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物価上昇率が高いから、物価抑制のために金利を引き上げる……というのが、米国の方針だ。
一方、日本では、物価上昇率は米国ほどには上がっていないから、同じ理屈は成立しない。だから景気対策を優先して、ゼロ金利政策を続ける……というのが、日銀の方針だ。
だが、私は「これは間違いだ」と評価する。理由はこうだ。
「物価上昇率が高い状態で、ゼロ金利政策を続けると、実質的にはマイナス金利になる。それは好ましくない」
実を言うと、「物価上昇率が高い状態で、ゼロ金利政策を取ると、マイナス金利になる。これで流動性の罠を脱せる」というふうに唱えたのは、クルーグマンだ。その意味で、日銀の政策は、クルーグマンの説を実行しているとも言える。
しかし私はクルーグマンの説は正しくない、と考える。なぜなら日本で投資が少ないのは、需要そのものが弱いからだ。この状態で設備投資を増やす企業はほとんどないだろう。
とすれば、投資は資産投資に向かう。結果的には、設備投資は増えずに、「不動産投資」と「海外資金投資」に向かう。後者は、「円安のときにドルを買う」という方向に進む。実際、現在、ドル預金が大幅に増えている。
→ ドル定期預金、円安で急増 米の大幅利上げ受け、金利上昇:朝日新聞
こうしてドル預金が増えて、ドル買いが増えると、そのせいでますます円安が進む。
→ NY外国為替市場 1ドル=148円台後半 約32年ぶりの円安水準更新 | NHK | 株価・為替
→ 円安どこまで? 専門家がみる節目は150円 再介入の可能性も:朝日新聞
こうして円安がどんどん進むから、国内の輸入物価はどんどん序章する。
→ パソコンが大幅値上げ: Open ブログ
その一方で、賃金は上昇していない。
→ 上がらない賃金「日本だけが異常」 求められる政策の検証:東京新聞
この点で、「物価が上がれば賃金も上がる」という日銀の思惑はまったく外れている。
→ 物価は上がっても賃上げ広がらず ジレンマの日銀、金融緩和継続へ:朝日新聞
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結局、「物価上昇が起これば賃金が上昇して景気回復が起こる」という日銀の思惑(マネタリズムべったりの思想)は、まったく外れているのだ。日銀の政策はマネタリズムによって運営されているのだが、その方針そのものがまったくマトはずれなのだ。そのことを日銀は理解するべきだ。
景気の調整のためにはマクロ経済学(経済の実需を考える政策)が必要なのに、「マネーを調整するだけで景気を調整できる」と思い込む単細胞的なマネタリズムは誤りなのだ。なのに、そのマネタリズムにこだわるから、日銀は政策を間違える。
今の日本に必要なのは、金利だけで経済を動かそうとする単細胞的なマネタリズムではない。なのに、マネタリズムに従えば、異常な低金利のせいで、日本は「バブル(資産インフレ)への道」を進みかねない。それは日本経済をふたたび破綻へ導く道だ。
バブルになれば、そのときは「儲かる、儲かる」と喜んでいられる。しかしそのあとに残るのは「莫大な無駄遣いのあとの荒廃」である。今の日銀は、日本を荒廃に導こうとしているのだ。
【 追記 】
「景気が回復していないのに、金利を引き上げて、金融を引き締めると、景気が悪化する」
という反対論がある。しかしこれは誤解だ。(そこが人々の勘違いしているところだ。)
正しくは?
物価が上昇するということは、貨幣価値が低下するということだ。したがって、貨幣価値を低下させないためには、物価上昇率の分、金利を付けることが必要だ。
つまり、物価上昇率が2%のときには、金利が2%になって初めて、貨幣価値の低下を免れるので、このときが中立的となる。金利が2%を上回れば金融を引き締める効果が生じて、金利が2%を下回れば金融を緩和する効果が生じる。
したがって、金利を2%に上げたとしても、金融を引き締める効果は生じないし、景気を悪化させる効果も生じない。単に中立的であるだけだ。
物価上昇率が0%のときの金利ゼロ(または金利1%)と、物価上昇率が2%の金利ゼロ(または金利1%)とは、まったく意味が異なる。なのに、そこに気がついていないのが、日本の金融当局だ。
米国ではコアCPIと呼ばれ、日本ではこれをコアコアCPIと呼んでいます。
つまり、「エネルギーや生鮮食品などを除いた消費者物価指数」です。
日本のコアコアCPIはまだ2%程度であり、金融引き締めを行うほどには上昇していません。
このまま金融引き締めを行えば、デフレになり、失業率が上昇します。
また、需要不足に対しては、金融政策だけでなく、政府の財政政策でも対応する必要があります。
実際、内閣府が発表したデータによると、GDPギャップは20兆円もの需要不足であることが明らかになっています。
そこが人々の勘違いしているところです。最後に解説しました。 【 追記 】 の箇所。