◆ 日銀は敗北宣言せよ:  nando ブログ

2023年06月07日

◆ 日銀は敗北宣言せよ

 日銀は「物価上昇率2%で景気回復」というシナリオが崩れたことで、敗北宣言を出すべきだ。

 ──

 日銀は「物価上昇率2%で景気回復」というシナリオを取っていた。これは黒田総裁の方針だったが、引き継いだ植田総裁もまたその路線を踏襲している。
 日本銀行の新総裁に就任した植田和男氏は10日の会見で、「前体制からの大規模緩和を継続する」と述べ、2%の物価上昇目標についても維持することを明言した。
 そのうえで「バトンを受け取って5年間に、できれば(2%の)目標に到達するように全力を挙げたい。副作用にも配慮しながら、様々な政策措置をとっていきたい」と強調した。
( → 植田日銀新総裁「大規模金融緩和を継続」 2%の物価上昇目標も維持:朝日新聞 2023年4月10日 )

 大規模な金融緩和を続ける一方、植田氏は「資源高に起因する物価高でも、賃金上昇やインフレ(物価上昇)期待があれば、政策変更になる」と語った。物価上昇率の目標「2%」にこだわらず、政策の修正・変更に柔軟に対応する考えを示したものだ。
 植田氏はインタビューで、金融緩和の前提とする物価2%目標について、「(実績値との)コンマいくつの差より、上昇率が持続的・安定的であるかどうかの判断の方が重要だ」と述べた。資源高ですでに国内の消費者物価の上昇率は2%を超えている。日銀は安定的な2%超えでないとして金融緩和を続けてきたが、植田氏は、柔軟に金融引き締めに動く可能性を示唆した。
( → 日銀の植田総裁、物価「2%」目標にこだわらず…「上昇率が持続的・安定的かの判断が重要」 : 読売新聞 2023/05/25 )

 4月10日の時点では、物価上昇率 2% はすでに実現していたが、短期的であって持続的ではないという理由で、金融緩和を続けた。
 5月25日の時点では、物価上昇率 2% はもはやかなり長く続いていることが判明しつつあったので、金融引き締めに動く可能性を示唆した。

 ──

 さて。一方で、前日の項目(Open ブログ)では、こう記した。
 物価上昇のせいで、実質賃金が 3.0% 低下した。日銀は「物価上昇率 2%をめざす」と言っていたが、そのあげく、このざまだ。

 日銀が「物価上昇率 2%をめざす」と言ったときには、賃金も同率以上で上昇することを含意していた。つまり、インフレだ。
 現実には、実質賃金は大幅減だ。

 「労働者は貧困化しているが、企業はボロ儲け」という状況だ。これはつまり、「労働分配率が低下している」「貧富の格差が拡大している」ということだ。
 この状況こそが、現在の経済の本質である。

( → 物価上昇で実質賃金低下: Open ブログ

 ここから、何がわかるか? こうだ。
 「物価上昇によって景気回復が実現する」という期待は、もはや完全に破綻した、ということだ。日本経済が長いデフレ期を経ていたときには、物価下落にともなって景気悪化が起こっていると見えたので、物価下落を脱して物価上昇が起これば、景気回復が実現する、と期待された。
 しかし、現実には、上記項目で示したとおり。つまり、物価上昇が起こっても、景気回復は実現しない。期待は叶わないままだ。
 かといって、景気が悪化したわけでもない。企業業績は大幅に改善して、株価は空前の高値になっている。企業の業績だけを見る限りは、「好況だ、喜ばしい」と言える。
 ところが、国民の所得を見ると、「実質賃金が 3%の減少」である。これは 2001年以後のどんなデフレ期よりも、もっとひどい。


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出典:ニッセイ基礎研究所


 1990年以後のデフレ期のデータは得られなかったが、そのころでも「年率 3%のマイナス」になったことはないと思う。最もひどかったのは、2008年のリーマンショックの直後と、2011年の東日本大震災のときで、このときが最大の下落幅があった。それに匹敵するほどの下落は、2005年のときに1度あっただけだ。

 ともあれ、今回の「実質賃金が 3%の減少」というのは、近年では最悪クラスの状況悪化と言える。とうてい「経済政策が成功した」「景気回復が実現した」とは言えない。
 しかるに、「物価上昇率だけは日銀の目標を上回るほど好調だ」と言える。
 以上のことから、こう結論できる。
 「物価上昇率の上昇によって景気回復が実現する、という日銀の目論見は、完全に破綻した」
 と。

 ならば、日銀はそのことを認識した上で、自らの主張を取り下げるべきだ。また、これまでの主張が間違っていたことを認めて、敗北宣言を出すべきだ。

 旧日本軍は、負けても負けても、負けを認めずに、「転進」などと言ってゴマ化し続けてきた。そのあげく、戦況は悪化する筆法で、最終的には「一億総玉砕」などと言い出すハメになった。
 これを見ると、今の日銀とそっくりだ、と言うしかない。いや、今の日銀は、旧日本軍とそっくりなのだ。あくまでも自らの失敗を認めようとしない。
 だから日銀に勧告しておこう。「自らの失敗を認めよ。敗北宣言を出せ。さもなくば日本が滅びるぞ」と。

 失敗したら失敗したと素直に認めればいいのだ。負けたら負けたと素直に認めればいいのだ。それができれば、滅びずに済む。それができなければ、滅びることになる。……日銀は何をしようとしているのか? 自らのメンツを守ることが最優先なのか? 日本という国や日本人という人々を守ることが最優先なのか? どっちなんだ? 
 「そんなの決まっているだろう。自分のメンツが最優先だ。たとえ国が滅びても、自分たちの誤りは絶対に認めないぞ」
 と答えそうだが。

 ──

 なお、日銀が誤りを認めたなら、どうなるか? その場合は、日銀は虚偽を捨てることができたので、真実に到達できるだろう。
 では、真実とは? こうだ。

 (1) デフレ期には、物価下落にともなって景気悪化が起こったのではない。景気悪化にともなって、物価下落が起こったのだ。物価下落はあくまで経済の体温表示であって、経済の本体ではないのだ。体温計の表示を動かせば(体温をうまく調節すれば)、病気が治癒する、ということにはならない。
 (2) したがって、物価上昇率が正常化すれば、経済が正常化する、ということにはならない。話は逆だ。経済が正常化すれば、物価上昇率が正常化するのだ。そのために物価上昇率を左右するというのは、「尻尾が犬を振る」というようなもので、本末転倒だ。
 (3) 治癒すべき目標は、物価上昇率ではなく、経済体質そのものだ。そして、それを調節するのは、日銀の仕事ではなく、政府の仕事だ。
 (4) 政府は経済体質そのものを健全化するべきだ。そのために何よりも大事なのは、国民の所得を上げることだ。国民の所得を上げれば、消費が増えるので、需要が増えて、経済は回復する。(インフレスパイラルという循環が起こるので。)
 (5) ところが現実には、所得が増えるどころか、実質所得の低下が起こっている。このままでは景気は急激に悪化するだろう。政府は一時金の給付などで、景気対策を行うべきだ。
 (6) 景気回復の方策は、本サイトですでに示してある。
  → 景気回復の方法は? (総需要の拡大):  nando ブログ
  より詳しい話は
  → 「需要統御理論」 簡単解説
  → 需要統御理論



 [ 付記 ]
 「日銀は物価の番人だ」としばしば言われる。だが、その意味を誤解している人が多いようだ。
 「番人」というのは、「全能者」や「司令官」というような意味ではない。何もかも自由に決める権限はない。では何ができるか? 門の番人として、流れを止めることだけだ。
 番人は、流れを止めることはできるが、流れを進めることはできない。流れを進めるのは、他の人の役割だ。
 つまり、日銀は、物価上昇を抑制することはできるが、経済を拡大させることはできない。そうするのは政府の役割だ。
 なお、物価上昇を抑制を弱めることで、経済を拡大させる効果が出ることもある。だが、それは、流れの圧力がもともと強い場合に限る。流れの圧力が弱まれば、もはや、抑制をいくら弱めても無効だ。(エンジンブレーキを弱めて加速するのは、下り坂だけだ。上り坂では、エンジンブレーキを弱めても、加速しないのだ。)

 日銀は、物価上昇期には、物価の上昇を抑制できる。流れを止める番人として。
 しかし日銀は、物価下落期には、物価の上昇をもたらすことはできない。番人は、流れを止めることはできるが、流れを進めることはできない。



 【 関連項目 】
 「物価上昇率2%で景気回復」という目標を立てた黒田総裁の評価。
  → 黒田・日銀総裁の総括 .1:  nando ブログ
  → 黒田・日銀総裁の総括 .2:  nando ブログ

posted by 管理人 at 23:32 | Comment(0) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
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