心感を与えていたが、日銀にとんでもない巨額の国債が貯まると、「その国債は本当に償還してもらえるのか?」という疑いが発生する。となると、これまでの信用は一挙に毀損する。A級だった国債が、B級や C級になる。となると、国債の価格は暴落する。その暴落を防ごうとして、日銀が国債を買い上げれば、市中にはとんでもない量の現金があふれるので、一挙にハイパーインフレとなる。かつてのジンバブエのように。あるいは、レンテンマルクのころのドイツのように。
これはつまり、バブル崩壊以上の、最悪の状態が来るということだ。当然ながら、倒産と失業もあふれかえる。バブル期以上に大量の失業者があふれることになる。あなたもまた、失業して、路頭に迷うことになりそうだ。家のローンが残っていれば、そのローンを払えずに、自宅を手放して、流浪の民になることになる。
(6) まとめ
最後にまとめを述べよう。
日銀は景気維持のために「量的緩和」という方針を取っていた。それは有限の介入であれば問題はなかった。ところが今回、経済状況の悪化にともなって、無限の介入をすることに決めた。しかし無限の介入は、市場原理を崩壊させる。そのせいで、均衡や安定という状態から外れる。そこに付け込んで、海外から途方もない巨額資金が襲いかかる。それに対抗して、なおかつ無限介入を続けると、日銀には途方もない国債が貯まるので、国債への信用が毀損する。いったん信用を失うと、国債はもはや価値を失い、ハイパーインフレ状態となる。かくて日本経済は破綻する。「 1000兆円の借金をして、安穏と暮らしていた」という生活は不可能となり、「今すぐ 2000兆円の借金を返済しろ」と責められる。その間にも物価は1時間ごとにどんどん上昇していく。
かつてのバブル破裂は、日銀による「準・無限介入」のせいで、巨額のバブルが発生したことが原因だ。しかし今回は、それ以上だ。日銀による「準・無限介入」ではなく、日銀による「無限介入」がなされる。そうなると、それによる日本経済の崩壊は、バブル破裂をしのぐ大規模なものとなる。しかも、それは必然なのだ。
※ これを防ぐ唯一の策は、「無限介入」という方針をただちにやめることだ。やめずに続けると、バブルのようなものがどんどん膨らんで、最後には、日本経済が破滅する。今の日銀は、そういう狂気の政策を取っているのだ。
【 関連サイト 】
本項の話は、本サイトの独自意見ではない。二つの意見を組み合わせて、一つに統合したものだ。
話の前段は、 (4) のことである。このことは、次の記事と同趣旨だ。
→ 日銀、永久指値オペで自滅 日本敗戦 | 小幡 績
話の後段は、 (5) のことである。このことは、次の記事と同趣旨だ。
→ 日銀の債務超過危惧 1ドル500円、国債投げ売りも 藤巻健史さんが語る「悲観論」
この二つの記事を統合して、かつ、最初に「市場原理の否定」という基礎的原理の話を導入した。こうして全体を統一的に説明した。
より細かな各論は、(4)(5)の点を説明した上記記事(二つ)を参照してほしい。
金利を上げる気は無さそうですし、増税は無理でしょうし、タンク法の実施も無いでしょうし。
庶民としては、円安の流れに追随するしか生活防衛手段が無いです(苦笑)
引用元から転記
「国内でインフレが進行すれば、短期政策金利を引き上げねばならないが、現状では日銀当座預金への付利金利の引き上げしか方法はない。539兆円もの巨額の日銀当座預金残高に付利すれば、1%ごとに5・39兆円もの金利支払い増となる。20年度の日銀の純利益が約1兆4500億円で、損失に備えるための引当金勘定等が10・8兆円しかないのだから、政策金利を引き上げれば赤字決算となり、債務超過に陥りかねない。」
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211005/se1/00m/020/025000c
日銀の介入は円高が見えてきた時点でやめていけばいいだけのことです。
円安のデメリットと金融介入に過敏に反応しすぎなのではないですか。
今はまず円安のメリットを可能な限り享受できるよう動くべきでは。
https://shinjukuacc.com/20220608-03/
(今回は円安関連の話に絞っていただきたい)
また、通常規模の是非ではなく、「限度額なしの無制限介入」という方式に絞った話題で是非を論じています。
それ以外の話は、本項の対象外です。
現実には、「市場は円高になりつつあるのに、日銀が無制限に介入して円安に導く」というのとは逆に、市場そのものが円安に進みつつあります。
もしかしたら、日銀のせいで、日本経済に信用崩壊が起こっているのかもね。皮肉だけど。
「日銀のせいで日本がデフォルトに」なんてことにならないといいが。
https://shinjukuacc.com/20200407-03/
https://shinjukuacc.com/20220609-02/
それとやはり円安への介入は現状必要だと思います。バブル関連の時期とは「プラザ合意」の件とは経緯が異なりますし、ウクライナ侵攻などで情勢が違いますから、コロナが相対的におとなしくなってきた今こそ経済刺激の一環として要すると思います。
輸出による歳入の増額と合わせて原発再稼働などによる燃料輸入の抑制、減税、中小企業の再編と同時にやるべきことも多いですが、それらの契機の一つとして必要かと。
もちろんデメリット・リスクも加味して、ですが。
https://www.businessinsider.jp/post-253600
https://www.businessinsider.jp/post-253404
https://www.businessinsider.jp/post-253159
円安が有効なのは、企業が得た利益を投資に回す場合だけです。ゼロ金利の状態では企業の投資意欲が足りないので、企業の利益を増やす政策はすべて状況を悪化させます。
やゼロ金利の解除は後回しにするのが望ましいかと。
現状は緊縮財政からの脱却のために、単なるカネの流れだけではなく、様々な体制の改革を行うための期間と捉えなければならないでしょう。勤めている人達の給与の向上や設備投資、代理店を介さない・あるいは最小限にとどめるなど、あらゆる業界が体制変換としなければならないでしょう。
まだ前回のコメントの引用元のように、日本の総資産からも円安で信頼を失うにはもうしばらく時間はあるでしょうから、まずはパラダイムシフトかと。
比喩的に言えば、個人所得税を大幅に引き上げて、法人税を大幅に下げることに相当します。国民から企業への所得移転。これで企業は大喜びになる。
ま、自民党の方針は、それで一貫している。
> 緊縮財政からの脱却
歳入の倍額も歳出があるのに、緊縮財政のはずがないでしょ。
日本経済低迷の理由は、財政が理由ではない。所得が国民から企業に移転してしまっているせいで、国民が貧しくなり、消費が縮小していることだ。
この所得配分比を買えない限り、経済は好転しない。
ガソリン二重課税の継続や消費税導入、限定的な経済出動などの緊縮財政も一旦です。
今必要なのは、企業への締め上げではなく、企業の労働者への売上分の還元です。長く続くコストカット意識の改革のための動きです。
(賃金改善もまずはココ)
今円高に戻っても、改善のための動きにブレーキがかかり思うような改革は非常に難しくなります。
最終的には国民個々人へ還元することですが,まず企業を積極的に動けるようにしなければ、まともに経済は動かず緩やかに死ぬしかないかと。
現状の物価はコロナによる物流ダメージの余波が大きい原因ですし、円相場と賃金の高低を直結させる視点は間違いです。
ゼロ金利も現状では解除しても効果は薄いかと。