ガソリン価格が急騰しているので大変だ、というニュースがあふれている。
本当にそうか? 円レートとの比較で見ると、本質は別のところにある、とわかる。
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「ガソリン価格が急騰しているので大変だ」というニュースがあふれている。ニュース検索すればすぐにわかるが、たとえば、J-CASTニュース。
ここで、もっとしっかりと数値で調べてみよう。
(1) ガソリン価格
国内のガソリン価格の変動は、次のサイトでわかる。
http://www.nikkeibp.co.jp/feature/080215_car02/
かつては 100円程度だったが、2004年ごろから一本調子で上昇し、最近では(ニュースで話題になるとおり)170円台。近い将来には 200円を突破しそうだという。
(2) ドル・円レート
ここではガソリンは円価格で表示されている。そこで、国際価格との比較をするために、通貨水準の補正を考えよう。そのために、ドル・円レートを見る。
→ Yahoo ファイナンス(ドル)
1999年 〜 2008年の間、1割ぐらいの上下変動はあるが、ほぼ「1ドル=110円」ぐらいの水準で固定されている(安定している)、とわかる。
だから、ドル・円レートの変動は、特に考慮しなくていいだろう。
(3) ユーロ・円レート
一方、ユーロはどうか?
→ Yahoo ファイナンス(ユーロ)
2001年に底打ちしたあと、ユーロは一貫して上昇している。6割ほども上昇している。
その間、ドルと円とのレートはほぼ安定しているから、ユーロはドルに対しても円に対しても、一貫して上昇しているわけだ。
実を言うと、(ここではデータを記さないが)日本と米国以外の大半の国々が、ユーロと同様の傾向にある。米国と日本だけは、経済が悪化している(成長できない)ので、他国に比べて通貨が下がる。その間、他国は通貨をどんどん強める。
(4) 石油価格
では、通貨レートの変動を見ると、石油価格の上昇をうまく相殺できるか? 石油価格の上昇が、ユーロと同様に6割ぐらいであれば、ユーロ圏ではうまく相殺できるはずだが、そうなっているか?
→ 原油価格と経済の行方 [PDF]
石油価格(ガソリン価格ではない)は、こうだ。
2002年には 20ドル程度。
2006年には 70ドル程度。
2008年には 100ドルを突破して、現在では 135ドル程度。
期間をどう取るかで倍率はさまざまだが、20ドルに比べれば 6倍超。70ドルに比べても2倍。
いずれにせよ、同じ期間のユーロの強さ(対ドル)をはるかに上回る。つまり、ユーロの強さで、石油価格の上昇を相殺することはできない。
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結論。
石油価格は上昇している。その一方で、円の通貨レートは弱まっている。円は、ドルに対してはほぼ安定しているが、それ以外の世界各国に対して弱まっている。
仮に円が(ドルといっしょに)弱まることがなく、ユーロと同様の安定性をもっていれば(= 経済状況が悪化していなければ)、石油価格の上昇を、ある程度相殺できただろう。ただし、その相殺の程度は、石油価格の上昇をすべて相殺できるほどではない。
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考察。
さて。このあとが大事だ。
石油価格の上昇をすべて相殺できるほどではないとしたら、円が強まることはあまり意味がないのだろうか? 実は、そうではない。次のことがあるからだ。
「円が強まれば(1ドル=70円ぐらいになれば)、石油価格の上昇をある程度は相殺できる。また、食料価格の上昇も、ある程度は相殺できる。のみならず、さまざまな輸入品すべてについて価格低下をもたらすことができる」
簡単に言えば、次のように言える。
「円が強まれば(1ドル=70円ぐらいになれば)、石油と食料の価格の急上昇をいくらか抑制できるほか、さまざまな輸入品すべてについて価格低下をもたらすことができるので、物価全体ではかえって低下しそうだ」
具体的には、次のようになるだろう。(予想)
・ 石油や小麦は、現状よりも2割安程度。(税には影響せず)
・ 工業製品や加工品は、現状よりも1〜3割安程度。
(アジアの雑貨やコンピュータ、欧州の自動車やバッグ)
総体的に見れば、次のようになる。
「原材料や食料などは、上昇するが、その度合いを弱める。加工品は、かえって値下げする」
その一方で、次のことも起こっているはずだ。
「経済成長にともなって、所得が5割ぐらい上昇する」
つまり、物価の上昇がいくらかあっても、所得はそれ以上に上昇するから、生活の質はかえって改善している。だから、別に、大騒ぎするほどのことではないのだ。
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まとめ。
原油や小麦の価格が上昇していて、世間は大騒ぎをしている。しかし、問題の本質は、そこにはない。
一番大切なのは、経済成長だ。それがあれば、円はドルにつられて低下することもなく、円高になっていたはずだ。そうすれば、原油や小麦の価格上昇をいくらか相殺できるし、他の輸入品の輸入物価を下げられる。
その一方、経済成長によって、所得の水準も上昇するから、生活の質はちっとも悪化しない。
だから、本質は、「経済成長」なのだ。それさえあれば、人々は何も問題なく暮らしていける。なのに、いつまでも景気が悪化したまま、低所得の状態に甘んじているから、輸入物価上昇の直撃を受けて、オタオタするハメになる。
大切なのは、経済そのものを正常化することなのだ。
比喩。
病人は、ちょっとした気温の変動にも、体の状態が敏感に変動する。彼はこう思う。
「今日は寒いから、病状が悪化した。気温のせいだ。地球の気温を上げよ。地球を温暖化してしまえ。そうすれば、おれの健康は保たれる」
しかし、これは、非本質的な発想だ。気温のせいで彼の病状が悪化するというのは事実だが、それへの対処は「気温を上げること」ではなくて、「彼の病気そのものを治すこと」である。
日本もまた同様。石油や小麦の価格のせいで日本人の生活が悪化するというのは事実だが、それへの対処は「石油や小麦の価格を下げること」ではなくて、「日本の経済悪化そのものを治すこと」である。
[ 付記 ]
なお、現状では、景気が悪化しているので、円レートも低い。そして、そのおかげで大幅に黒字を得ているのが、自動車や電子機器メーカーだ。
これらのメーカー(特にトヨタ)は、「自社が優秀だから大幅黒字なのだ」とうそぶいているが、とんでもない。本当は、円レートが異常に低いから、ベンツやBMWやフォルクスワーゲンなどに比べて、圧倒的に低い価格で輸出できるだけのことだ。
要するに、これらの会社は、日本経済そのものにダメージを与えることで、自社だけがボロ儲けしているのである。日本経済がボロボロになればなるほど、自社がボロ儲けする。(ダジャレ。 (^^); )
だからこそ、トヨタは、日本経済の改善に大反対する。労働組合が「賃上げをせよ」と叫ぶと、「国際競争力の維持のために賃上げ反対」と言って、絶対に賃上げを阻止する。(莫大な賃上げ資金があって「いくらでも賃上げは可能だ」とうそぶいているくせに。)
トヨタがこれほどにも賃上げを阻止するのは、日本経済の改善を阻止したがっているからだ。仮に、日本経済が健全化すれば、円レートが急上昇する。そうすれば、日本全体は大幅に得になるが、輸出企業だけは大損だ。
だから、トヨタはあくまで、日本全体の状況を悪化させたがっているのだ。
( ※ ま、人々をシャブ漬けにしたがる暴力団と同じで、社会のダニみたいなものです。)
( ※ で、こういう悪徳企業を「すばらしい輸出企業」と賛美するのが、朝日みたいな新聞。暴力団の提灯持ちをして、おこぼれの広告代をもらいたがっているわけ。三下みたいなもの。)
【 追記 】
「円高と所得増加があれば、原油価格上昇は怖くない」
ということ。これは、少なくとも過去においては、成立してきた。上記の試算は、過去の数年間を見ただけだったが、もっと長い期間を見れば、原油価格の実質価格(名目価格ではない)は上がっていないとわかる。
朝日新聞(朝刊・2面 2008-06-08 )によると、70年代のガソリン価格はこうだ。
・ 第一次石油ショックのとき …… 114円
・ 第二次石油ショックのとき …… 177円
こういう価格は、物価水準を考慮すると、現在の 220〜230円に相当する。
(現在の 170円台という価格は、その価格よりも低い。)
要するに、現在の 170円台という値は、過去の水準よりも低くて、上がってもなお過去における価格よりも低いことになる。
そして、それはなぜかと言えば、「円高と所得増加があったから」である。逆に、これがない途上国では、原油価格上昇が直撃して、暮らしは壊滅的になる。
実を言うと、自動車が日本で普及し始めたころ(今から40年ぐらい前)には、モータリーゼーションという言葉がはやったが、そのころのガソリン価格も 100円程度だった。そのころに比べると所得は圧倒的に高まったが、ガソリン価格はつい先日まで同水準だった。ガソリンはこの 40年間に劇的に下がってきたのだ。
とすれば、今現在の時点では、「ガソリン価格が上がったから大変だ。減税せよ」などと騒ぐのは、とんでもない間違いだ、とわかる。今現在の時点では、ガソリン価格はちっとも上がっていないからだ。(いったん下がったのが元に戻りかけつつあるだけだ。)
問題があるとしたら、このあともどんどん上がりそうだ、ということだろう。それに対する対策さえ取ればいい。
( ※ その対策は → Open ブログ 「資源危機の解決」 )
補いきれない。と思います
投機が悪いとされています
フィスコのレポートによると2006年1月から
2008年4月までに94兆円の資金が商品インデッ
クスファンドに投資された。しかし米国
商品先物委員会は議会証言で、この14ヶ月で
NY原油先物は2倍になったがファンドの建て玉
残は殆ど同じと報告しています
需給もタイトとは言えず、なんで、こんなに
上がるのか理解に苦しむ