◆ 黒田・日銀総裁の総括 .2:  nando ブログ

2023年04月26日

◆ 黒田・日銀総裁の総括 .2

 ( 前項 の続き )
 前項の話を経済学的に説明する。

 ──

 前項では最後の [ 付記 ] で、経済学的な話を簡単に示したが、説明不足だと感じる人も多いだろう。そこで、経済学的に詳しく説明する。(初心者向け)
 

 需給曲線


 経済学の初歩では「需給曲線」というものを学ぶ。


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 これは、中学の教科書にも書いてあることなので、誰でもすぐに理解できるだろう。理解できなければ、中学生向けのページで学んでほしい。
  → 【中学公民】「需要曲線と供給曲線」
  → 「価格と需要・供給の関係」のグラフの見方|進研ゼミ中学講座

 このグラフからわかるように、次のことが言える。
  ・ 需要は価格が上がると減る。
  ・ 供給は価格が上がると増える。
  ・ 双方の一致する交点がある。そこが均衡点だ。


 このことから、「市場では均衡点で需給が一致する」と言える。その調整は価格の変動によってなされる。(ワルラス的調整過程という。)

 これを原理として、「放置すれば市場において自動的に均衡が成立する」と主張する立場がある。その立場を「古典派経済学」という。(そのうちで新しいものを「新古典派経済学」とも言う。いずれにせよ、「自然に均衡が成立する」という立場だ。したがって「自由放任で市場原理に任せるのが最善だ」という結論になる。)

 不均衡


 古典派経済学に従えば、需給は自動的に一致して、均衡状態になるはずだった。
 ところが現実には、それに反する事態が起こった。それが「不況」である。不況のときには、「需要が供給よりも少ない」という事態になる。

  均衡 :  需要 = 供給
  不均衡:  需要 < 供給


 つまり、古典派経済学の主張は成立しないことになる。

 このことを認めて、古典派経済学を否定したのが、非古典派経済学だ。
 一方、このことを認めずに、あくまでも古典派にこだわる立場もある。つまり、こう述べる。
 「需要と供給は本当は一致するんだ。理屈はあくまでも正しいんだ。だけど、現実には一致していないように見える。それはたまたま、均衡を阻害するような状況があるからにすぎないんだ。そのような阻害をする状況を排除すれば、均衡は現実でも実現するはずなんだ」
 こう主張するのは、学問的には「新ケインズ派」と呼ばれている。これは、ケインズの主張とはほとんど正反対というぐらい対極的な立場なのだが、なぜか「新ケインズ派」と呼ばれている。左派のケインズに対するネトウヨみたいなものなのだが。ともあれ、これは古典派の一派だ。(「負け惜しみ主義」と言ってもいいくらいだが。)

 ただし、古典派があくまでも均衡にこだわるには、理由がある。需給曲線を原理とする限り、均衡は必ず達成されるはずだからだ。需給曲線というモデルが正しいからには、均衡は必ず達成されるはずなのだ。それが古典派の立場だ。
 では、なぜ、現実には不均衡が成立するのか? それは需給曲線のモデルに反するのではないか? それが謎となった。

 下限の存在


 そこでこの謎を解決するのが、「泉の波立ち」(本ブログの前身)だ。そこでは、次のように説明した。
 「需給曲線で均衡が成立するためには、価格が変動する必要がある。特に、需要不足のときには、価格が下がる必要がある。ところが現実には、価格には下限が存在する。その下限以下には、価格が下がらない」

 具体的には、次の例だ。

 (1) 商品市場では、商品価格に「原価」がある。原価よりも価格が下がると、原価割れになるので、生産できない。だから、価格は原価よりも下がらない。原価が下限となる。

 (2) 金融市場では、価格は金利で表示される。金利には「ゼロ金利」という下限がある。これよりも金利が下がることはない。
( ※ ゼロ金利で金を貸し出すことはあっても、マイナスの金利で金を貸し出すことはない。もしそんなことが許されるなら、誰もが莫大な金を借りて、しかもその金の一部は返さないでいいことになる。合法的な踏み倒しだ。そんなことが容認されたら、経済は破壊される。国中が詐欺師だらけになる。)

 (3) 労働市場では、価格は賃金で表示される。賃金には「最低賃金」という下限がある。これより賃金が下がることはない。

 ──

 以上のようにして、いずれにおいても、「下限」があることが示された。
 価格には「下限」がある。とすれば、下限よりも下方に均衡点がある場合には、その均衡点には到達できないことになる。こうして「需給曲線の不成立」ということがモデル的に説明された。

 トリオモデル


 すぐ上に述べたことは、グラフで示すことができる。下図だ。


image41.gif


 この図には、需要曲線・供給曲線・下限直線という三つの線が記してある。
  ・ 需要曲線 …… 右下がりの曲線
  ・ 供給曲線 …… 右上がりの曲線
  ・ 下限直線 …… 水平の直線


 通常は、右の図のようになる。つまり、下限直線よりも均衡点が上にある。この場合には、均衡点において均衡が実現する。
 不況期には、左の図のようになる。つまり、下限直線よりも均衡点が下にある。この場合には、均衡点において均衡が実現しない。なぜなら、下限直線より模したの領域には到達できないからだ。(理由はすぐ前に示した通り。)

 このように図で示すことができる。このモデルを「トリオモデル」と呼ぶ。(三つの要素があるから、この名前にする。)

 なお、もっと詳しい説明は、下記にある。
  → トリオモデル : nando ブログ
  → ニュースと感想 (23) 7月27日

 流動性の罠


 トリオモデルを特に金融市場に適用したのが、「流動性の罠」という概念だ。
 この概念は、もともとはケインズが提唱したものだが、クルーグマンが金融市場における不均衡の原理として説明した。それをトリオモデルによってわかりやすく説明したのが私だ。
 クルーグマンの提唱した「流動性の罠」という概念は、トリオモデルによって簡単に説明される。
 「金融市場では、不均衡が起こることがある。需要の縮小(需要曲線の左移動)によって、均衡点が下限直線よりも下方に来た場合だ。この場合、金利はゼロ金利よりも下がらないので、均衡が達成されることはない」
 これは、クルーグマンの主張したことと同じだが、トリオモデルを使うと簡単に説明できる。

 解決策


 不均衡が起こったときには、どうすれば均衡が実現するか? 
 古典派が考えたのは「下限の撤廃」だ。下限が邪魔なのだから、下限を撤廃すればいい。
  ・ 商品市場ならば、コストカットすればいい。特に、賃下げをすればいい。
  ・ 労働市場ならば、最賃を下げればいい。どんどん賃下げすれば、失業はなくなる。
  ・ 金融市場ならば、金利を実質的にマイナスにすればいい。


 クルーグマンが考えたのは、上の最後の方針だ。具体的には、こうだ。
 「将来のインフレを公約する(インフレ目標を導入する)ことで、ゼロ金利を実質的なマイナス金利だと思わせる。物価が2%上昇するのに、金利がゼロ金利ならば、実質的にはマイナス2%の金利になる。これならば、お金を借りた方が得になる。だから、将来のインフレを公約すればいい。そして、そのことで経済がうまく循環すれば、まさしくデフレを脱することができる」

 これが「インフレ目標」という政策だ。黒田総裁はこの主張に乗った。そして、その結果は? 見事な大失敗だ。つまり、クルーグマンの主張は大ハズレとなった。

 ※ 黒田総裁の方針が失敗することは、2002年の時点で、すでに予告されていたわけだ。今から 21年も前の話だ。そして、そのときから 12年後に黒田総裁が「インフレ目標」という政策を取り、その9年後の現在において失敗が歴然としたわけだ。(実は数年前からわかっていたけどね。)

 ※ ついでだが、「黒田バズーカ」による「資金供給の大量投入」という方策は、「供給曲線を右移動させる」という方針だ。この方針は、好況期には「均衡点を右下に下げる」という形で、「低金利と景気拡大」という結果をもたらす。しかし不況期には、「不均衡状態」という無意味な状態を拡大させるだけだ。

 マクロ経済学


 では、不均衡が起こったときには、どうすればいいのか? 
 ここで、「需給曲線による均衡」とはまったく別の発想がある。それはケインズ経済学だ。
 ケインズの経済学は次のことを示す。
  需要増 → 供給増 → 所得増 → 需要増 → ……

 こういう形で、次々と増加のスパイラルが生じる。これは、「循環効果」と言ってもいいし、「波及効果」と言ってもいい。
 このような効果は、「個別商品の市場」では成立しないが、全商品と全所得を考える「一国全体の経済」でなら成立する。大きな市場における経済学であるわけだ。(だから「マクロ経済学」という名称がある。)

 そこで、最初に所得増加をもたらせばいい。つまり、多額の給付金を出せばいい。そうすれば、以後は増加の循環が起こる。次のように。
  所得増 → 需要増 → 供給増 → 所得増 ……

 こうして経済規模が拡大する。つまり、好況になる。かくて、不均衡を脱して、通常の状態に戻れる。
 いったん通常の状態に戻ったら、すでに均衡状態が達成されているので、あとは通常の方法に戻ればいい。(金利による景気制御。)
 
 ──

 なお、マクロ経済学の方法を、需給曲線で説明すると、こう言える。
 「不均衡状態のときには、下限直線を撤廃せよというのが古典派の発想だが、そうではなく、別の方法がある。それは、需給曲線を右移動させる、ということだ。
 古典派経済学の発想では、需要曲線は所与のものであり、変動させることはできなかった。なぜなら、所得は一定だからだ。
 しかし、政府が巨額の一時金を給付すれば、一時的に所得を増やすことができる。そうすれば、需要曲線を右移動させることができる。かくて、均衡点を下限直線の上に出すことができる。こうして均衡が実現する」

 ──

 より詳しくは下記。(前項でも記した。)
  → 景気回復の方法は? (総需要の拡大) : nando ブログ
  → 需要統御理論

 さらに本格的な(専門的な)説明は、下記にあります。
  → 経済学講義 : nando ブログ (巨大文書。1.4MB )
 
posted by 管理人 at 23:25 | Comment(0) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
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